第3話 眠るイケニエ女
バキ! ドカ!
またもや魔神の攻撃に吹き飛ばされる。
通常ならこれで二回死んでいる。死因は
だがしかし、俺はカスリーンによって守られている。カスリーンは俺を透明にするだけでなく、身体を包んで守ってくれる。結構痛いが傷は負わない。
しかし何かおかしい。こちらは透明だ。さらにスライムさんによる素早い振り子移動。簡単には攻撃が当たらないはず。
だが魔神は苦もなく攻撃を当ててきた。
心が読まれているのか?
これもガーファシステムのせいなのか?
中折れ帽を取り髪をかきあげ、帽子をかぶり直す。
ならば!
カスリーンの透明化を解いた。
どのみち心を読まれているのであれば、透明の意味はない。
天井のルースはまだ魔神の上に残っている。
よし!
俺は自分の足で魔神に向かって駆け出す。
魔神がその足を振り下ろす。
俺は無心で真っ直ぐ走る。
ドーン! と、俺の左1mのところに巨大な足が降ろされる。俺は上を見上げる。ちょうど魔神を真下から見上げる形になる。俺はそのまま魔神の後方へ駆け抜ける。
魔神は足を上げて方向転換しようとする。
だが魔神の足は動かない。
そう、今この床には赤色のカスリーンがベチャーと広がって、床と一体化しているのだ。
カスリーンに
チャンス! とばかりに天井から伸びた紫色のルースにつかまる。
ルースは俺を持ち上げる。
目の前の対象物が、魔神の足、腰、胸、と移り変わっていく。
魔神の攻撃!
魔神の左パンチが俺の右横1mで空を切る。今度は俺の左横1m。俺はノーダメージで魔神の頭の上に着地した。
「スライムさんにかかれば、お前なんて楽勝だ。攻撃が当たらないだろ? さもありなん。今の俺の動き、全てスライムさんによるものだからだ。なので、結論! 俺の心を読んでもム・ダ! って訳だ」
魔神の蹴りはカスリーンが床を動かし俺を移動させることで、パンチはルースが触手を動かすことで
魔神の動きが止まった。
「おいおいどうした〜。もう終わりか〜」
俺はステージ上を見た。
でも魔神がこのまま動けないのなら、スライムボムで爆破するなり、スライムカッターで切断するなりして魔神を倒せる。
依頼主からは魔神の相手をするな、と言われているが……。
決めた! 魔神を破壊しよう。
スライムさんの力を皆に見せつけてやれ!
そう思い、俺がルースにつかまろうと手を伸ばす。
その時、
「グオオオオ」
魔神が叫んだ。いや、
魔神の頭が動き、その顔が天井を向く。
俺は慌ててルースにつかまり、地上に落ちるのを防ぐ。
そして、魔神の目のあたりから発光体が天井に伸びていくのを見た。
発光体が天井に当たると、みるみるうちに天井が焼け焦げていく。
手の中の触手からは、ルースの
触手が
クソッ。
中折れ帽をおさえながら、ルースだった触手を地面に向けて投げる。
俺が落下する寸前、床と一体化したカスリーンが俺を受け止めた。
魔神がこちらを向く。
ギョッとして、俺は思わず中折れ帽をおさえた。
魔神の顔が怒りの
眉は吊り上がり、眼はカッと見開き、口はへの字にぐっと突き出されている。
魔神の目が光りだした。
やられる!
カスリーンが
カスリーンの体がだんだんと焼け焦げ、溶けていく。
俺は走った。逃げた。
カスリーンが自分の意志で俺を守った? いや、俺が無意識でとっさに電気信号を送ったのだろう。
自分が助かるために、カスリーンを犠牲にしたんだ。
クソったれ。
でも……ただじゃ帰れない。
辺り一帯は魔神の熱光線によって天井が
こいつらのこと忘れていた。壁を溶かした後、ステージ上に向かうよう指示していたのだ。
そもそも俺の目的は
俺は思わず中折れ帽をおさえた。
司祭は逃げたらしく誰もいない。
近寄ると白い肌が目に飛び込んできた。
俺が会った女の中では間違いなく一番の美女だ。
随分と背の高い女だ。俺と同じくらいの身長か。
長い金色の髪が、
イケニエ女に俺が持っていたマントをかぶせる。群衆の誰かの落とし物だ。
二枚のマントを
俺は女を両手で抱え、スライムさんに開けさせた壁穴に向かう。
お、重い。
いわゆるお姫様抱っこのせいで、俺の腕は限界に達した。
俺は黄色のデラを地面に放つ。デラはたちまち簡単なベッドのような形になる。
俺はガクガクと震える手でイケニエ女をスライムベッドに乗せる。
続いて緑色のジュディスをスライムベッドの上に
天井の
ジュディスによってイケニエ女は守られるだろう。
黄色のスライムベッドは、早速壁穴に向かってイケニエ女を運び出す。
黄色のベッド……。ちょっと色合いが良くないな。
背後に魔神の足音が響く。
こちらに迫ってくる!
