神殺し(ゴッドキラー)、訳してスライム ~女難編~ イケニエ儀式から絶世の美女を救ったら、逆恨みされて殺されそうです。こちらも美少女二人を引き連れて反撃します。

青柳漠(アオアヲさん)

第一章 魔神VSスライムさん

第1話 不吉な女難の相

「あなたには女難じょなんの相が出ていますね」


 なにっ、女難じょなんの相だって! まさか、この俺に。


 

 顔は特に美男子ではないが、悪い方ではない。


 背も高い方ではないが男性の平均身長にはいっている。


 太ってはいないし、ガリガリでもない。


 髪の毛は横と後ろは刈り上げ、上はやや伸ばし気味にしている。全体的には短髪でまとめてある。


この年にしては髪の量は多いぞ。30代でも髪の毛が薄い奴もいるからな。


 

 そんな俺に女難じょなんの相か。



 いや、当然か。アイツとかアイツとか、俺を苦しめる女に心当たりはある。



 街の入口でたまたま見かけた占い師。


 野外で一人ポツンと座って、客待ちをしていたその占い師のことを、俺は妙に気になった。


 しかも占いをすれば良いことがあるという。


 

 しかし当の占い師は髪を七三分けにし、黒縁メガネをかけた若い男だ。占い師と言うよりは神殿の書記官あたりがふさわしい。お固い職業人みたいってことだ。まったくもって占いの説得力がない。



 占い師と言えばしわくちゃな婆さんか、怪しげなフードを被った若い姉ちゃんだろうに。だが目の前の占い師は自信満々だ。占い師の言葉は続く。


「ヒジョーに羨ましい。私は女性と話したこともないと言うのに」


 話したことないなんて、また極端なことを言う。


男性専門の占い師か!


女難じょなんの相とは具体的に言うと何だ? 例えば女に刺される、金を持ち逃げされる、世間に関係をバラされる……とか」


 俺のイメージでは、「女難じょなん」とは痴情ちじょうのもつれだ。妻子ある男性が魔性の女と出会い、身を滅ぼす……。フッ、俺とはあらゆる意味において縁遠い世界だ。


「そこまでは分かりませんが、あなたに女難じょなんの相があることは間違いない」


「いや、間違いないって決めてかかるなよ」


「間違いない!」



 2回も言わないでいいのに。



「ところでお客さん、この街は初めて?」


「……初めてだが」


「商売? 観光?」


「……観光だ」


「それならまずはガーファ大図書館だ。世界各地の書物を集めたと言われている。東の精霊使いや北の巨人族から集めた本もあるんだ。お客さんには向いてないかな?」


「いや、これでも本は読む方だが」


「そうかな? どう見ても本好きには見えないな」


 占い師は小首をかしげる。



 確かに俺の格好は、眼の前の占い師が着ているような白い司祭服ではない。


 本を読むような知識階級は、たいてい司祭服を着ている。



 俺の服装と言えば、



 冒険者御用達のサファリシャツにカーキ色のズボン。


 その上にレザージャケット。帽子はもちろん中折れ帽。



 その昔に活躍した冒険者の服の猿真似だ。オリジナリティのかけらもない。


 だけどこれがいいのだ。



 占い師は続けて、


「むしろガーファ動物園がいいかな。海を渡った先の砂漠地帯にいるラクダやゾウもいる。でもお客さん、動物に興味あるかな?」


「スライムさんがいるなら行くがな」


「スライムなんているわけないでしょ。あんな低級!」



 低級とは……。



 俺は占い師の物言いにムッとした。


「低級とは、お前にスライムさんの何が分かる。いいか、スライムさんは原始的な生き物だ。それは認める。目や鼻もないし、喋りもしないからな。生息場所は主に泉や沼地などだ。大量に発生する時もあれば、まったく見つけられない時もある。知能があるのか? 群れはあるのか? 家族構成は? それらは分かっていない。謎が多い生物だ。だが、大きな特色が二つある。何だかわかるか?」


「えっ、分かりません……」


 俺のスライムさん愛に、占い師は押されている。



 いいぞ。俺はさらに続ける。



「スライムさんの性質は良く分かっていないが、スライムさんに特定の性質を付与ふよすることは可能だ。例えばスライムさんに毒属性を与えることや、スライムさんの表面を鉄のように固くすることも可能だ。これが一つ目だ」


 奴は俺のスライムさん知識に圧倒されている。



 さらにたたみかけるぞ。



「二つ目。スライムさんは会話しない。よってニンゲンとスライムさんの直接的コミュニケーションは不可能だ。だが会話以外でやり取りが可能だ。その方法は分かるか?」


 俺は立ち上がると、上から占い師を覗き込んだ。


「いやー、わっ、分かりません」


「そうだろ、そうだろ」


 占い師のうろたえ振りに、俺は満足した。


「スライムさんの体を掴んで電気を送るんだ」


「電気ですか?」


「そうだ、電気だ。人間の身体には四大元素の一つ、風の力が備わっている。風の力の一種である雷の力、その力を電気と言う。人間の身体には電気がわずかではあるが流れているのだ。その電気信号をスライムさんと交換することで、スライムさんに言うことを聞かせるのだ」


