第20話 夜明けは遠い

「そうか、お前たちは神に匹敵する力を操れる、いわば神殺し。そうか……」


 ヨーコから聞いてはいたが、改めて本人たちの口から語られると重みが違う。



 俺はしばし言葉を失った。



「おっちゃん」


「ジョナンさん」


 ごま塩コンビが俺に声をかける。



「俺も、お前たちと同じ神殺しだ」


 俺は意識して、声高らかに言った。


「もう一度言う。俺とお前たちは同じだ。俺も神殺しだ」



「おっちゃん……」


「ジョナンさん……」


 ごま塩コンビは声を合わせて、


「本当に神殺し〜」


と、疑わしそうに言った。



「そうだ、俺はスライム使いだ」


「それは知っていた」と、ミルポ。


「ジョナンさん。スライム使いって、神と戦えるのですか?」



 エスティが疑問形でたずねてくる。



「大丈夫だ。古来、『バカとスライムは使いよう』という言葉がある。俺が使えば、神だって何だって倒せる」


「おっちゃん、よく言うわ」


 ごま塩コンビの落胆らくたんがこちらにビンビンと伝わってきた。



「ま、まあそれはともかく、そんなお前らがなぜヨーコの下へ」


「私たちとヨーコ姉ちゃんの間には、そんな契約はないよ」と、ミルポ。


「小さい時にヨーコさんに引き取られました。衣食住を提供していただいた恩はありますが……」と、エスティ。



「何年ぐらいヨーコのところにいたんだ」


「三年くらいでしょうか」


 エスティは指を折りながら言った。


「なに、お前らそんな前からヨーコの所にいたのか」


 俺がヨーコの紹介でスライム使いに転職したのとほぼ同時期じゃないか。こんな奴らがいたとはね。まったく知らなかった。



「お前たちとヨーコの間に契約はない、ということだな」


 俺はもう一度ごま塩コンビに確認をした。


「そうだぜ」


「はい」


 ごま塩コンビはうなずいた。



「そうか。契約がないなら強制はできないな。でも、ガーファの魔神は親の敵なんだろう? 俺はガーファに残したアイオンを助けたい。お前たちは魔神を倒したい。どうだ、お互い協力できるんじゃないか」



 二人は顔を見合わせる。



「俺と一緒だとイケニエ女に高確率で襲われるが、なーに、もし俺が倒されたとしてもだ。イケニエ女はお前たちに悪い扱いはしないだろう」



 ここはイケニエ女の人柄をアピールだ。


 うん、何かおかしいな。まあ、いい。



「ここはエスティが決めて」


 いきなり、ミルポが言った。


「えっ」と、驚くエスティ。


「うちは、エスティについていくだけだから。エスティが決めてくれ」


「わかりました」と、エスティ。



「私たちは、ジョナンさんに協力できません」


 エスティはキッパリと言った。



「親のかたきは打ちたいです。ですが、先程の戦闘で思い知りました。私たちにはその力はありません。もっと自分たちの力を高めたいと思います」



 エスティの冷静な自己分析。



「そうか……。しょうがないな」



 ここは一旦、エスティの意思を尊重しよう。


 実はこのあと、ヨーコと合流する予定なのだ。


 しかもヨーコはスライムさんたちを連れてくる。イケニエ女のあの態度が気になるが、ヨーコは強い。約束通り来てくれるだろう。



「俺に協力できないことは分かった。だが、とにかく次の街まで行こうじゃないか」



 俺たちは坑道の出口へ向かった。



 俺の家から続いた戦いに皆疲れていたが、緊張しているせいか眠くはない。



 ただ無言で歩く。






 坑道の出口に着いた。


 俺は敵に場所を悟られないように、坑道の出口より少し手前にいた。



 ここでヨーコと落ち合う約束だ。



「おい、ヨーコはまだ来ないのか。もうすぐ夜が明ける時間だぞ」


 俺はイライラしてきた。



 ああ、スライムさんたちに早く会いたい。



「ヨーコ姉ちゃん、いないな」


「ヨーコさんはいないですね」


 ごま塩コンビに辺りを捜させたが、いない。


 まさかあのヨーコがやられるわけはないと思うが、どこへ行ったのかヨーコの奴。



 俺は坑道から出ようとする。



「おっちゃん、ここから出たら敵に場所を知られるぜ。こっから出るのはヨーコ姉ちゃんに会ってからだ」


 俺はミルポに押し戻される。


「そんなこたあ、どうだっていい。ヨーコを捜す」


「おっちゃん、めろ」



 ミルポと押し合いへし合いが始まる。



 その最中、俺の顔をかすめ岩に何かが突き刺さった。


「誰だ、危ないな。もう少しで顔に当たるところだったぞ。いや、違うな。顔をかすめるように、狙って投げたのか?」



 俺の脳裏のうりに一人の女が浮かぶ。


 ……ヨーコだ。



「これは……。ナイフのつかに手紙が挟まっています」


 エスティが魔光石の下で手紙を広げた。


 手紙を読み進めたエスティの動きが止まる。


「な、なんて書いてあるんだ」



 エスティの表情に、一瞬だけ哀れみの表情が浮かんだのを、俺は見逃さなかった。



「ジョナン、ごめんね。スライムちゃんたち、あのイケニエ女に全員殺されちゃった」



 わざわざヨーコの声色こわいろを真似て、エスティが手紙を読む。



 俺は中折れ帽をおさえた。


 ぜ、全員死んでしまったのか?



 ノーラ、オーラ。お前たちも俺の元から去ってしまうのか。



 エスティから手紙を手渡された。


 ……確かにエスティが読み上げたとおりだ。



 俺は坑道から出ると、周囲を見渡した。


 辺りはゴツゴツとした岩がたくさんある。


 隠れる所だらけだ。



 ヨーコの姿はないが、必ずどこかにいるはずだ。



「俺のスライムさんたちを、一匹も守れなかっただと〜。聞こえているんだろう! ここに出てちゃんと釈明しゃくめいしろ! 本当に一匹残らずやられてしまったのか! おい、ヨーコ」



 だが、ヨーコは姿を現さない。


 ミルポも俺を押し戻したりしない。



 夜はまだ明けていない。



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