第23話 ミルポ、イライラする

「エスティ、お前はあの吸い込み魔法陣以外は何かできないのか」


 今度はエスティだ。



 エスティはなあ、おっちゃんからなにを言われるのか?



 エスティがしゃべりだす。


「それが私、精霊使いの落ちこぼれで、何も精霊を呼び出すことができないのです。出来ることと言えば、あの魔法陣だけ。いつも失敗して、周りのものを吸い込んで吐き出すばかり。そんな落ちこぼれの私だけ生き残ってしまって……」



 痛たた。魔法のことに触れられると、エスティは駄目駄目モードになるんだ。おっちゃんに一言言わなきゃ。



 おっちゃんに声をかけようとすると、


「そうやって落ち込んでいるのもいいが、今はやれることをやれ。できることをしろ。今は正式な魔法陣を描こうとするな。今のままでいいんだ。今の技を磨け。お前の魔法陣は、あのイケニエ女だって吸い込んだんだ。超絶ちょうぜつ強い技になるぞ」


 おっちゃんが熱く語っている。



 まずいな、これは。



「ジョ、ジョナンさんがそこまで言うのなら、私、頑張ります」


 

 やっぱりなー。エスティ、やる気になっちゃってるよ。






 うちたちは坑道を出て、新たな街に着いた。幸運なことに街に着くまでの間、敵は襲ってこなかった。


 街についたのはお昼ごろ。おっちゃんが宿に頼み込み、荷物を置かせてもらった。ついでにお昼ご飯もお願いする厚かましさをおっちゃんは発揮した。



「お前ら、少しは休めたか?」


 お昼ご飯終了後、おっちゃんが話しかけてきた。


「ありがとうございます。おかげで休めました」


 エスティが丁寧にお辞儀する。


「でもジョナンさんの手際良さにはびっくりしました。普通、お昼ごろのチェックインは嫌がられますけど、よくOKさせましたね」


「ま、そこは経験だ。これでも旅慣れているんでね。それより、宿の人に頼んでやるから風呂にでも入ってさっぱりしたらどうだ。女子にはそういうことも必要だろ」



 なんだかおっちゃんが優しい。


 うちたちに気を使っているのか。



「お気遣い、ありがとうございます。でもお風呂は夜で大丈夫です」


 エスティがまた丁寧なお辞儀をした。



「ミルポはどうだ。大丈夫か。ずっと黙っているが、お前らしくもない」



 お前らしくもないって、うちのことどれだけ知っているんだ。



「うちは大丈夫。それよりこっからは自由時間にしようぜ」



 早くエスティと二人きりになりたい。



「そうだな。よし、これからは自由時間だ」


「やった! エスティ、行こう」


 おっちゃんの言葉が終わらないうちに、エスティの手を取った。


「まあ、待て。そう急ぐな。注意事項がある」



 おっちゃんの言葉に仕方なく席につく。



「このシントは自由都市だ。自由都市にはその都市を治める神はいないが、区画ごとにそれぞれの神をまつるグループが存在する。俺の都市アルカナの神をまつるグループもある」


「当然、ガーファの神をまつるグループもありますね」


 エスティが言った。


「そうだ、だからガーファグループには近づくなよ。イケニエ女がいるかも知れないからな。まあ、自由都市にいる間は、さすがに奴らも攻撃してこないだろう」



 そう言うと、おっちゃんは立ち上がった。


「俺は出かけてくる」


「どちらへ?」と、エスティ。


「言わずもがな、スライムさんを探しに行く」


 おっちゃんは行きかけて、また戻ってきた。


「宿の一階は夜になると酒場になる。俺は酒を飲まないが、酒場には荒くれ者やよろしくない奴らが集まってくる。危ないから夜は部屋に居るようにな。用事は昼のうちに済ませておけよ」


 それだけ言うと、おっちゃんは行ってしまった。






「さてさて、邪魔なおっちゃんもいなくなったし、久しぶりに二人っきりだ」


「うん」と、エスティはうなずいた。


「二人でお出かけしようぜ! 久しぶりにお店に行ってさ」


「でも」と、エスティは乗り気じゃない感じ。


「どうしたの」


「私、魔法陣を勉強してもっとみんなの役に立ちたい」


「おっちゃんからも言われただろ。今のままで良いんだって」



 すると、エスティは珍しくうちのことをにらんだ。



「ジョナンさんがああ言ったのは、私の実力を見て言ったんだよ。確かに私は精霊使いとしての才能はなかったし、兄弟の中でも一番ダメだったし、親からも『お前はダメな子だ』と言われていた。だけど、そんな私だけが生き残ってしまった。私はもっと努力して、みんなの役に立ちたい」


「そうかいそうかい。エスティは変わったね」



「えっ」


 驚いたようにエスティが聞き返す。



「前まではそんな前向きな性格じゃなかった。うちといた時はもっと落ち込んでいた。それをうちが毎日慰めていた」


「そうだったね」


「エスティはいいよ、頑張れば色々なことができるようになる。でもうちには無理。この呪いで何をやったって、相手を攻撃することはできない」


「そんなことないよ。ジョナンさんに言われたでしょ。攻撃を磨けって。『攻撃は最大の防御』だって」


「あいつの言うことなんか聞きたくないよ。もういい、私一人で出かけてくるから!」


「ミルポ!」


 エスティの止める声が聞こえたけど、うちは構わず外に飛び出した。



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