「スライムって、凄いんですね」


「そうだ、凄いんだ。あと忘れるな。スライムだ。を忘れるな。これは敬意を払う意味で大事なことだ」


「は、はい。しかし、あなた様はいったい何者で……」


 俺はハッとして我に返った。



 いかんいかん。少ししゃべりすぎた。


 ここで騒ぎを起こして怪しまれてはいけない。



「俺はスライム研究者だ」


 もちろん嘘だが、占い師は納得してくれたようだ。


「神殿はないか?」


 俺がこの街で目指す場所……。それが「ガーファ大神殿」だ。



「街の中心部に神殿があります。大魔神像のすぐ横だからすぐに分かりますよ。一大スペクタクルの生贄いけにえの儀式がありますから、ぜひどうぞ」


 生贄いけにえの儀式……。そう、それが俺の目的だ。



 これ以上ここにいても時間の無駄だな。


 俺は席を立った。



「ちょっとお待ちを」


 占い師が俺を呼び止めた。手にはひらひらと紙が一枚。


「今なら占いを利用した方に、お得な半額クーポンを差し上げていますよ」


「半額クーポンだって!」


 俺はその紙を奪い取った。


「初回に限り、クーポン使用で半額……」


 チラシの中心にはデカデカと「半額」の文字があり、己の存在を高らかに主張している。



「スー、ハー」


 俺は深呼吸をし、そして盛大に息を吐いた。



 危ないところだった。半額と言ったって最初だけ。つい先程この街に着いたばかりで、お店のこともよく知らない。それに、用が済めばさっさとこの街からオサラバするつもりでいる。



「お客さん、もっとよく読んでくださいよ」


 こちらの心を読んだかのように、占い師はチラシの下の方をちょんちょんと指さした。



 またもや大きな字で、半額! 半額! と字が踊る。



「どうせ期間限定のクーポンだろ」


「お客さん、そんなちんけなキャンペーンはこの街ではやってませんよ。期間指定はなし! 2回、3回と使えるクーポンです」


「2回、3回と連続で使用可能だって! しかも期間指定なしとは!」


 ことの重大性に、俺は思わず叫んでしまった。


 占い師は勝ち誇ったかのように笑みを浮かべる。


 この街からすぐ立ち去る予定の俺には、誠に都合の良いクーポンだ。



「ここに、名前、書いて」


 いきなり砕けた口調になった占い師に若干じゃっかん腹を立てながらも、俺は指定された箇所に名前を書き込んだ。


「お客さん、『ジョナン』って言うんだ。ここと、ここにも名前書いて」


 俺は占い師の言うがままにサインした。



「ありがとうございました」


 占い師の声を背中に聞きながらその場を離れた。


 あれ? 署名欄の下に小さくて細かな文字が書いてあったな。良く読んでいなかった。


 まあ、いいか。






 外に出た。


 

 目的地の目印は大魔神像だ。手前の建物の向こう側に、大魔神像の上半身が見える。ここから見えるということは、かなり巨大な建造物だ。



 実は占いを受ける前からあの大魔神像には目をつけていた。


 この街で一番目立つ場所。合流するには最適な場所だ。



 俺はレザージャケットの内ポケットから試験管を取り出した。割れないように加工した特殊ガラス製だ。



 試験管の中には赤色の物質が入っている。


 赤色はこの子だな。



「カスリーン!」



 確認の意味を込めて名前を呼ぶ。


 俺の身体から流れ出た電気信号が試験管に伝わり、真ん丸のプリンプリン状の物体が飛び出す。


 試験管から飛び出した赤いスライムさん、「カスリーン」が俺にのしかかってくる!


 いや、優しく俺を包み込んでくれる。



 いいねぇ~、この瞬間。


 しかもスライムさん特有のお日様の匂い。


 最高の気分だ。



 ぐにょぐにょと、スライムさんに全身をすっぽりとおおわれる俺。


 これで光の透過率とうかりつを操作して、俺は透明になったのだ!



 さらに……、



「アイオン!」



 こんどはだいだい色のスライムさんが試験管から飛び出す。


 アイオンは真ん丸のプリンプリン状の体を、カチカチで四角い板状の形に変えた。



 俺はアイオンの上に両足を乗せ、直立不動の態勢を取る。



「飛べ!」



 電気信号を足元からアイオンに送る。


 俺を乗せたアイオンはふわっと浮かび上がり、そのまま急上昇した。


「おっと」


 中折れ帽が風に飛ばされるのを、俺は慌ててキャッチした。



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