第36話 再会・再開
ひとしきり笑った後、俺は身体を起こそうと腹に力を入れた。なかなか身体が起き上がらない。
結局、エスティに
「だいぶ体力が衰えているな……」
ふぅ〜。俺はため息をついた。何となしに部屋の扉を見る。
俺の視界に
くっ、全然気づかなかった。
俺はベッドから起き上がろうとした。
だが、やはり力が入らない。ベッドの上に尻もちをついた。
「おいおい、おっちゃん。無理するなよ」
聞き覚えのある声だ。扉の前に立っている
ミルポだ。ミルポがいたずらっ子のように笑っている。
「みんなひどいな。うちだけ
「ミルポ……よかった。エスティも……よかった」
常識人としては、「よかった」としか言えなかった。
「しかし俺は一体……」
「エスティが精霊に聞いて、おっちゃんのことを見つけたんだぜ」
なぜかミルポが誇らしげに言う。
「そうか、ありがとうエスティ」
「いえ……私が悪いから。でもよかったです」
泣き笑いのエスティ。
「別にエスティが悪いわけじゃない。あの時は
神様のことは黙っておこう。
「おっちゃんにお礼を言わないとな。うちの身代わりになってくれた」
ミルポは照れくさそうに言った。
「常識人として、大人として、やる時はやらないとな」
「おっちゃん、カッコイイー」
そう言うと、ミルポは俺をバンバン叩く。
「痛い、叩くのはやめろ」
痛いということは、俺に敵意はない証拠だ。
「ジョナンさん……」
エスティの泣きベソもようやく直ったようだ。
「しかし、ここはどこだ? あれからどうなったんだ」
改めて部屋を観察する。
俺のいるベッド、机や椅子、壁際のタンス。手入れが行き届いている。ごま塩コンビのような子どもには、ここまでの用意はできないだろう。
「それは……」
エスティが口ごもる。
ミルポも微妙な顔をしている。
「踊り子さん達の家の可能性もあるかな……」
誰の家だろうと思いながら、俺は部屋を見た。
「見事だったぞ、ジョナン」
部屋の奥から聞こえてきたその声は……。恐る恐る声の主を確かめる。
やはりイケニエ女、リーニエだ。
「……何だ、その
そこら辺の町娘と変わらない、いたって普通の服に髪も簡単にまとめただけ。互いに戦った時とはだいぶ印象が違う。
「
「何故って、ここは私の家だからな」
そうか、そうだったのか。
「お前が俺を助けてくれたのか」
リーニエは肩をすくめた。
「探すつもりはなかったのだ。だが不思議なことに、スライムさんが私を導いたのだ。それで泉に戻ってみたのだが、誰もいない。
「私たちも魔法陣から色々なものが吐き出されたから、ジョナンさんがいないか確認したのです。でも結局見つからなかった」
エスティが申し訳無さそうに言った。
「そうだったのか……」
しかし、なぜ俺は透明になってたんだ?
無意識のうちにカスリーンを身につけたのか、それともあの神様が気を
多分神様だな。俺の死んだふり作戦を続けたかったのだろう。つくづく余計なことをする神様だ。
「ところで、カスリーンはどうなった」
俺はリーニエに
「なんだ、カスリーンとは?」
「その透明なスライムさんのことだ。そのスライムさんの名前がカスリーンだ」
「お前を助けたときは姿を現したのだが、いつの間にかいなくなっていたよ。すまない。代わりに違うスライムを連れてきたのだが」
それが床にいる水色のスライムさんか。
「リーニエ、いいんだ。スライムさんは気まぐれな奴らだからしょうがない」
「この水色のスライムさんでは、そのカスリーンの代わりにはならないのか?」
「そんな簡単なものじゃない。スライムさんの育成には時間がかかるんだ」
「そんなものか。私にはどれもおなじに見えるが」
そう言うと、リーニエは水色のスライムさんを抱き上げた。
「今日からお前はカスリーンだ。いいな」
「そんなことが出来れば、誰も苦労はしないぞ。リーニエも案外お気楽な性格だな」
「そうか、私はお気楽な性格だったのか」
フフッとリーニエが笑みを浮かべた。
「さて、そろそろ活動再開だ。ところで、ここはどこだ? リーニエの家なのは分かったが」
皆の視線が俺に集まる。
「ガーファ」「ガーファな」「ガーファです」
三人のタイミングがバッチリ合った。
「なにっ、ガーファ! ガーファだって?」
「そう! 私たちの目的地です」
「おっちゃん、もう着いたんだぜ」
ごま塩コンビは
「おい、俺の服は。俺の装備は」
リーニエは首を振り、
「そんなものはない。お前は真っ裸だったからな。だが心配するな。可能な限りお前の装備は整えておいた。後で身につけるがいい」
「リーニエ、すまない」
「礼はいい。今まで
意外なことに、この
「お互い、裸を見合った仲だ。なんの遠慮もいらないだろう」
「なっ」
俺はビックリして思わず声をあげた。
「それはどういうことだ」
「どうもこうも、私の裸はお前たちも散々見ただろう。今回、ジョナンも真っ裸だったし、ここで寝ている間、身体を
「ハハハ、そうね、ハハハ」
そっとごま塩コンビの様子を
ここは常識人として、訂正しておかねば。
「下の世話って、生理現象の処理だぞ。勘違いするな」
「生理現象ね~」
そう言うと、ミルポは相変わらずニヤニヤ。エスティは耳まで赤い。
そうか、生理現象にも色々な意味がある。
「この場合の生理現象は、オシッコとかだな……」
俺の言い訳はしばらく続くのだった。
「準備はできたようだな」
隣の部屋から鎧に身を包んだリーニエが現れた。今度の鎧は黄金に輝く鎧だった。
ご丁寧に白いマント付きだ。
兜は着用せず、その長い金髪を
上から下まで黄金ずくめだ。
「また鎧を
「非常に
リーニエはこちらを見て笑った。
俺の隣でリーニエが笑っている。あのイケニエ女が……。
俺はいつもと違う感じに戸惑った。
「? どうした」
そんな俺の様子を見て、リーニエが聞いてくる。
「べっ、別になんでもない。それより俺の装備は?」
俺の装備はサファリシャツにレザージャケット、カーキ色のズボンに、やっぱりこれだね中折れ帽子。
しかし、リーニエと並んで立つと、何とも経済的格差を感じてしまう。
「ジョナンにはそれくらいがお似合いだ。あまり高望みをするな。身を滅ぼすぞ」
ありがたいリーニエのお言葉。
やはりリーニエはイケニエ女だ。
もぞもぞと床をスライムさんが
(神様はこの街のシステムを止めたりできるんだろう?)
スライムさんを通して、神様と
――それは可能だ。だが、あまりやりすぎるとワシの存在がバレてしまう。大規模な混乱を引き起こせるのは一回だけと思った方がいい。
(大規模でなくてもいい。この街の住民には迷惑をかけたくない。俺たちは神殿に向かえばいいんだろう?)
――そうだ。ワシは神殿の魔神像の中に閉じ込められている。魔神像を壊せば、ワシは
(わかった)
神様との
俺は皆に話した。
「目標は神殿の魔神像だ。目的はガーファの解放だ」
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