エピローグ 1&2

第41話 見よ! スライム軍団勢ぞろい

 バシュッと魔法陣から勢いよくものがあふれ出る。


 レンガ、タイル、柱、建物のガレキが多い。


 やがて、魔法陣からヌッと巨大な右手が出てきて、ガシッと大地を押さえつける。


 さらに左手が出て来てその巨体を持ち上げる。



 ガーファの大魔神だ。



 頭は半分壊れ、胸にも巨大な穴が開いている。


 全身ボロボロだ。



 大魔神は魔法陣からい出した。辺りを確認するように、顔を右へ左へと振る。



 そこは決戦の地、ガーファではなかった。


 川の周りに池や泉が点在し、湿地帯を形作っている。



「ようこそ、スライムさんの聖地へ。歓迎するよ、神様」



 パチパチと拍手。


 俺は盛り上がった丘から大魔神を見下ろしていた。



「神様、スライムさんの聖地へようこそ。最もスライムさんの聖地って名付けたのは、今初めてだけどね」


「ここはどこだ」


「あれ、神様忘れちゃったのかな。ここは俺と神様が初めて出会った思い出の地さ」


「こんなところに、どういうことだ」


「どういうことだって? それは神様に、俺のスライムさんたちを紹介するためさ」



 赤色のカスリーン。


 橙色のWアイオン。


 黄色のデラ。


 緑色のジュディス。


 青色のキティ。


 藍色のジェーン。


 紫色のルース。


 茶色のノーラ。


 桃色のオーラ。


 そして漆黒のダイナ。



 俺のスライムさんが勢ぞろいする。



 

「受けろ! 俺たちの必殺技を!」



 スライムカッター!


 スライムボム!


 スライムソード!


 スライムスライダー!


 スライムムーブ!


 スライムサンダー!



 俺はありとあらゆるスライム攻撃を大魔神にびせる。



 この攻撃はさぞやつらかろう。



 大魔神の体はさらにボロボロになる。



「こっちもいるぜ!」


 ウイングボードに乗ったミルポが、大魔神を攻撃、いや大魔神の体の上を走り回る。



 そのたびに大魔神の体がけずれていく。



「私もいるわ」


 魔法陣の準備を終えたエスティ。



「また吸い込む魔法陣か!」



 身構える大魔神。



 だが魔法陣から出てきたのは、大魔神よりさらに巨大な、石でできた精霊「ゴーレム」だ。



 ゴーレムの右ジャブが、大魔神のあごをとらえる。


 ガクッ、と片膝かたひざをつく大魔神。それでも何とか立ち上がる。



 お互いニラミ合う両巨大物体。



 二組の巨体は、お互いの力量をはかっているかのようだ。



 次の瞬間、すさまじい勢いで無数のパンチを繰り出すゴーレム。


 一方的にボコボコにされる大魔神。


 ゴーレムの凄まじいパワーで、だんだんと大魔神の巨体が浮き上がる。



 ゴーレムのトドメの一撃、アッパーカット!



