第28話 レベルアップと異常な数値

 その後何度もゴブリンと対峙した。しかしいくら恐怖を抑え込もうとも、それで僕の戦闘能力が爆発的に上がる訳でもなんでもない。


 ただそれでも、挑んではリセアさんに助けてもらい、挑んでは助けてもらいを繰り返していくことで、徐々にゴブリンの思考や攻撃のクセといえばいいのか、そういうものがわかるようになってきた。


 その影響だろうか、7度目の戦闘で僕はついにゴブリンの攻撃を避け、こちらの剣で切りつけることができた。


 ……よし!


 だがその喜びも束の間、その痛みによってか、ゴブリンは適当に剣を振り回し始めた。それを予見できなかった僕は、その剣で切り付けられそうになり──しかしすんでのところで間に入ったリセアさんがそれを受け止め、そのまま一撃でゴブリンを屠ってしまった。


「……はぁ……はぁ」


 緊張やら疲れやらで、肩で息をする僕。そんな僕へ、リセアさんは小さく笑みを向けてくれる。


「惜しかったな」


「はい、あと少しでした。でも──」


 体感ではあるが、おそらく開始からおよそ2時間以上経過してしまっている。それなのにも関わらず、現状一つの成果もあげられていない。


「……すみません、お忙しいのに」


「いんだよ、気にすんな。さっきも言ったけど、ソースケのレベルアップはあたしのためにもなるんだから」


 そう言った後、一拍置いてリセアさんはさらに言葉を続けた。


「それに……これはある意味恩返しの機会でもあるからな」


「……恩返し?」


「そ。過去に囚われていたあたしを救い出してくれたことへのな」


「そんな大層なことは──」


「してくれたぞ。ソースケにとってはたった1時間の些細なことなのかもしれねぇが、少なくともあたしはあんたのマッサージで救われた」


 一拍置き、再度口を開く。


「そのお返しになんかできねぇかと考えたけど、あいにくあたしには戦うことしかできなくてな。だからソースケから付き添いを頼まれて、正直助かった。これで役に立てるってな」


「リセアさん……」


「だからどんなに時間がかかろうとなんも気にすんな。最後まで面倒見てやるからよ」


 言ってニッと笑うリセアさん。


 ……その仄暗いものなど1つもない笑顔に思わず見惚れてしまったのは、ここだけの内緒である。


 ◇


 いったいあれからどのくらいの時間が経過したのだろうか。辺りが少しだけ薄暗くなってきたことを考えれば、もうあと1時間かそこらで陽が沈むころか。


 とにかくそれだけの時間を費やし、リセアさんのサポートをたくさん受け、僕は計3体のゴブリンを倒すことに成功した。


 そして3体目を討伐した瞬間、僕の全身を何やら暖かいものが包み込むような感覚と共に、これまでの疲れなど吹き飛ぶほどに力が湧き上がってきた。


「……リセアさん、多分」


「確認してみな」


「はい!」


 言葉の後、僕はステータスと念じた。瞬間、いつものように浮かび上がるホログラム。


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 ソースケ 28歳 Lv. 2


 体力 7

 魔力 28

 攻撃 4

 防御 5


【スキル】

 『エステ Ⅰ』


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「おお! レベルが上がってます! 上がってますよリセアさん!」


「やったな!」


「はい! あ、見ます?」


「いや、ダメだろ。そんな簡単に見せちゃ」


「リセアさんのおかげでレベルアップしましたし、何よりも信頼してますから!」


「……そ、そうか? じゃあ──」


 言葉と共にリセアさんが僕のステータスを覗く。そして上からスーッと視線を動かしていくのだが……どういう訳か、その内の一点を見つめたまま硬直してしまった。


「リ、リセアさん?」


 ……『言語理解』は見えないようにしているから、そんなおかしな所はないはずだけど。


 心の内でそう考えていると、リセアさんがステータスボードをじっと見つめたままこちらに問うてきた。


「ソースケ。あんたレベル1の時のステータスは?」


「えっと、確か上から5、4、2、3だった──」


「4……4? 今は28? つまりプラス24? 合わせて……30?」


 リセアさんは呆然と呟くようにそう声を上げた後、ステータスボードへ向けていた視線をグリンッと急にこちらへと向けると、ガッチリと僕の両肩に手を置いてくる。そして鬼気迫るような凄まじい表情で口を開いた。


「ソースケ」


「は、はい」


「今後気軽にステータスを見せるのはやめとけ」


「それはどういう……」


「これ見ろ」


 言葉と共に、彼女はステータスをこちらへと見せてくる。


「えっ、僕は」


「いいから」


「じゃ、じゃあ……」


 僕は目前のリセアさんのステータスボードへと目を通す。


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 リセア 27歳 Lv. 42


 体力 336

 魔力 167

 攻撃 334

 防御 85


【スキル】

 『大剣術 Ⅵ』

 『火魔法 Ⅲ』


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「どうだ?」


「いや、リセアさんが強すぎるってことしか──」


 ここで僕はふとあることに気がついた。


 ……ん? レベル42で、このステータスの差?


 たとえば僕のステータスはレベルが1上がるだけで合計30数値が上昇した。だがもしこのレベルアップで伸びるステータス値が人によって違うのだとしたら。いや、リセアさんのステータスを見る限り、確実に30よりも少ないはずだ。

 そしてその上で、リセアさんは体力と攻撃が大きく伸びつつも、魔力と防御も安定して伸びている。


 対して僕のステータスはどうか。


 魔力が24伸びているのに対し、他は2だけ。


 ではもしもレベルとステータスの伸びが比例しているのだとしたら、僕がレベル42の時のステータスは──


「リセアさん。もしかして僕の魔力の伸びって、異常ですか?」


 思わずそう問いかけると、リセアさんはそれはもう力強く頷いた。


 ……どうやら僕の手にしたチートはスキルだけではなかったようだ。


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2024/1/25 本日2話目です。ご注意ください。


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