第40話 サインはW

「くそったれ、踏みつぶしてくれる」


 大魔神が右足を動かし、俺達の頭上に持ち上げる。



「ミルポ、頼む!」


「了解!」


 ミルポがウイングボードを駆って空中に飛び上がり、大魔神の足が降ろされるのを防ぐ。



 俺達の頭上は大魔神の右足でおおわれる。



「これが防げるか!」


 ヌッとその右足越しに大魔神の顔がのぞく。


 大魔神は右腕で自らの顔を覆った。


 再び右腕を取り去ったとき、目が横線・鼻が縦線・口が黒丸の大魔神の顔が、怒りの形相に変わっていた。



 これは、大魔神の目から熱光線の前段階!


 ミルポは大魔神の右足を止めるので精一杯だ。



 どうする、ジョナン!



 ……なんてな、全てお見通しだ。



 俺はアイオンを空に放つ。もちろんアイオンには指示済みだ。


 アイオンは大魔神に匹敵するほど巨大に膨れ上がった。


 そして、アイオンは二本の突起物に変化する。



 と、大魔神の目から熱光線!!



 やらせるか!



「これぞゴールデンダイヤモンドスライムだ!」


 俺の掛け声と共に、アイオンは熱光線を貫き、大魔神の両目に突き刺さる。



「グワッ!」


 のける大魔神。



 よし、これでミルポが自由になった。



「ミルポ! ウイングボードを使ってグルグル回れ!」


「えっ、回れってなにさ」


「いいから回れ! そら、そこに丁度いい滑走かっそうコースがあるだろう」



 俺は目を押さえて苦しんでいる大魔神を指さした。



「さあ、グルグルして魔力を作り出せ!」


 俺の言葉にミルポはハッとした表情を浮かべた。


「うん、分かったぜ」


 ミルポは大魔神に向かって行く。もちろんウイングボードと一緒だ。



 俺はミルポの勇姿を見届けると、エスティの方を向いた。



「エスティ、俺が渡した魔石は持っているよな」


「ええ、ここに」


 エスティは自らの首にかけてあったひもを外すと、俺に差し出してみせた。紐の先には袋がついていて、その中に魔石が一つ入っている。



「よし、魔石を杖に付けろ。そして魔法陣を描くんだ。魔法力のことは気にするな。思いっきりいけ」


「ハイ! ジョナンさんを、ミルポを信じます」



 俺はエスティを送り出すと、再びミルポに視線を戻す。


 ミルポは大魔神の体を地面に見立て、その上を高速移動し始めた。



「何のマネだ。そんなことでワシは止められないぞ」



 しかしミルポは構わず、大魔神の腕の上を、体を、足を、頭の上を高速移動する。


 その動きは直線的なものから、グルグルとした回転運動に変わる。



 ウイングボードから魔力のオーラが立ち上る。



「いいぞ、どんどんやれ。そして……これだ!」


 俺はアイオンをミルポに向かって投げる。



 アイオンは自らの力で加速し、ミルポのウイングボードに接触する。


 そして、グン! と体を伸ばし伸ばし伸ばして……エスティの魔石に吸着した。



「よし、いいぞ。上手くいった」



 ミルポからエスティへ、魔力がアイオンを伝わって送り込まれる。


 ミルポが移動及び回転するたびに、アイオンはミルポを追いかけ、離れ、また追いかける。


 まさに自動追尾型スライムさんだ。



「しゃらくさい」


 大魔神は腕をブンブンと振り、頭をめったやたらに振り回した。



 その腕がミルポをとらえる。


 ミルポが弾き飛ばされた。


 悲鳴が聞こえ、ミルポが地面に激突した。



「大丈夫か!」


 俺はミルポに駆け寄った。



 しかし、さすがは呪いの力。



 ミルポは地面に激突する瞬間、攻撃を地面にすることによってダメージを抑えたのだ。


 ミルポは頭を振りながら起き上がる。



「頭でも打ったか?」


「平気! これでちょっとは役に立ったかな」



 エスティを見ると、魔法陣がもう少しで完成するところだ。



「恐れおののけ〜」


 エスティ必殺の掛け声。心なしかいつもより声が大きい。


 問題の魔法陣は……。



 デ、デカイ!



 通常の四倍以上はあろうかという大きさだ。これも魔力が増幅した結果だ。


 魔法陣が大魔神の巨体を吸い込もうと猛烈な風をおこす。



 大魔神は踏ん張る。


 神殿の柱が飛んできて、大魔神にぶつかる。



 よろめく大魔神。



 神殿が崩れ、次々と大魔神にぶつかりながら、魔法陣に吸い込まれていく。


 俺たちは魔法陣の後ろ側から、その様子をながめる。



 うん? あれは?



 崩れた神殿から、俺がかつて戦った小魔神像が転がり出てきた。


 小魔神像は、大魔神のひざを後ろから直撃!



