第57話 体験を終えて
その後流れのままに仰向けのマッサージを行った。
もちろん際どい部分はタオルで隠し、いつもの如く過度に触れないよう最新の注意を払って施術をしたのだが、その際初めての感覚にカンナが身じろぎをし、彼女の陰部が見えそうになるというプチトラブルが何度か発生した。
ただ全体を振り返れば特に大きな問題はなかったため、結局体験はつつがなく終了したといえる。
ちなみに施術を通して全身に触れたが、確かに彼女の言葉通りそこまでひどい肩凝りや肌トラブル等は見受けられなかった。
立場上カンナは奴隷であり、ある程度の期間奴隷商館にいたため、もしかしたら何らかの問題はあるかもしれないという考えもあったのだが、どうやら杞憂だったようだ。
……まぁヴィオラさんの所が特別待遇が良かっただけかもしれないけど。なんにせよ何もないに越したことはないからね。
そんなことを考えていると、少しして部屋の中からカンナの声が聞こえてくる。
「ソースケ様、着替えが完了いたしました」
その声に従い部屋へと戻ると、そこには寝巻きに着替えたカンナの姿があった。
ちなみにこの寝巻きはヴィオラさんからのプレゼントであり、カンナとデイジーそれぞれに2着ずつある。
正直かなり助かったが、さすがにこれだけという訳にもいかないため、彼女らの服については後日買いに行く予定である。
……さて。
ベッドに腰掛け、こちらに視線をやるカンナ。僕は近くの椅子を引っ張ってくると、そんな彼女の側に座る。そして変わらず上気した頬の彼女に、微笑みと共に問いかけた。
「ずいぶんとご機嫌だね」
「そう見えますか……?」
「少なくとも初めて出会った時よりかは良い表情になったかな」
僕の声にカンナはなんともいえない笑みを浮かべる。
「あはは。比較対象がその時なら間違いありませんね。うーん、なんでしょうか……今回マッサージを体験させていただいて、心がすごく軽くなった気がするんです」
「そっか。少しでもマッサージの効果を感じてもらえたのなら良かったよ」
言葉と共にうんうんと頷く僕に、カンナは笑みを返す。
「それはもう大いに実感しました。それと同時に、人々に幸せを届けられるセラピストという職業の素晴らしさも知ることができました……」
そう言うとカンナは胸の前で両手を握り、噛み締めるように目を瞑る。
そして数秒の後、再度口を開いた。
「マッサージの技術を教えられるのは、現状この町でソースケ様だけなんですよね?」
「うん、そうだね」
……本当はこの世界全体でになるだろうが、当然そこは黙っておく。
「そんな貴重で素晴らしい技術を教えていただける……私はとても恵まれた立場にいるんですよね」
カンナは自問自答するようにそう呟いた後、真剣な表情をこちらへと向けると、再度口を開いた。
「ソースケ様、1日でも早く修得できるように私全力で頑張ります! だから明日からご指導よろしくお願いします!」
「うん、一緒に頑張ろうね」
「はい!」
そんなやり取りの後、僕とカンナは共に1階へと向かう。そして指導を終えた様子のアナさん、デイジーと共に少しだけ談笑をした。
この時カンナが火照った顔のままマッサージの素晴らしさを熱弁し、そのプレゼンを受け、デイジーが身を乗り出すほどに興味を示すという何とも愉快なやりとりがあったのだが、それはここだけの話。
なにはともあれそんなドタバタしつつも楽しい1日を終え、僕たちは眠りについた。……いよいよ始まる新体制にそれぞれが期待とほんの少しの不安を抱きながら。
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