第四章 どんでん返しの大作戦

第29話 神様?! 登場

 満月の夜は魔力が最大に高まるという。



今日こそはスライムさんに会える……気がする。


俺は、エスティと魔法陣の特訓をした川へ向かった。



 川の周りには大小様々な池や泉があった。月が池に映り込み、どこか幻想的な雰囲気を漂わせる。



 俺は待った。



 しかしスライムさんは一向いっこうに現れない。普段ならあきらめて帰るところだが、今日に限っては帰る気が起こらなかった。



 暇だ。



 俺は何となしにごま塩コンビに思いをせた。



――なぜ俺の言うことを聞きたがらないのか。



 ミルポの方は原因がはっきりしているように思う。俺があいつのウイングボードを否定したからだ。あいつのボードは、呪いによって力を失った巨人族が生きていくために、必死になって考えだしたものだ。ミルポも、今は亡き父親と一緒にウイングボードを作り、そして練習してきた。それを頭ごなしに否定したのだから、奴がへそを曲げても当然だ。



 ……言い方を間違ったかな。



 だとしても俺は教師じゃない。誰かに教えるスキルがあるわけでもない。



 エスティの方はどうだ。



 父親とわだかまりがあったらしいが、俺にどうしろというのだ。短期決戦を目指すのだから、今持っている技をさらにみがいた方がいいのだが。エスティの場合は、今使える魔法が本人の意図するところではない魔法なので、あいつ自身が納得していないかもしれない。本人が納得していないものを納得させて勉強させる……。



 だめだ、そんなスキルも俺にはない。


 一体どうしたものか――。



 そして、ごま塩コンビは今朝けさのいざこざで仲が悪い。口も聞かなくなってしまった。俺のせいで二人の間に亀裂きれつを作ってしまったのか――。



 だが最も重大なことは、イケニエ女とミルポがまだ接触していることだ。人通りのない裏通りで、二人が会っているのを確かに見た。


 あの時は、イケニエ女に見つかったかとヒヤヒヤしたものだ。ミルポの奴、いやエスティだって、俺のことをどう思っているのか……。



 こう物思いにふけっていると、時間はあっという間に過ぎていく。おそらく今は真夜中ではなかろうか。闇が最も深まるこの時間帯は、魔力が一番高まるという。が、静かな湿地帯には何も起こらない。



 そろそろ帰るか。



 俺は街に向かって歩き出した。



 モコモコ  モコモコ



 地面から何かが吹き上がる音が聞こえる。



 プア ポコポコ



 何かが弾けて割れるような音もする。


 これはまぎれもない。


 俺は振り向いて泉を見た。



 そこには泉やその周りの大地から、いくつもの泡が吹きあがっている。泡はやがてゼリー状に固まり、モコモコとい出し、何カ所かに集合していく。



「これが……初めて見た」


 スライムさんの大群だ……。



「豊作じゃ~」



 俺は思わず叫んだ。



 見渡す限りたくさんの、いっぱいのスライムさん。仲間にして訓練すれば、百人力、いや百スライム力だ。


 俺は喜び勇んでスライムさんの中に飛び込もうとした。


 その時、スライムさんの一匹が発光しだした。



「何だ」



 すぐに発光がむと、次はまた違うスライムさんが発光し、そしてまた次のスライムさん――という風に続いていく。



 やがてスライムさんが一斉に光り出した。あまりのまぶしさに俺は目をつむる。光が収まり、俺はうっすらとまぶたを開けた。



 ――目の前には一匹のスライムさんがいた。スライムさんの中心がほのかに光っている。



「こいつは……」



 俺が驚いていると、(お主はジョナンだな)と、俺の頭の中に声が響いた。



 俺は周りを見たが、人の気配はない。



(ジョナン、こっちだ、こっち)


「どこだ」


 周りを見たが、誰もいない。



(このパターンなら、お主の目の前に決まっているだろ!!)


 俺の目の前……スライムさんが一匹。



 ……。



 な、なんと! スライムさんと初めてしゃべることができた。まさかこのような日が来ようとは……。



「君は、名前は、出身地は、いや、そもそもスライムさんとは何者なのか?」


 聞きたいことがいっぱいある。



俺は中折れ帽を取ると、頭をかきむしった。



 こんな幸せ、滅多めったにない。


(……何て言うかね、ちょっと非常に申し訳ないのだが)



 目の前のスライムさんが、俺の頭の中に直接話しかけてくる。



(いっぱい喋りたいことがあるのは分かった。待ってやるから、言いたいことを整理しろ。あと、あのね、非常に期待させちゃって申し訳ないけど、ワシ、スライムじゃないのよね)



 ――ワシ、スライムじゃないのよね――



 その言葉が頭の中に繰り返し再生される。



「何、しかし、目の前のスライムさんから、お前はこうして俺の頭の中に喋っているんじゃないのか」


(まあ、そうなんだけどね。いや、そうでないとも言える)


「はっきりしないな。つまりどういうことだ」


(つまり、非常に分かり易くやってみると、こういうことだ)



 目の前にいるスライムさんの光が消え、そのすぐ後ろのスライムさんが光り出す。



(ワシの声が聞こえるか)


 目の前のスライムさんからではなく、その奥で光っているスライムさんから声が聞こえる。



 スライムさんの光が消え、今度は違うスライムさんが光った。そしてまた光が消え、その次、その次へとパッパッと輝き、そして遂にはここにいる全てのスライムさんが光を放った。



(私はそこにはいないがここにいる。一でもあるし十でもある。αでもあるしΩでもある)



 この場にいる全てのスライムさんが、俺の頭の中に語りかけてくる。



 俺は瞬時に理解した。



「それはつまり、カスリーンでもあるしアイオンでもある。デラでもあるしジュディスでもある、ということか」


(……そうね、多分そうなのか?)



「やった!」


 俺は叫んだ。



「これで俺のスライムさんは大復活だ」



 つまりはこういうことだ。



 カスリーン、デラ、ジュディス、キティ、ジェーン、ルース、オーラ、ノーラ、そしてダイナ、大・復・活。



(そう簡単にはいかない。あー、期待させすぎちゃって悪かった。ずばり、ワシの正体を言おう。ワシの正体は神だ)



「何~神?」


 コイツ、俺の考えが瞬時に分かるのか? そして神、だと。



(しかも……)


 スライムさんは一呼吸? おいた。



(しかも、お主たちがこれから倒そうとする神だ)


「何だって!」



 俺は絶句した。



「神だと、本当に神様か。そして、ガーファの神だと言うのか。あの魔神だと。俺にそれを信じろと言うのか」


(うん、そうだ)


「嫌だ」


(何!)


「そんなことは嫌だ。俺はスライムさんと話したんだ。神と話したわけじゃない」



 俺は困ったさんのように現実にあらがい抵抗した。



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