第13話 説明
バンドエイドの説明をするのに手間取った。まずは見たこともない物だと、いちいち騒ぐ。薬が付いているから、付けていれば傷が早く治ると納得させ、今度は貼るとテープの部分がベタベタして気持ちが悪いと言う。
河上が次にてこずったのは、飯だ。
深夜だったこともあり、お惣菜コーナーに選べる食べ物が少なかった。パンもほとんどない。こんな深夜にチョコクリームやあんぱんは選びたくなかった。軽く食べれるもので、おにぎりしかない。ツナや明太子、昆布、ワカメと全部で7つしかなく、全部買ってきた。それでは足りないと思い、茹で卵やサラダ、惣菜パンがなかったので食パンとワンタッチで出せるバター&ジャムも買った。
このおにぎりのフィルムにも、いちいち反応する2人。井上に剥がし方を教えている最中、島田がフィルムごと喰らいつく。
「噛みきれんのう」
「いやいや、それ、外すんです」
「それとは、どれじゃ」
ツナおにぎりなど、海苔を後から付けるタイプのものの説明は、更に面倒。
「どうなっとるんじゃ」
「この真ん中のテープを引いて」
「てえぷ?あ、ああ」
説明してる間に、今度は隣で説明を聞いていた井上が豪快にテープを引いて、白飯のおにぎり本体を地面に落とした。
「あぁ、もったいない!」
井上は白飯についた石を
「これは、どうするんじゃ?」
純真無垢な表情で海苔をひらひらさせて示す井上に、返す言葉がない河上。
そうこうしているうちに2人とも3つのおにぎりを平らげた。河上はなんだかんだで説明ばかりしていたので、手元に残っているおにぎり1つだけになってしまった。
物足りなそうな視線を向ける2人に茹で卵を渡した。
「これは、茹で卵といいまして......」
「茹で卵くらい、わかるわい!!」
地面に落ちた飯は食えるのに、無知だと思われたくないプライドがあるらしい。
河上が買ってきた食べ物は2人にあらかた食べられてしまい、金を出した本人は海苔佃煮のおにぎりとサラダチキン1本だった。
ここからが河上にとって1番の面倒な説明を控えている。
タイムスリップの話に戻さなければならないのだ。
「なんか、食ったことのない握り飯だったのぅ」
「なんか、変わったおかずみたいなものが入ってましたね」
「なんじゃと思ったが、あれはあれで美味かった」
「近藤先生の料理より美味いですね」
「会津から
腹が満たされて呑気になっている2人から軽口まで出る始末。警備員に追われていることも忘れてしまったようだ。
「あなた方は、つまり、なんて言うかそのぅー」
河上はこの呑気な2人に、どこから話せば通じるのか考えをあぐねて、二の句が続かないでいた。彼が言葉を選び、もじもじとしていると、
「なにを男のくせに!言いたいことがあるなら、はっきりせい!」
井上の偉そうな顔。同じ歳のくせに、と河上は不満に思うが、大声を出されただけでいつも他人に負けてしまう。だから歳下にマウントを取られてしまうのだ。
「言いにくいのですが......」
「前置きはいい!
「タイムスリップのことなんですが......」
「それはさっき聞いた!それは、外来語か?」
「まあ外来語って言えば、外来語なんですかねぇ」
「それでなんじゃ。さっきは160年先の未来だことの寝言を申して。おちょくるのもいい加減にせい」
それはこっちのセリフだ、とさっきまでは思っていた。彼はスマホに目を落とした。画面はさっきまで調べていた新選組についての検索ページのままだった。検索バーに入力されている『新選組』のあとに『元治2年2月23日』と追加した。
『山南敬介、没する』『切腹』『山南敬介の粛清』と出てくる。それに『元治2年2月23日』と並び、『1865年3月20日』と記載されている。旧暦で日付のズレがあるのだ。
それを見た河上は、もしかしたら彼らが本当にタイムスリップしてきたのかもしれない、と思い始めた。
彼は画面をスクロールした。
河上の前に現れた井上は、
おそらく2人は、その山南敬介の切腹の日からタイムスリップしてきたことになる。
日付が旧暦と符合したことが確たる証拠になるわけではない。しかし、河上は超常現象みたいなことに否定的ではなかった。UFOとかUMAとか趣味の範囲で好きなところもある。学生の頃は雑誌ムーとかを読んでいた。自分の身の回りで起こるとは想像もしていなかったが、半ば信じかけている。
「もしかしたら、井上さんたちはここにくる前に、山南さんという方の切腹に立ち会ってたりしてました?」
河上は2人の顔色を伺いながら聞いてみた。信じられないことだが、もしそこが符合したとなればタイムスリップに現実味が増してくると考えたからだ。とはいえ、タイムスリップする条件として必ずしも数百年後の同日とは限らないのだが、いろんなことが符合することによって、真実味が濃厚になってくる気がした。
「お主、なぜそれを知っておる」
雑誌やテレビなど娯楽で見聞きしている分にはいい。だがそれを目前にして、河上は言葉を失ってしまった。
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