第38話 リーニエ無双2

 リーダーが倒され、他の黒タイツ達が襲ってきた。


「私がこいつらの相手をする。討ち漏らした者だけよろしく頼む」


「お前一人で大丈夫か」


 思わずリーニエに声をかける俺。



「私のことを心配してくれるのか?」


「いや、まあ、一応」


「安心しろ、私は強い」



 リーニエは鉄製のムチを取り出した。



「お前の仲間のヨーコだったか、同じやり方を試させてもらう」


 ビシバシとムチが地面を穿うがつ。


「ムチという武器も、なかなかいいものだ」


 リーニエはムチを飛ばし、前方にいる黒ずくめの一人をそのムチでからめとった。



「お前たち、しゃがめ」


 リーニエの声を聞いて、俺たちは慌ててその場にしゃがみ込む。



 リーニエはムチで絡み取った黒タイツを上空に持ち上げると、ビュンビュンと回し始めた。


 リーニエを中心にムチを回し、俺たちを囲んでいる敵を次々となぎ倒していく。



「ムチってああいう使い方でしたっけ」


「何か違うぜ」


 次々に倒されていく敵を見て、頭を伏せたごま塩コンビが驚いている。



「こいつはすごいぜ」


 俺も思わずうなった。



 リーニエは強い!


 こいつは別格だ。


 リーニエに頼れば、神殿まで楽勝だ。



 俺は中折れ帽を取ると、髪をかきあげた。



 リーニエは残った敵を素早い動きで一人一人仕留めていく。



 結局、俺やごま塩コンビの出番はまったくなかった。


 敵は全て戦闘不能になった。しかも戦闘不能にしただけで、命に別状はない。



 ――やるな、リーニエ。まさに人類最強だ。


 神様も感心しきりだ。



 そんな奴に付きまとわれた俺の身にもなってみろ。






 状況を整理しようと、俺は辺り一帯を見た。


 いたるところで火事が起こり、住民同士のいざこざが起こっている。



(神様、これはいったい……。本当に、少し混乱させただけなのか?)


 ――おかしいな。ほんのちょっとシステムにちょっかいを出しただけなのだが。



 これでは市民生活が麻痺してしまうぞ。



「ジョナン」


 リーニエは遠くに立ち上る煙を見ている。


「これから私は市長の元に行き、この混乱の対策を頼むつもりだ。そしてできるなら、市民達を助けたいと思う。残念だがジョナンへの協力はここまでだ」



 突然の提案。だが状況を考えると、これは仕方がない。



「いいぜ。お前の協力なんか、最初から当てにしていなかった」


「頼もしいな」

 リーニエはそう笑うと、ごま塩コンビに向かってしゃがみこんだ。



「ミルポ。エスティ。悪いがこのスライムバカをサポートしてやってくれ」


「了解だぜ」


「わかりました」


 ごま塩コンビも明るく答える。


 ……そうしてリーニエは去って行った。



「おい、どうする」


 俺はごま塩コンビに言った。



「リーニエがいなくなったら、とても神殿までたどり着けないぞ」


「なんだよ、さっきはカッコよく『お前の協力なんか最初から当てにしなかった』って言ったのに」


 ミルポに責められる。



「バカ、あの場でああ言わないと、リーニエの奴がどう反応するか分からんだろ」


「でも正直に言ったほうが良かったですよ。何か良いアイテムをくれたかも」


 エスティの言う通り、少しは泣き言を言ったほうが良かったか……。しかしもう後の祭りだ。



「ああ〜俺たち三人で、どうやって神殿までたどり着くんだ」


「おっちゃん!」


 ミルポが俺の言葉をさえぎった。



「おっちゃん、見苦しいぞ。そして、みっともない!」


 ハッとしてミルポを見た。ミルポは厳しい表情をしている。が、ニカッと笑った。


「うち達の力を甘く見ちゃいけないぜ」


「そうですよ、私たちジョナンさんがいなくなってから、だいぶ力をつけたのですから」


 そう言うとエスティは小さくガッツポーズをした。



「そうは言ってもな……」



 ――まずい。


 今度は神様か。



(どうした神様)


 ――奴ら、ワシが悪さをしているのに気がついたらしい。回線がシャットダウンされる。


(何だって!)


 ――悪いが、ワシはもうだめだ。神殿でまた会おう。


(おい、神様! 応答しろ。もしも~し)



 駄目だ、反応なし。



 ……ほんとうの意味で、俺たち三人だけになってしまった。






 神殿まで続く道には誰もいない。


 敵も現れない。


 俺たちは無人の道を行く。


 あまりに敵が出てこないので、だんだんと緊張感が解けていく。


 俺は思わず語りたくなってきた。



「お前たちには感謝してるよ」


 それは嘘偽うそいつわりのない、俺の本心だ。



「俺がここまで来られたのは、お前たちのおかげだ。お前たちの力がなければ、スライムのいないスライム使いの俺は、ここまでたどり着けなかっただろう」



「それは私も同じです。私だって落ちこぼれの精霊使いでした」



「うちだって、呪いのおかげでろくに力を出せなかった。それをおっちゃんのアドバイスで呪いを利用して、みんなを守れるようになった」



「お前たち……ありがとう」


「ジョナンさん、まだ目的は達していませんよ」


「そうだぜ、おっちゃん」


 ごま塩コンビの言葉に、俺は改めて身を引き締めた。



「それにしても拍子抜けだな」


 俺は周りを見る。



 敵がいない。



 俺たちはあっけなく神殿についた。



 神殿は無惨むざんな姿をさらしていた。壁はところどころ崩れ、しかもどでかい穴まで開いている。


 それとは対照的に、神殿横の大魔神像は傷ひとつない。神殿より頭一つ大きい大魔神像だが、前回の戦いではピクリとも動かなかった。



 この大魔神像は、神殿の中の小魔神像と同じく、目が横線・鼻が縦線・口が黒丸だ。何度見ても間抜けな顔だ。



 俺は改めて神殿を見る。



「神殿が荒れ果てているなんて、一体どうした?」


 俺は思わずつぶやいた。



 ……俺がスライムさんを使って壊したのか。こりゃ可笑おかしい。


 俺は腹の中でひそかに笑った。



 ゴゴゴゴゴゴゴ



 突然の大轟音だいごうおん。大魔神像が動き出した。



「ジョナン、待っていたぞ」


 大魔神から響いてきた声、これは精神感応テレパシーか。



「なんだよ、この声」


「あの魔神像からです」


 ごま塩コンビが騒いでいる。どうやら俺たち三人に向けての精神感応テレパシーだ。



 しかし、この声は神様?! どういうことだ。



「この大魔神が、お前たちをほうむってやる」


 なぜ神様が俺たちと戦うんだ。訳が分からない。


 俺は中折れ帽をおさえた。



「ごま塩コンビ、後はお前たちに任せた」


 俺は物陰に隠れる。



「ハハハ、ジョナン。お前まさかの丸投げか。相変わらず無責任な奴だ」



 神様、お前に何が分かる。



「無責任じゃない。これは、言わば俺の信頼の証だ。それに俺は体調が万全じゃない」



 思わず大魔神に向かって叫んでしまった。



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