第5話 戸惑い繚乱(その2)
環士が跳ね起きたそこは、自室のベッドだった。
それはまごうことなく、プリンセス・プラージュの一撃で敗れたことを表していた。
最後に聞いたプリンセス・プラージュの悲鳴を思い出す。
あれは確かに――
「もう限界。ダメ。これ以上は、やだっ」
――と聞こえた。
「ったくなんなんだ、あいつら。うおっ」
つぶやくと同時に人の気配を感じて飛び退く。
すぐとなりにフィーマが座っていた。
相変わらずいつもの険しい表情だが、どこか雰囲気が違う。
どことはいえないが発散している気配が、明らかにいつものフィーマではない。
「どうした?」
訝しげに問う環士から、ついと目を逸らせたフィーマがおずおずと答える。
「いや、その。マリイから言われてきたんだが……」
その口調もいつになく歯切れが悪い。
初めて見るその様子に、環士はなにか異様な空気を察する。
フィーマはそんな空気をまとわせたまま、なぜか話の途中で黙り込む。
少し焦れた環士が問い返す。
「言われて来た? マリイに? なにをさ?」
「こっちの味方でいることを約束してくれれば、その……」
そこまで言って、また、黙り込む。
黙っている間に妙な空気が重さを増してくるのを環士は感じる。
それはフィーマも感じているらしく、その空気を振り払うようにロングヘアの頭をぶんぶんと振って――
「揉んでもいい……ぞ」
――胸を突き出す。
思わぬ動作と動きに環士が固まる。
「は?」
そんな環士に、我に帰ったようにフィーマが怒声で返す。
「い、一回だけだからなっ」
フィーマの紅潮した頬につられて環士も赤面する。
「真面目かっ。帰れっ」
そして、付け足す。
「あんな色仕掛けなんかに引っかかるかよ。心配するな。マリイにもそう言っとけ」
「信じていいんだな」
まだ赤い頬のフィーマが少し潤んだ瞳で環士を見る
そんな目で見つめられるまでもなく、環士の答えは揺るがない。
色仕掛けに引っかかるのは“色仕掛けのその先”を期待しているからに他ならない。
他人に期待しない環士がそんなものに引っかかるわけはないのだ。
「くどい」
「わかった。信じる」
フィーマが立ち上がり、ロッカーへと消えた。
「ったく、どいつもこいつも」
ひとりになった部屋で、閉じたロッカーを見ながら吐き捨てる。
その一方で“一回だけなら揉んでおけばよかったかも……”――そんな考えが頭をよぎったことも確かだが。
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