第13話 錬金工場へ

「ハアハア」

 息が切れる。

 ここまで猛スピードで走って来たからな。ごま塩コンビはどうしている。


 ……いない。あいつら遅いな。


 待つこと5分。


 ようやくごま塩コンビがやって来る。

 二人とも肩で息をしている。


 早く行かないとイケニエ女が来る!


「おい、早く行くぞ」

 俺は二人をうながす。

「待ってくれよ……。うちたち、今来たところだぜ。少し休ませてくれよ」

 ミルポが座り込んだ。

 エスティはリュックを降ろし、タオルを取り出すとミルポの汗をく。


 待つこと2分、ごま塩コンビの息も落ち着いてきた。二人は立ち上がり、準備を整える。

「おっちゃん、あの女とどういう関係なんだ?」と、ミルポ。

「……どういう恨みを買ったのですか?」と、エスティ。


「別に。生贄いけにえの儀式から助けたら、逆に恨まれただけだ」

 俺の言葉にごま塩コンビは顔を見合わせる。

「それって逆恨みじゃん」と、ミルポ。

「でもここまで追ってくるなんて、すごい執念です」と、エスティ。


「おっちゃんが何か悪いことしたんだろ?」

「その執念の裏側が気になります」

「分かった! おっちゃんに裸を見られたから、怒ってるんだろ」

生贄いけにえになるのに、ずいぶんと覚悟があったでしょうに……」


 ああ、色々とうるさい奴らだ。


「ハッ、男女の仲ってのは複雑なのよ!」

 俺はそう言って、ごま塩コンビを黙らせた。


 実のところ、なぜイケニエ女が俺の命を狙うのか正直分からない。……あ、ガーファ大神殿を壊したからか。でもそれだけか?


 ともあれ、スライムさんを手に入れなければ、俺はプリンプリンしないスライムさんみたいな物だ。

 一刻も早くスライムさんを見つけなければ……。



 夜の街を進む。

 目指すは錬金工場だ。

「もう少しで俺が昔働いていた錬金工場がある。そこに行こう」

 俺は早足で歩きながらごま塩コンビに説明する。

「なんで錬金工場へ?」

 ミルポが聞いてくる。

「錬金工場は地下の坑道こうどうと繋がっている。原石を掘る坑道こうどうだな。」

 俺は話しながら水飲み場をのぞき込む。


 いない。


 再び歩き出す。


「原石に魔法を注入すると、魔石になる。そのとき大量の水を使うんだ。魔石が熱をびるので、それを冷やすためだ」

 今度は水路のそばの洗濯場を見る。


 いない。


 再び歩き出す。


「魔石を冷やした水を川に流すんだが、そのままでは流さない。水が汚れているんだ。その水を薬で中和ちゅうわする施設がある。そこによく出るんだ」


 今度は噴水場を見てみる。夜なので噴水は止められていて、水だけが貯められている。

「やはりいないか」

 俺は中折れ帽をおさえた。


 やはり錬金工場に行くしかないか。


「あの……先程からなにを捜しているのですか?」

 エスティが聞いてきた。

「ああ、スライムさんがいないかと思ってな。こういう湿っぽい所に居たりするもんだが……やはりいないか」


 俺はため息をついた。


「そうでしたか。あの、なぜ工場行くのか、ミルポが私より先に聞いていたと思うのですが……」

「ああ、そうだったな。えーと」

「工場に行けばいるんだろ! ス・ラ・イ・ム・さんが! だったら早く行こうぜ」

 ……ミルポの奴、なにを怒っているんだ。



 錬金工場に着いた。錬金工場は昼間だけ稼働して、夜は操業そうぎょうを停止している。従業員は誰もいない。


「確かここら辺に鍵があったはず……」

 あった。植木鉢の下だ。

 しかし相変わらず無防備な工場だ。俺がいた時と変わらないな。

 鍵を開け、工場の中に入る。


 入った先は排水場。辺りは真っ暗だ。

 勝手知ったる工場だ。俺は照明のスイッチを入れた。

 天井の照明が薄っすらと明かりを灯す。


「なんだか暗いぜ」

 ミルポが文句を言う。

「これからだんだんと明るくなる。そうしたらスライムさんを捜すぞ」

「勝手にどうぞ〜」

 ミルポの気のない返事。


 まあいい、ミルポには期待しない。


 一方、エスティはちょこまかと工場内を調べてくれる。

「あっ」と、エスティ。

「スライムさんはいたか!」

 俺はエスティに駆け寄る。

「ちょっと待ってください。あ、スライムさん」


 いた。いましたよ。まさにスライムさん。水色のスライムさんだ。


「スライムさんって、丸くて可愛いですね」

 エスティは両手でスライムさんを持ち上げる。

「そうだろう。言葉はしゃべらず表情もないが、実は奥深い生き物なのだよ。面白いことに、ほれ、スライムさんの匂いをいでみな」

 俺にうながされ、ごま塩コンビがスライムさんの匂いをクンクンとぐ。


「うわ、おひさまの匂いですね」と、エスティ。

「見た目に反して、このおひさまの匂い。このギャップ萌えもスライムさんの魅力の一つだ」

「分かります。いい匂いですね」

 俺の言葉を聞いて、エスティはスライムさんの匂いを再びぐ。

「なんだよ。単なるげた匂いじゃないか。全然良い匂いじゃない」

 ミルポはどこか不満げだ。

「ごめん」と、小さな声でミルポに謝るエスティ。


 なんだ、ケンカはやめてくれよ。

 気まずい雰囲気になってしまった。



「……あの怖いお姉ちゃん、来るかな」

 ミルポがボソッと言った。

「分からないけど……。あの女の人、どことなく他の兵士さんとは別な者のように感じました」

 ふーん、エスティはなかなかにするどい。ミルポと違って観察力がありそうだ。


「イケニエ女たちがここに来るのは間違いない。俺は戦いに必要な物を探す。お前らは隣の部屋で待っていろ。たぶんお菓子がおいてあるぞ」


 来る。イケニエ女はきっと来る。


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