第8話 決 戦(その3)

 次の瞬間、環士は全身を貫く悪寒を感じた。

 不意に現れた、ささやくような声を聞いて。

「よくやった。フィーマ、マリイ、テレイン。そして、赤潮男」

 環士が声の方へと目を凝らす。

 廊下の奥から、王冠を被り全身を折り紙のマントで装飾された一匹のヘビが這ってくるのが見えた。

 慌てて跪くフィーマとマリイをよそに、テレインが声を上げて駆け寄る。

「ママだー。わーい」

 ママの正面でヒザをつくテレインの顔をママ――ヘビが頭を上げて覗き込む。

「テレイン。テレインはママのことが好きかい?」

「あたりまえだよー。大好きだよー」

 直後、周囲は砂嵐に覆われた。

 環士はそれまでと一転した闇に全身を強張らせて息をのむ。

 しかし、闇は即座に晴れる。

 何事もなく戻った視界に安堵の息をつく環士だが、テレインの様子がおかしいことに気付く。

 ヒザをついたままのテレインは足元のヘビをぼんやりと見下ろしている。

 ヘビはぐったりと伸びて動かない――死んでいるように。

 紗登子がドルド丸に問い掛ける。

「なにが……起きてるの?」

 ドルド丸は答えない。

 ただ、震えている。

 その異様な空気に環士もフィーマとマリイを見る。

 ふたりは、ただ、じっとテレインを見ている。

 不意にテレインが立ち上がり、自身を見下ろす。両手を握って開く。全身の関節をぐるぐると動かす。まるで身体感覚を確かめるように。

 そして、足元に転がるさっきまでママだったヘビの死骸を踏みつけて笑う。

「きひ、きひひ。きひひひひひ……あははははははははははははははははははは」

 夜の校舎を哄笑が満たす。

 その中でマウントディスプレイを装着したままだったマリイがつぶやく。

「テレインにママが憑依した」

 そこへ紗登子とドルド丸の悲鳴。

「ドルド丸っ」

「紗登子っ」

 ドルド丸の体は紗登子のもとを離れて宙を引っ張られていく。

 その先で両手を広げて待っているのはテレイン。

 やがて、ドルド丸の体はテレインの手に収まる。

 ドルド丸とテレインの目があった。

 その瞬間、ドルド丸の脳裏にこれまでのできごとが通り過ぎる。

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