第39話 逆転のスライム愛

「オーケー」


「分かりました」


 ごま塩コンビが元気のいい返事をする。



「ごま塩コンビが出てきたところで、エスティは吸って吐くだけ。ミルポは防御だけ。それでワシに勝てるのか」



 確かに神様の言う通り。しかし、物事はやってみなければ分からないだろ!



「うちに任せな!」


 ミルポがウイングボードを駆って大魔神に向かって行く。



「うちが大魔神の攻撃を全部防ぐ! エスティは魔法陣をお願い!」


 ミルポは空中に浮かんだ状態で、大魔神の真正面に陣取った。



 エスティは……早速魔法陣を描いている。お、魔法陣を描くスピードが明らかに速くなっている。



 ミルポとエスティによる、当たり前の当たり前による作戦。



 この正攻法で大魔神を倒す! これしかない!



「ではワシも、力攻めの正攻法だ」


 大魔神はその巨大な右腕を振り上げると、空中にいるミルポに向かって振り下ろす。



 ミルポはその腕に向かって左腕を繰り出す。



 あまりにも大きさが違いすぎる両者の一撃が交差する。



 ミルポ、大丈夫か……。大丈夫と分かっていても、不安がよぎる。



 大轟音だいごうおん……はしなかった。ただ、ミルポのこぶしが大魔神の拳を押し止めていた。



「しゃらくさい!」


 今度は大魔神の左腕によるストレートパンチ。



「ハア!」


 ミルポの右ストレート!



 互いの拳が打ち合わされる。



 やはり無音。だが、ミルポと大魔神の力と力のぶつかり合いがこちらに伝わってくる。



「恐れおののけ~」



 出た! エスティの魔法陣完成の声。



 魔法陣による吸い込みが始まる。向き、角度は完璧。空中にいるミルポを外し、大魔神に狙いをつけている。



 タイミングよくミルポは拳を引っ込め、さらに上空へと退避する。



 バランスを崩した大魔神は魔法陣へと引き寄せられ、轟音とともに魔法陣の上に倒れ込んだ。



 このまま吸い込むことができれば、大魔神とアイオンは別々に吐き出される。そうなればアイオンを取り戻せる。



 神様は?



 あんな気まぐれな神様のことなど誰が知るものか。



 だが、大魔神の体は魔法陣の上で止まったままだ。ちょうど魔法陣にフタをしたみたいな形になる。



 魔法陣に対して、大魔神のサイズが大き過ぎるのか?



 エスティは必死になって魔法陣に魔力を送り込んでいるようだ。


 だがこの状況、エスティの魔力では無理かもしれない。



「ヌオー」


 うつ伏せ状態になった大魔神は手足を動かして、その場から逃れようともがいている。


 地面が揺れ、石畳が破壊される。まるで赤ん坊がイヤイヤをしているようだ。



「キャッ」


 エスティの叫び声。



 大魔神が暴れることで一番被害を受けるのはエスティだ。



 俺は物陰から飛び出した。


 走りながら上を見る。


 ミルポもこちらに向かっているが、俺の方が早く着く。


 俺はエスティの前に立った。降り注ぐ物からエスティを守る覚悟だ。



「エスティ、大丈夫か」


 エスティの顔色が悪い。



「ええ、身体は大丈夫です。ですが、魔力がきそうです」


「そうなのか? ……分かった、ひとまず魔法陣の魔力を解け」


「えっ、でも」


「いいから、言う通りにしろ」



 魔法陣から光が消えていく。


 エスティが魔力を解いたのだ。



 大魔神がその巨体を起こし、立ち上がる。


 巨体だけにその動きはゆっくりだ。その間にミルポが戻って来る。



「おっちゃん……」


「ジョナンさん……」



 ごま塩コンビがこちらを見る。無理もない。何をしたらいいのか分からないのだろう。ここは俺の出番だ。しかし、どうしたらいい。



 その時、俺の背中に隠れていた水色スライムさんがモゾモゾと動くと、俺たちの前に飛び出した。



 そうだ、今こそ俺のスライム愛が試されるときだ。



 俺はスライムさんに触った。



 神様がいないのに、俺にできるのか?


 できるさ。一度はスライム世界と交流できたんだ。



 俺はスライムさんと電気信号の交換をした。



 あいさつはこれくらい。いよいよ本題だ。


 深層へ。






 俺は目を開けた。



 そこには何も無かった。


 ただ、地面にはうっすらと水が張っている。


 俺が歩くと足元の水がはね、バシャバシャと音がする。


 しかし水の冷たさは感じられない。



 あの時はカスリーンやアイオン……他のスライムさんの気配が感じられたのに……。


 やはり神様がいなければ、スライムさんとの心の交流はできないのか。


 いや待て、俺とスライムさんの間柄はそんなものじゃない。


 何か在るはずだ、何か。



 光が見えた。遠くにポツポツと光が見えた。何もないわけじゃない。ちゃんと光がある。



 それより近くに一つ、光が見えた。



 そしてさらに手前、手の届きそうな所に光が一つ見えた。もしかして、これは……。






 俺は我に返った。目の前には大魔神。



 俺は水色のスライムさんを手の平に乗せ、天高く掲げた。



「アイオン、聞こえるか! こちらに来い!」



 アイオンはあの大魔神に捕らえられている。場所が分かればおそらく可能だ!



 俺の声は電気信号となり、手の平のスライムさんを通じて、アイオンに届いているはずだ。



「馬鹿め、人の声などスライムには届かないわ」


 大魔神のあざけりの声。



「どうかな? 俺は自分自身を信じる!」



 水色のスライムさんが光りだした。そのあまりの眩しさに、俺は目をつぶる。



 ……光が収まり、目を開けた。



 手の平には、だいだい色のスライムさん。



 今、電気信号の交換は終わった。



 まさしくアイオンだ。



「何〜馬鹿な。アイオンはワシの中に捕えられている。なのに何故なぜ〜」



 大魔神が悔しがる。



 ざまあみろ。これが俺のスライム愛だ!



 確か……スライムさんは一つでもあり、全てでもある。アルファでもあり、オメガでもある。


 見つけることができれば、スライムさんはアイオンにもなるし、カスリーンにもなれる。


 スライムさんの体は器。


 器には、スライム世界にいるあらゆる個性を注ぐことができるのだ!



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