第二十四話 シルバラ&ロウvs.新興国家ジーモ

「何故我々と戦う?ジーモ女王、ギンナ!」


「あら、わからない?私たちは反魔族派。この世界の魔族全てを抹殺する。そのためには力が必要なの」


「力...」


まさか。


「...外道め、それで今か」


奴め、それをどこで知った。


「あら。貴方が持っている力も、同じものじゃなくって?勇者ロウ!」


「おっ、おい!これってどういう事だよ」


ヴァルは状況を掴めていない。当然と言えば当然だが...


「ヴァル!君はおとなしくしていてくれ。これは我々の問題だ。シルバラ」


「ええ。"判って"おります。...仕方ないですが」


シルバラは苦い顔をしつつも、飲み込んでくれたようだ。


「行きなさい」


無言を貫いていたジーモの兵士たち。紺色の衣装を纏った、千を優に越えるつわものどもが、一気に動き出す。


「「「「「「応!!全てはギンナ様の意思のもとに!!!」」」」」


「二度と、ヴァルに『そんな思い』はさせない。絶対に守って見せる...『超越加速(オーバーアクセラレート)』」


高速移動魔法により一瞬視界が歪み、その刹那。


「手応え有り...」


100人ほどだろうか、気絶させられた。だがギンナは余裕の表情を崩さず、


「やるわね。でも貴方ならば、そう来ると読んでいた。蘇りなさい、兵士たち!」


「何...?」


気絶させたはずの兵士が、ゾンビのように起き上がる。


「お前、まさか」


「そう。貴方はその立場と心のぬるさから、私たちの兵を殺さない方針で戦うと踏んだの。だから彼らには事前に...」


ニヤ。ギンナの美しい顔が、歪む。


「極限の過負荷を強いる代わりに、その命が果てるまで強制的に動き続ける魔法をかけたの。さぁ、私に勝つことが貴方にできる?」


シルバラもこちらの意図通り、手加減をしてくれていたようだ。だがシルバラが倒してくれた方の兵も、既に起き上がっている。


「何てことない、解呪すればいいだけの話だ...戦いながら解析する。それまで頼むぞ」


「やはり貴方たち二人は無茶苦茶ですね!ですが、悪くはない」


ニッ。背中を預けたシルバラの口角が上がったのを感じる。


「では」


より多くの兵士に接触し、魔法の正体を探るか。


「ぐぇっ」


「ぐっ」


「どほっ!!」


さわる程度に殴りながら、様子を探る。


なるほど。神経回路に直接干渉し、痛みによってシャットダウンされるはずの体の諸機能を強制的に継続させる仕組みか。これなら...


「思ったよりも簡単に行きそうだ。あと、数分もすればきっと。いや」


「それより...問題はあの女王」


戦闘要員でないなら、露骨に狙えない。そう思っていたが、今は最早そんなことを言っている段階ではない。


「お前から直接狙えば問題ない!!」


キン。


「...!」


からだの表面を撫でるつもりだった斬撃とはいえ、これは。


「あら。もっと本気でいらして。わかりますわ、かなり力を絞ったのでしょう」


なんと、シルクの手袋を纏った小指が、斬撃を防ぐ。


「私はね、支配のための力がほしかったの。何故だかわかる?」


「わかりたくもない!さっさと撤退しろ!畜生め」


少しずつ剣撃の威力を上げる。が、ギンナは動じない。全てが指先でいなされている。


「あら?私はね、貴方たちの存在に感化されて力を求めたの」


「何!?」


キン。


上段からの一撃が、今度はクロスされた腕によって防がれる。


「だってそうでしょう?貴方たちの活動やその方針は大陸に混乱を招き、貴方たちの命には多くの魔の手が迫った。にも拘わらず、死ぬどころかかすり傷一つ負わず、自分達が望む世界の形を強引に実現させようとしている」


「何...」


「それは何故か。それは、貴方たち二人が圧倒的な力を持っているからよ。だから私は、何者も寄せ付けない圧倒的な力を以て魔族の一切存在しない世界を実現させるの。そのためならば...人も魔族も利用する」


「がっ!!」


今度は逆に、素手でこちらが吹き飛ばされる。空中で翼を用いて空気の流れを掴み直し、なんとか着地する。


「としたら。やはりお前は..」


「ええそうよ。いくら今の私でも、ヴァルドボルグとロウ二人を相手にしたらひとたまりもないですもの。だからそいつが...弱点を晒す瞬間を待っていたのですわ」


指を指す先に居るのは、ヴァルドボルグ。


「は?お、俺様の!?」


「そう。だから貴方を...くっ!!」


させてはならない。


「ヴァルを傷付ける奴は、俺が許さない」


「狼人、お前...」


ヴァルドボルグが、怒りに顔を歪めるロウを見つめる。


彼の心中には、極僅かではあるが彼への信頼が芽生えていた。


「ようやくその気になりましたわね...痛いですわ」


受け止める手のひらから、血。まだまだ、ギアはあげられる。これなら。


「でも甘いですわ。『傀儡傀儡(くぐつかいらい)』」


「『傀儡傀儡』...最早そのレベルの系統の呪文は僕には効かない」


「そう、貴方にはね。でも残念。貴方ほどの人が、私の狙いに気が付かないなんて」


「...!!」


まさか。


...そんな!!


「そう。精神年齢の逆行は、精神干渉能力の通りやすさを格段に上げる。ヴァルドボルグが魔族として最上級だとしても、これは避けられない運命さだめ


「ヴァル...っ!!精神防御を張るんだ!!」


「あ...うぅっ...」


「ヴァル!!!」


「おほほ!!同じ強さの者同士、相討ちなさい!!そのあと、貴方たちの死体から!!力を貰って差し上げますわ」


「ヴァルドボルグ様、そんな...!!」


シルバラは、兵士を一旦全滅させては、また倒してを繰り返してくれている。だが、相手の兵士もそろそろ限界。


「どう...すれば...どうすればいい!!」


星一つ見えない真っ暗な夜。


ギンナの高笑いが、キーアに響いた。











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