第9話 手紙と贈り物(その4)
四台のロッカーが並ぶエリアからストーンサークルへ向かう。
暗い空も荒れた大地も、そして、無数の石柱で構成された神殿のようなストーンサークルも、これまで訪れた時となにひとつ変わらない。
変わっているのはただひとつ。
ストーンサークルの奥で玉座に座っているのがヘビではなく、頬杖をついてにこにこしているテレインだということ。
玉座の左右ではフィーマとマリイがそれぞれ立って環士を見ている。
その様子に狛犬や仁王像や風神雷神を連想するが、そんなどうでもいいことが思い浮かぶのは緊張感から逃げるための防衛本能なのかもしれない。
赤潮男が玉座の前に出る。
その時、赤潮男とフィーマの目が合った。しかし、すぐにフィーマが目を逸らす。無表情を装いながらも、こころなしかほっとしたような息をつきながら。
赤潮男はママの前でヒザをつき、深々と頭を下げる。
「ママの温情に深く感謝いたします」
テレイン――を乗っ取ったママ――が答える。
「此度の働きを評価してのこと。恐縮する必要なぞない」
言いながら、首から提げた封熱筒を撫でる。
「本来ならヒトの一部として消えゆく対象ではあったが、特別にここで生きながらえることを許――」
どん!
赤潮男の全身から植物プランクトンを固めて形成したミサイルが撃ち出された。
フィーマとマリイが慌ててテレインを庇うように前に出る。
しかし、ふたりの肢体に着弾したミサイルは爆発することもその身体を貫くこともなくポップコーンのようにくしゃりと潰れる。
戸惑うフィーマとマリイ。
表情を変えないテレイン。
その背後から姿を現す環士。
ミサイルと同様にプランクトンで形成した長刀を振りかざし――
「テレイン、ごめん」
――つぶやきながら。
そんな環士を、テレインがぐいんと首を倒して見上げる。
部室でいつも見せていた、そして、ショッピングモールで見せていたあどけない表情で。
ダメだ、無理。
そんなテレインの表情に、環士の振り下ろす長刀が止まる。
そのわずかの隙にテレインは素早く立ち上がり、くるりと向き直って環士の喉を鷲づかみにする。
環士の体を覆っていた保護色のプランクトンがぽろぽろと剥がれ落ちていく。
その様子とシンクロするように、玉座の前で跪いている“プランクトンで形成した赤潮男”が砂像のように崩れ始める。
フィーマは戸惑いながら、マリイは感心したような表情で環士とテレインを見ている。
テレインが――
「小賢しい」
――環士にささやく。
「フィーマが助けてほしいと泣いて頼むものだから聞き届けてやったというのに……“万物の母”に刃を向けるとは身の程知らずな」
その言葉に環士が戸惑う。
「万物の……母?」
テレインが笑う。
環士が何度も見てきた無邪気な笑顔ではなく、環士が初めて見る邪悪な微笑みで。
そして、続ける。
「このまま殺すこともできるが、せっかくここまで来たのだから有効に使ってやろう」
そう言って空の彼方へ環士の体を放り投げた。
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