第23話 山崎
ススムは彼らが反応を示すまで待った。こちらが早合点して話をまとめてしまうと、この問題が有耶無耶になってしまう。そもそも店の天井から落ちてきた時点で、それは超常現象なのだ。どこからかワープしてきたのでも、幕末からタイムスリップしてきたのでも大差ない。
どのくらい待ったのだろう。永倉が重い表情で口を開いた。
「そんなはず、なかろう」
「今は、2025年です」
ススムは、余計な説明は省いて事実だけ伝えようと言葉を選んだ。
「その年号は、なんじゃ」
ススムはスマホを開き、幕末の西暦を調べた。
幕末とは黒船来航の1853年から戊辰戦争の1868年頃までを指すと書かれていた。
「黒船が来たのは1853年です」
「ワシはそのころ
撃剣館とは
「その頃、永倉さん幾つでした?」
「多分、15の時じゃの」
「永倉さん、今何歳ですか?」
永倉は「にじゅう......」と言って長考し始めたので原田が代わりに答えた。
「俺の1つ上だから、27じゃ」
今27歳の永倉が15歳の頃となると、彼らからしてみれば黒船が来たのは12年前。1853年から12年後となると、1865年から来たことになる。
「やっぱり160年後だ」
「お主、なにを1人で納得しておる。わかるよう説明せい」
ススムは、幕末頃の年表を検索し、幕末から現代までの略歴が載っているものを選び、画面を2人に見せた。
だが2人は年表を見るどころか、スマホを取り上げ表や裏を見ている。
「なんじゃ、これは?」
「あっ、絵が動いた!」
原田が画面を触ってしまったので、画面がスクロールしたことをいちいち驚いた。
「気持ち悪いのぅ!」
「これはスマホといって、色々調べられるんです」
「すまほ?」
「むかしはたくさんの本から調べてたと思うんですけど、現代はこういう機械があるんです」
「げんだい?」と彼らは口を揃えて首を傾げた。話が全く進まない。
「とにかく、この年表を見てください。あなたたちが生きてきた時代はここ。今はここです」
そう説明しても原田は、なぜ動くのじゃ、これはどうやって作ったのじゃ、妖術遣いか、と訳のわからないことを聞いてきて、話にならない。
「その箱の仕組みはともかく、その、幕末とはなんじゃ」
永倉は眉間に皺を寄せて聞いた。漢字の字面からして、意味を察したのだ。
「お主、今が160年後と言ったな。ワシらが気を
永倉の方がやや落ち着いている。まだ完全に理解はしていないが、ススムの説明を聞いて少しでも理解しようと努力している。永倉の質問に、ススムは頷いた。
「それが末ということは、幕府は終わるということなのか」
ススムが頷くと、原田が彼の胸倉を掴んだ。
「くだらんことを抜かすな。そんな与太吹いて新選組を潰そうとしてるのか!」
「落ち着け、
「俺は落ち着いとる!意味がわからんだろ。今が160年も経ってて、幕府が終わってるって。そんな筈ねぇだろ」
「そんなことで新選組が潰れるわけなかろう」
「コイツは佐幕派の間者じゃ。監察とかいって新選組のために動いてると思わせて、こっちの情報を流してるんじゃ。なあ、そうだろ、山崎!!」
ススムの胸ぐらを掴む原田の手首を、永倉がぐっと掴んだ。
「ちょっと、なにやってんの?!」
ちょうど明美が、買い物が終わり戻ってきたところだった。
「手を離せ。こいつは山崎じゃない」
原田は、そう言われて永倉に従うしかなかった。能天気な原田でも、現状が理解できなく混乱しているのだ。
「すまぬ。ススム殿、明美殿」
少し落ち着きを取り戻した原田が2人に頭を下げた。
「大丈夫です。気にしてません」
「いったい、なにがあったの?」
ススムは明美に今までの経緯を掻い摘んで説明した。
聞いていて、明美もどういうテンションで返事をしていいのか困惑した顔をしていた。
もちろん彼らが新選組と言い張る頭のおかしな連中だということも捨てきれない。だが、明美には彼らが嘘を吐いているとも思えない。彼らを信じるとするならば、タイムスリップしてきたと考えるしかない。ただ現代人でもあり得ないと思えることを、江戸時代から来た人にどう伝えていいのか。明美はそれをいつ言おうか考えていた。
咄嗟に投げ出し、考えもなく自分の家に向かうことにした落ち着いて説明できるだろうと自分の家をえらんだが、それが得策だったのかはわからない。ススムが説明してくれなかったら、明美はその説明をしてただろうか。
そもそも一緒に逃げてくる必要はあったのだろうか。後悔しても始まらない。
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