第30話 神様からの死刑宣告

(これは現実だ。ならば一つ、証拠を見せようじゃないか)



 自称神様が語りかけてくる。



「証拠を、ね。なんだ」


(お主、ガーファで串カツをポイ捨てしただろ)


「はい?」


(そして、それを子供に見られて、仕方なく拾っただろう)


「そんなことあったかな?」


 俺は知らないふりをした。



(それにお主、魔神の頭の上ですかしっぺをしただろう)


「プッ、ハハハ」



 俺は笑った。



「これはいい。確かにこれは神様しか知らないことだ。アハハハ」



 俺はひとしきり笑った後、いつもの冷静沈着な俺に戻った。



「それで、その神が何で俺の目の前にいる」


(それがだね、前回戦った時、ワシとスライムが交差したのだよ。スライムはワシの街ガーファのシステムによく似ている。ガーファはネットワークで全てが繋がっている。そのネットワークの中を、ワシは自由自在に動き回ることができる)



「それがスライムさんの、どこと似ているんだ?」


(スライムもまた、ネットワークで繋がっておる)



「ガーファシステムと、スライムネットワークが繋がったんだ……。それで、神様が俺に何の用だ」


(これまでのお主たちの戦いは、まあまあ及第点きゅうだいてんといったところだ。ワシの話を聞かせるのには、まあちょっと不安だが、他に頼れる者がいないのも事実。ここはひとつ、ワシを信用して話を聞いてくれるか)



「あんたのこと信用できるのか」


(ここ数日、お主たちを襲う者は誰もいないだろう)


「確かに」



 不思議なくらい、イケニエ女も敵兵士も襲ってこない。



(あれは、ワシがお主からの位置情報を遮断しゃだんしたからだ)


「なるほど……。位置情報を受信できないようにしたのか。で、話ってのは何だ」



(まず厳密に言うと、ワシは神ではない)


「いきなり自己否定か」


(自己否定ではない。元は人間だ)


「人間……」



(とある事情で神と言われる存在に、いや近い存在になった。そして、とある技術者がそんなワシの力に目をつけた。ワシの力を利用して、あのガーファという街を作り上げた。あの街は、ワシが支配しているわけでも何でもない。ただ、ワシはシステムとして機能しているだけだ。そして、そのシステムを作り上げたのは人間だ)



「なるほど、つまりあんたはあの街を支配していない。むしろ支配する道具として利用されている訳だ」


(そうだ)



「それで、あんたをそのシステムの中に組み込んだ奴ってのは、今どうしてる」


(もうとっくの昔に死んだよ)



「死んだ?」


(そうだ。人間の一生なんて、高々持って百年だ。そいつが死んだ後を引き継いだ技術者がシステムを改良して、今の形になった。もう何世代にも渡って、システムを改良し続けたのだ)



「すると、神様が悪いわけじゃなくて、俺たちが倒すべき存在は……」


(そうだ、あの街のシステムだ。お主はこのままガーファに行き、あの街のシステムを壊すのだ。そして、ワシを自由にしてもらいたい)



「あんたはガーファシステムの被害者ってわけだ」


(まあそうなるな)



「あんたを信用していいのかどうかだ。無料奉仕、という訳にはいかないな」


(もちろんだ。褒美は用意してある)


「何だ」


(スライムだ)


「スライムさん!」



 これは、ぜひ聞かなければ。



(お主の失われたスライム、カスリーンたちをお主に戻してあげよう)


「あんた、さっきはそんな簡単なことではない、と言ったよな」



 コイツは俺の頭に語りかけている。俺の願望、希望、求める物、全てお見通しかもしれない。



 疑ってかかるべきだな。



(無論簡単なことではない。だが、スライムの世界はシステムだ。分かるか? この意味が)


「それって、ここにあるようで、ここにいない。一でもあるし十でもある。αでもあるしΩでもある。カスリーンでもあるしアイオンでもある。デラでもあるしジュディスでもある」



(そうだ。このスライムネットワークを使って、カスリーンたちの能力を違うスライムの中によみがえらせることができるのだ)


「やります。よろしくお願いします」



 俺は二つ返事で引き受けた。



「ところで神様に一つご相談があります。このままガーファに乗り込んでも、正直勝てる気がしません。どうしたらいいのでしょう」



 俺の手持ちのスライムさんはいない。ゼロ、だ。


 今からスライムさんを育成する時間もない。


 ごま塩コンビは機能不全だ。



(手はある。こうやってワシとお主はスライムでつながることができた。ワシがガーファシステムをマヒさせれば、優位に戦いを進めることができる)


「ただ、私たちだけで何とかなるでしょうか?」



(さっきも言っただろう。現状、頼れるのはお主たちしかいない)


「ご褒美ほうびの前借りで、俺のスライムさんを復活できないでしょうか?」



 それができれば話は早い。



(それもそうだな、ちょっと待っておれ)


「えっ、復活するの?」



 何ということでしょう。これは言ってみるものだ。



(ウリャー)


「わっ、なんだ」



 頭の中に神様の気合の入った声が響く。


 泉に集まったスライムさんが一斉に光りだす。


 そして、ランダムに点滅を繰り返す。



「わっ、こりゃまともに見てられない」


 俺は思わず目をつむった。



 ……暗くなった。



 おそるおそる目を開ける。


 目の前には一匹のスライムさん。色は、赤色だ。



「カスリーン、カスリーンなのか」



 俺にはわかる。コイツはカスリーンだ。ガーファで魔神の熱光線によって焼かれたカスリーンだ。



「……って、おい、カスリーンだけなのか」



 他のスライムさんは……違うな。俺にはわかる。



(ここで全員復活させるほど、ワシはお人好しではない)



 ま、神様だからね。お人好しでないことは、しょうがないな。



「あとは俺以外の二人ですが……」



 ごま塩コンビの戦力底上げが必要なのだが。



(まだまだ発展途上の二人だ。だが今のままでは、ちときついの。お主の力でなんとかならんか)


「私なりに色々とやっているのですが、難しいのです」



(分かった。そういうことなら、お主は死ぬ! いや、お主は死ね!)



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