第3話 学校会談(その4)

 答えたのは半笑いのマリイ。

「部室を出た時に、すぐ目の前を三年生の女生徒おんなが四人通り過ぎたんだよ。それを気にせずに――」

 テレインを指差す。

「――いつもどおり“サトコ、ばいばい”とか言ったもんでさ」

 そこで一旦切って、意味ありげな表情でウツボ男を見る。

 その思わせぶりな表情にウツボ男が先を促す。

「どうなった?」

三年生そいつらに腕掴まれて体育館の裏へ連れてかれた。“宮村を呼び捨てってことは上級生を舐めてるってことだよな。てことは、アタシらも舐めてるってことだよな”とか言って」

「やっぱりか」

 ウツボ男が苦々しげにつぶやく。

 新入生の“不良くん”の時とは違って“対象者ターゲット”が地依子たち一年女子であることから三年男子の“チンピラ予備軍”を召喚するまでもなく、自分たちでわからせてやることにしたのだろう。

 一方のマリイは当時を思い出しているのか、笑いを堪えながら前を歩くフィーマに顔を向ける。

「下級生相手にケンカがしたいが、それを正当化するための大義が欲しいってことか? だったら今から私がオマエらを泣かしてやろうか? それならオマエらも正々堂々と私に報復という形でケンカをふっかけられるしな――とか、フィーマが言い出してさ」

 ウツボ男の頭に下校途中で見た三年女子四人組がよぎった。

 同時にマリイがぽつり。

「五分もかかってなかったな。四人が泣きながら土下座してた」

 目撃した四人組の様子にようやく合点がいったウツボ男がひとりごちる。

「なるほどね。あれはフィーマというか風羽子の仕業だったのか。でも――」

 それならそれで、ひとつ気がかりなことがある。

「――三年男子おとこつれて報復に来るんじゃ……」

「あー、なんかそんなこと言ってたな。でも、最後は“誰にも言いつけないんで許してください。二度と関わりません”って泣いてたから来ないんじゃね。一応、動画も撮っといたけど」

「動画?」

「もし今後関わってきたら公開するよって。見るか?」

 そう言って邪悪な笑みを浮かべる。

 ウツボ男としてはその動画に興味が湧かないでもなかったがマリイが公開をちらつかせて相手を黙らせるくらいだから、向こうにとってはよほどろくでもない動画なのだろう。

 そんなことを想像して背筋を駆け上がる悪寒を感じたウツボ男は丁重にお断りする。

「いや、いいよ。そうか、テッテ的にやったのか」

 そして、フィーマの後ろ姿とマリイとテレインを順に見る。

「この三人がいつも一緒にいるなら防犯ブザーとかなくてもいいかもなあ」

 その言葉にテレインも――

「だよねえ」

 ――同意しながらポケットに防犯ブザーを戻す。

 話題が一段落したところで、今度はウツボ男が口を開く。

「ひとつ、わかんないことがあるんだけど――」

 フィーマとマリイが立ち止まることなく振り返る。

「――ひとかたまりで、ぞろぞろしなくちゃいけない理由があるのか?」

 それは、ベッドの上で眠りに落ちながら考えた環士の“作戦”だった。

 答えたのは、やはりマリイ。

「言ってなかったっけ? マリイたちだけじゃプリンセス・プラージュに対応できないんだよ」

「対応?」

「マリイたちだけじゃ対応できない。だから、対プリンセス・プラージュ用の“対応兵器”が必要になった。それがウツボ男だったりイカ男だったり……」

「そうだったのか」

 ひとりごちて、問い直す。

「でも、無駄じゃねえの。“手分けして捜す”っていう、せっかくある選択肢を切り捨てることはないと思うけどな。その方が絶対に早いだろうし」

 フィーマがぼそり。

「……確かにな」

 ウツボ男がここぞと続ける。

「プリンセス・プラージュに対抗できるのがボクだけなら、ボクは単独行動ひとりで問題ないとして……。そっちは三人一組でドルド丸を捜して、見つけたらふたりが見張りなり追跡なり足止めなりして、あとのひとりがボクを捜して呼びに来るというのが効率的だと思わないか?」

「なるほど」

 無表情で頷くフィーマがマリイの意見を伺うように目を向ける。

 その目線にマリイが応える。

「いいんじゃね。せっかく人数も増えたんだし。有効活用しないとな」

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