第11話 バイバイ(その2)
そこへテレインが目を覚ます。
「ふあああああああ。おっはよー。あれ、みんなこんなとこで、でででででで」
慌てるテレインに声を掛けたのはマリイ。
「落ち着け」
「落ち着いてらんないよー。プリンセス・プラージュがいるし、環士がフィーマの乳枕を堪能してるし」
気付いたフィーマが環士を突き放す。
「いつまでもたれかかってんだ」
環士はそのまま地面に崩れ落ちる。
そして、咳き込み、血を吐くとママの衝撃波が直撃した胸元を押さえて苦痛に顔を歪める。
「ママの一撃が……これほど強烈とは、思わなかったよ……」
苦痛の中で無理に作った“苦笑顔”でフィーマにささやき、さらに咳き込む。
その様子にフィーマが慌てて背中をさすろうとするが――
「環士くんっ」
――一瞬早くプリンセス・プラージュが環士のかたわらにヒザをつき、心配そうに覗き込む。
「環士くん、大丈夫?」
環士はぜえぜえと荒い息の下であえぐように答える。
「胸が内側からズキズキする……呼吸が苦しい……死ぬかも」
それでも力なく笑って見せる環士に、プリンセス・プラージュの目が潤む。
「環士くん、死なないで」
そんなふたりから目を逸らすようにフィーマがマリイに向き直る。
「マリイ、頼む」
「任せな」
環士の前でしゃがみこんだマリイは、吐いた血で汚れたワイシャツの胸元にマウントディスプレイ越しに目を凝らす。
「ううううううううむ。なるほど」
そして、深刻そうにうなってからつぶやく。
「ママの衝撃波で胸骨と肋骨と肺と気管と心臓と肺動脈と肺静脈と食道にダメージがある。こりゃダメだな。死ぬな」
「おい」
フィーマがマリイを睨み付ける。
「そんな……」
プリンセス・プラージュが両手で口元を覆う。
「やっぱりか……げほ」
環士が目を閉じる。
しかし、マリイは――
「嘘だ」
――笑って続ける。
「サトコ、いつものあれを」
そう言って拳を突き出して見せる。
思わぬ相手から不意に“サトコ”と呼ばれたプリンセス・プラージュは、弾かれたようにマリイを見る。
そして、気付く。
「あなたは……
そこへテレインが割り込む。
「あたしは? あたし。わかる?」
「……
「せいかーい」
ドルド丸が促す。
「早く“あれ”をぶちかますマル」
「“あれ”でいいのね」
「“あれ”でいいマル」
プリンセス・プラージュが距離をとって身構える。
マリイがフィーマを促す。
「フィーマ。立たせてやれ」
フィーマが環士を立たせて、背後から羽交い締めで支える。
そして、環士の耳元でささやく。
「環士……死ぬな」
環士が答える。
「いや……それどころじゃない」
「?」
「フィーマの胸が背中に当たって」
フィーマの眉間に皺が刻まれる。
「こんな時にまで、そんなことを――」
同時にプリンセス・プラージュが拳を突き出す。
「プロミネンス・インパクトっ」
打ち出された火球が環士に着弾する。
その寸前で離れたフィーマと駆け寄ったプリンセス・プラージュ、そして、マリイ、テレイン、ドルド丸の見ている前で環士の全身が炎に覆われる。
その炎が消えた時、そこにはぽかんと立っている環士の姿があった。
「え? あれ?」
「痛くないだろ?」
マリイに言われて、血に汚れたワイシャツの胸元を自身の拳でどんどんと叩いてみる。
「痛くない。治ってる?」
マリイがマウントディスプレイを下ろす。
「プロミネンスインパクトで混成体化――つまり赤潮男状態が解除されたからダメージも消えたんだよ。今まで通りだろ」
そこへ――
「よかった。環士くん」
――無意識に抱きつこうとするプリンセス・プラージュだが、一瞬早く、環士が和鏡を収めたポケットから漏れる淡い光に目を落とす。
「その中にママが入ってるのか」
「え、うん。そうみたい」
プリンセス・プラージュが改めてポケットから和鏡を取り出す。
耳を澄ませば、鏡面からかすかに声が聞こえた。
「ちくちょう。あと少しだったのに。千年ぶりに外へ出て……もう少しだったのに。どいつもこいつもジャマしやがって……」
改めて環士がフィーマを見る。
「何回も聞くけど……。“ママ”って、なんだったんだ」
フィーマが口を開こうとするより先に鏡面からの声が答える。
「あと少しで声が届かなくなるから教えてやるよ。アタシは地球さ。地球そのものの意思さ。言っただろ? “万物の母”だって。すべてを生み出して育んでいる偉大なる母上様さ」
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