 大魔神は踏ん張りが効かなくなる。



 そして、大魔神が頭から魔法陣に吸い込まれようとする、まさにその瞬間。



「やった!」


 俺の横でミルポが歓声を上げる。



 やったか? やったのか?



 突然、大魔神が絶叫した。


「ウオォー、ヤラせるかー」


 大魔神の足の裏から轟音ごうおんが聞こえる。



 なんだ? 嫌な予感。



 大魔神が魔法陣を乗り越えてこちらに飛びかかってきた。



 俺はすんでのところで、大魔神の攻撃をかわした。


 大魔神が頭から地面に突っ込む。大量のガレキが宙に舞う。



「ゴホゴホ」



 ガレキとともに舞い上がった砂煙を吸い込み、俺は咳き込んだ。


 辺りを見ると、大魔神の頭が地面に埋まっている。大魔神の奴、頭から突っ込んだらしい。



「ごま塩コンビは?」



 地面に頭を突っ込んだ大魔神の向こう側に、ごま塩コンビは仲良く倒れている。


 魔法陣は変わらず辺りの物を吸い込んでいる。



 エスティは無事だろう。


 ミルポは?


 先ほどのように、無事ならいいが。



 俺はごま塩コンビの方に駆け出す。



 ガバッ


 俺の行く手をさえぎるかのように、大魔神が地面から頭を抜き出した。



 俺は思わず立ち止まる。



 大魔神の顔はかろうじて原型をとどめているが、損傷が激しい。


 頭の半分は崩れ落ち、口の部分は剥がれ落ち、空洞になっている。


 その空洞部分から、一匹のスライムさんが飛び出し地面に降り立った。



「あのスライムさんは、元アイオン?」



 元アイオンは俺の方に向かってくる。


 俺が両手を広げると、元アイオンは俺の胸に飛び込んで来た。


 その瞬間、電気信号が元アイオンと俺の間で交換された。


 俺は瞬時に悟った。



 こいつはアイオンだ。俺の足元のアイオンも、俺の胸の中にジャンプする。



 これは……Wアイオンだ!



「オノレ……許さんぞ」


 大魔神の足裏から大轟音と共に炎が噴射され、大魔神の巨体が空中に浮かび上がる。


 どんどん空高く、米粒くらいの大きさになるまで上昇する。



「許さんだと……」


 俺はWアイオンを右の手の平に乗せた。


「許さんのはこちらの方だ! よくもミルポとエスティを傷つけてくれたな」


 俺はWアイオンをポンッと空に放る。キレイに重なって空に浮ぶWアイオン。


 そのWアイオンにかぶさるように、空から大魔神が猛スピードで降下してくる!


 俺は右のこぶしでWアイオンをブチかました。


 Wアイオンは、閃光せんこうとなって大魔神にブチ当たる。



「よくも俺の家族を傷つけたな!」


 俺の気合がWアイオンに乗り移った!



「グオオー」



 大魔神の断末魔だんまつま咆哮ほうこう


 大魔神の土手どてぱらの中心に穴が空き、青い空が向こう側に見える。


 大魔神の巨体は、再び魔法陣のあちら側に吹っ飛んだ。


 そして、仰向けに倒れた大魔神は、ズルズルと魔法陣に吸い込まれていった。






「あれ、ここはどこです?」


 エスティが目を覚ます。



「ガーファ神殿だ。まあ、今日この日をもって神殿跡になったがな」


 俺は何も無い更地を前にして言った。



「あっ、ミルポは?」


「大丈夫、心配ない」


 ミルポは俺の横でグッスリ寝ている。幸いケガは無さそうだ。



「良かった。ミルポが無事で」


 目に涙を浮かべるエスティ。



 相変わらず泣き虫な奴だ。



「エスティ、ケガはないか?」


「ハイ、なんともありません。ミルポがかばってくれたから……」



 やはりそうか。ミルポ、お前は出来る子だ。



「あの大魔神はどうなりました?」


「魔法陣に吸い込まれたよ」


「えっ」


「エスティ、お前の魔法で大魔神に勝ったんだ」


「ホントですか? 私の魔法陣で……」


「ああ、本当だ。良くやったな、エスティ」


「ハイ、ありがとうございます……」



 エスティの最後の言葉は、涙声で良く聴き取れなかった。




「しかし、大魔神をずっと閉じ込めておくことはできるのか」



 エスティが泣き止むのを待って、本題に入る。



「それはできかねますね。ある程度閉じ込めておくことは可能ですが」



 そうだよな。今までのパターンを考えるに、永久に閉じ込めることは出来ないだろう。



「そうか、よし、わかった!」


 俺は中折れ帽を取ると、髪をかきあげた。



 大魔神め、俺のスライム愛を思い知るがいい。



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