第12話 試衛館(3)

 深夜まで営業しているファミレスでもいいのだが、いかんせん彼らの出立いでたちでは目立ちすぎる。1人は擦り傷だらけの巨漢だ。新選組のコスプレをしていると言えば言い訳はつくだろうが、先程追ってきた警備員に見つかってしまうだろう。

 オフィスビルから逃げ出した時、背後から「不法侵入者3名」とああ言葉が聞こえた。河上も仲間だと認識されてしまっている。守衛たちが訂正してくれてればいいが、顔見知りではない。厳密には2人の逃亡犯と、1人が連れ去られているのだ。だが、追ってくる警備員たちは、3として、辺りを捜索しているはず。

 少し南に行ったあたりにファミリーマートがある。彼らをここで待たせることにした。長袖のワイシャツに紺色のスラックスというどこにでもいそうな服装の河上1人では、取り立てて目立つリスクが少ないだろう。


「お主、逃げるつもりか」


「そんな格好じゃ目立つでしょ」


「むしろお主の方が、変わった服装をしているように思えるが」


 未だ自分たちが生きてきた時代ではないことを理解していない、もしくはそういう設定を貫き通している井上にいちいち説明するのが面倒なので、河上は無視して話を続けた。


「とりあえず食べ物を調達してきます。あと傷の手当も」


 と言っても伝わらないだろうから、なるべくむかしの人でもわかる単語を使った。


「お主、医者だったのか」


 島田は、河上に純粋な眼差しを向ける。バンドエイドを買ってくるだけだ、と答えるのも面倒。


「2人は、ここから動かないでください」


 と言い残し、ファミリーマートまで向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る