第3話 学校会談(その5)
暗い廊下を歩きながら、ウツボ男は下半身を覆う部屋着のポケットに手を突っ込む。
ざらざらとしたその指先に触れるのは、ドルド丸から引きちぎったアクリルキーホルダー。
とりあえず、この存在は三人から隠さねばならない。
そして、このキーホルダーについてドルド丸と話さねばならない、問い質さねばならない。なぜ、これを持っているのかと。紗登子とドルド丸がどういう関係なのかと。
そのためにウツボ男は“単独行動”に出たのだ。
目指す先はもちろん昨夜の戦場であり、今朝になってキーホルダーを回収した理科室の前。
静かに階段を上がる。
その先にはウツボ男の思惑通り、悪趣味なショーウィンドウの前でなにかを探してさまようドルド丸がいた。
「おい」
ウツボ男が掛けた声にドルド丸が慌てて振り向く。
そして、ウツボ男を視認すると同時に全身を発光させる。
その光が鎮まった時、ドルド丸のかたわらにプリンセス・プラージュの姿があった。
今度はウツボ男が慌てる。
「落ち着け。探してるのはこれだろ」
ポケットから引っ張りだしたキーホルダーを掲げてみせる。
ドルド丸の表情が戸惑った。
ウツボ男は、なだめるようにささやきかける。
「とりあえず、話をしよう。な?」
「話……マルか」
初めて聞くドルド丸の声は、その見た目通りアニメキャラのようだった。
「ああ、話だ。このキーホルダーは返してやる。だから、こっちの話を聞いてくれ」
「わかったマル」
つぶやいたドルド丸の目線を受けてプリンセス・プラージュが後ろへと下がる。
ドルド丸は空中をふわりと泳いでウツボ男に接近すると、すかさずウツボ男の手からアクリルキーホルダーをひったくって距離をとる。
「は、話ってなんマルか?」
キーホルダーを大切なもののように両手で抱くドルド丸に、ウツボ男が問い返す。
「そのキーホルダーはどこで手に入れた?」
ドルド丸が即答する。
「拾ったんだマル」
「拾った?」
予想してなかった言葉に一瞬きょとんとするものの、紗登子が無関係だったことがわかり心中で安堵の息をつく。
「そうだマル。拾ったこれをお守りにしてるんだマル」
言いながらキーホルダーを、喉元を飾るネックストラップに装着する。
「それを作ったのが誰かとか知らないのか」
「そんなの知らないマル。どうでもいいマル」
「そうか」
ウツボ男は考える。
あのキーホルダーは確かに紗登子のハンドメイドだが“拾った”というドルド丸の話が事実なら紗登子とドルド丸に面識はないのだろう。
とはいえ――。
改めて声を掛ける。
「ひとつ、頼みがある」
「なんマルか?」
「今日のところはここでドルド丸を見つけなかったことにしておく。代わりに頼むんだけど、そのキーホルダーを外してほしい」
「どうしてだマル?」
「あいつら三人はドルド丸に協力者がいるんじゃないかと疑ってる。もしあいつらがそのキーホルダーの存在に気付いたら、それを作った女生徒を仲間認定して巻き込むことになるだろう。それを避けたい」
「これを作った人を知ってるマル?」
思わぬ問い返しにウツボ男は答えに詰まる。
「う……」
ドルド丸が畳みかける。
「どういう人マル?」
半ば無意識に答えていた。
「い、いい人だ。優しくて明るくて」
ウツボ男――環士は思い出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。