 大魔神は轟音ごうおんと共に仰向あおむけに倒れた。



 俺たちは動かない大魔神に近づいた。大魔神の頭の側に立ち止まる。



「あれ、アナタたち、どこのオジョウサマ?」



 仰向け状態の大魔神が、俺達に語りかけてくる。



「何かオジョウサマたち、背が伸びてイナイデスカ」


「驚いたか、神様。ごま塩コンビも立派な精霊使い&ボードマスターになったんだ」


「ウソ、この短期間でそんなにセイチョウしたのか」


「ハハハ、短期間だって。バカだな神様、そんな一瞬で人は成長しないよ」



 俺はひとしきり笑った。



「あれから三年経ったんだ。三年。三年もてば、よちよち歩きでも生意気な口を聞くぞ」



「おっちゃん、全然めてないぞ」


「そうです、レディーに対して失礼です」



「ああ、これは口がすべった。悪いね」


 俺はごま塩コンビに謝った。



 ミルポは背がグンッと伸び、ますますスレンダーな体型となった。髪の毛は短いままなので、遠くから見れば男の子のようだ。



 対照的にエスティは、背はそれなりに伸びたが、横もそれなりにある。体重も……それなりらしい。最近、おかっぱ頭をおかっぱボブ頭に変えたそうだ。



「そんな、一瞬ダッタハズナノニ」



 大魔神がうめく。



「エスティがお前を三年もの間、魔法陣に閉じ込めたんだ。魔法陣の中の時間は、あっという間だったかもしれないがな」



「マケル……。このままではマケル……」


 大魔神が耳障みみざわりな声を上げた。



「このままワシを倒せば、ガーファの住民もミチズレだ……」


「勝手にえてろ、このニセ神様!」



 俺は大魔神の頭を踏みつけた。



「お前、ニセ神様だろ。正体はもう分かってる」


「チガウ……。ワシは偽物ではない。ワシが、ワシがホンモノだ」



「これを見ろ」



 俺はその場を離れ、泉のほとりに立つ。


 泉から幾百幾千いくひゃくいくせん、数え切れないほどのスライムさんが現れ、次々に陸に上がる。


 上陸したスライムさんはあっという間に大魔神を取り囲む。



 スライムさんたちが一斉に光を放ち、そして光が収まった。


 スライムさんたちの内部がほのかに光を発している。



「ア、ア」


 大魔神がおびえた声を発した。



 ――我々は一つにして多なり。


 ――ここにいて、ここにいない。


 ――αアルファであり、Ωオメガである。



 スライムさんたちから、一斉に精神感応テレパシーが発せられる。



「アー、ヤメロ……」


 大魔神の声は弱弱よわよわしい。



 俺はアイオンを手の平に乗せた。


 そして、スライムさんの大集団に言った。



「はーい、皆さん。光を消してください」


 スライムさんが一斉に光を消した。



「この神様が本物だと思うスライムさんは、点滅してください~」



 シーン。誰も光らない。



「……」


 大魔神は無言だ。



「この神様が偽物だと思うスライムさんは、点滅してください〜」



 一斉に光るスライムさんたち。



「ほら、スライムさんはみんなお前を偽物だって言ってるぞ。この神様の劣化れっかコピーが」



「ワシは劣化コピー、ナンカジャ、ナイ」



「はい、恥ずかしいから劣化コピーは消え去ってしまいなさい」



 大魔神はブルブルと震え、そして動かなくなった。



「あら、本当に消えちゃった。まさか自分から消滅してくれるとは思わなかったな」



 俺は中折れ帽を抑えた。



 その時を待っていたかのように、大魔神から光の玉が出現し、それはあたりを飛び回るとスライムさんの一体に入り込んだ。



 ――良くやったな、ジョナン。



 俺の頭に響く声は神様だ。



(ああ、これで俺の、いや俺たちの任務は終了だ)


 ――しかし、よくぞ偽神の正体をあばいたな。


(神様が世界各地のスライムさんに、自らの情報を残してくれたおかげだ。彼らに会えたから、あの大魔神が技術者によって手を加えられた、神様のコピーだって分かったんだ)


 ――上出来じょうできだ、ジョナン。



 スライムさんたちが、一斉に光り輝く。



 ――お主のスライム軍団も、よく復活させたな。


(この三年間、世界各地を歩いてスライムさんを訪ね歩いたのさ。必ずどこかに俺の失ったスライムさんがいる、そう確信したからな)


 ――お見事! よくぞスライム世界のことわりを見つけたな。


(スライム世界に触れることが出来たからね。スライムさんは一つの意識集合体。目の前のスライムさんが死んでも、世界のどこかでまた復活するのさ)


 ――ナルホドな。よし、ワシはお主に付いて行くぞ。お主は面白い。


(そうかぁ? まあいいでしょう。一緒に行っちゃいますか)



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