「デラ! 走れ走れ」
声をかけても意味がないと知りながら、どうしても声をかけてしまう。
走れ、走れ!
俺は中折れ帽をおさえながら走る。
スライムベッドの前にガレキが落ちてくる。
「危ない!」
スライムベッドはそれを器用に
これなら大丈夫か。
俺も上から降ってくるガレキを
「もうすぐ出口だ」
俺は
その時、熱光線が天井に当たるのが見えた。
魔神の攻撃により
ちょうどその真下にスライムベッド。
まさか
俺は中折れ帽をおさえた。
俺はスライムベッドに駆け寄った。砂煙が消えると、ガレキの向こう側にマントにくるまった女の姿が見える。
イケニエ女は無事か? デラとジュディスはどこだ。
……緑色のジュディスはガレキの下でぐちゃぐちゃになっていた。おそらくイケニエ女を守ったのだ。
俺は手遅れだと分かっていたが、ジュディスの体に触れる。電気信号は確認できなかった。
ジュディス、すまない……。
俺はイケニエ女のところに向かい状態を確認する。
幸いマントに包まれていたおかげで
俺はイケニエ女の身体を起こした。まだ気を失っていてグッタリしている。
デラはどこだ。もう一度スライムベッドでイケニエ女を運ぼう。
向こう側に黄色が見えた。
俺はイケニエ女を丁寧に地面に寝かせると、デラの元に向かった。
デラ……。
俺は中折れ帽をおさえた。
俺が見たものはデラだった物のカケラだった。
ガレキでその体を
デラもまた、イケニエ女を守るためその身を犠牲にしたのだ。
念のため、デラの電気信号を確認する。
……。
やはり電気信号は確認できなかった。
俺はイケニエ女の元に戻った。
「よいしょ、と」
俺はイケニエ女の脇の下を持って身体を起こした。そして左肩を女の腹の部分に当て、女を担ぎ上げその足の部分を持った。
周囲が騒がしい。
改めて状況を確認する。
背後から魔神。
スライムさんに開けさせた壁穴から
もう一方の壁穴からも
完全に囲まれた。
しかもこちらはイケニエ女を担いでいる。
手持ちのスライムさんはもういない。
いや、待て。もうそろそろ時間だ。
神殿の壁に開いた穴から、二体のスライムボールが転がり込んできた。
さらに俺の背中がもぞもぞ、もぞもぞとする。俺が背中を触ると、いた! スライムさん!
コイツはアイオン!
俺が魔神に吹き飛ばされたとき、慌てて回収しておいたんだ。
ずっと背中にへばりついていたのか。気づかなかった。
これでこの場から逃げられる。
俺は背中のスライムさんをビヨーンと伸ばす。
スライムボールに指令を出そうとしたその時! 魔神が再び
「まさか、まさか! まさか?!」
俺は中折れ帽をおさえた。
俺の悪い予想は当たった。
魔神の熱光線がスライムボールに放たれる。
自分の兵士もろとも、スライムさんたちを……。
くそっ! くそっ!
俺はアイオンに指令をだした。
アイオンはカチカチで四角い板状になる。
俺はアイオンの上に両足を乗せ、直立不動の態勢を取る。
アイオンは壁の穴から外に飛び出した。
残念だが、この場から逃げよう。
魔神は神殿を突き破り、こちらを追ってくる。
だがアイオンのスピードは魔神を上回る。
どんどん魔神との距離を開けていく。
これなら魔神を
さて、この女をどこら辺で解放したものか。
イケニエ女を担ぎながら降りる場所を探す。
だが予想だにしない左脇腹の激痛。
「あっ」
バランスを崩した俺は、イケニエ女と一緒に地面に落下した。
幸い落下した先は
屋根の布を突き破り、その下の商品に激突する。商品は
問題は俺の左脇腹だ。俺は右手でその箇所を抑えた。
ぬるっとした感覚。右手を見ると、べっとりと血がついている。
しかし、その痛みを感じるところではなかった。
背後からものすごい殺気が俺に向けられているのが分かったからだ。
いきなり俺の頭に占い師の言葉が蘇った。
俺は恐る恐る後ろを振り返る。
そして、思わず中折れ帽をおさえた。
そこにはあのイケニエ女が立っていた。
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