第38話 リニューアルオープンに向けて

 翌日から1週間はまごころ、POPPY共に通常通り営業した。主にPOPPY側の予約が1週間先まで埋まっていたからである。

 その後もありがたくも予約しようとしてくれる人がたくさんいたのだが、事情を説明して先の予約にしてもらった。


 ──あの後リニューアルについて具体的に会話をし、結局宿屋から休憩所へと変更することで正式に決定。これにより、名称も宿屋まごころから、休憩所まごころへと変更になった。


 また1階を主に女性たちが集まって歓談できるような憩いの場とし、各部屋は一時的に場所が必要になった人達のために時間制で貸し出すという案もそのまま採用となった。

 部屋に関してはもちろん宿泊も可能で、1泊の料金は変わらず20リルである。


 1階の席についても部屋同様に時間制で貸し出すことになった。ただ、案に上がった飲み放題は現状ではさすがに厳しかったため、飲食物持ち込み可(条件付き)にし、同時にまごころでも注文もできるというスタイルでいくことになった。

 大きな売上は見込めないが、多少はアナさんの負担が減るだろうと予測してのことだ。


 詳しい話は置いておき、変更内容としてはひとまずこんな所である。あとはこれで一度プレオープンし、その後は状況を見ながら臨機応変に対応していくということでアナさんとは話がついた。


 ちなみにリニューアルオープン日は1週間後となっている。

 準備期間としてはかなり短いようにも思えるが、別に大改装をする訳ではなく、細かいルールやアナさんの対応の確認を行う期間という認識であったためこれでまったく問題はない。


 と、そんなこんなで粗方決め事も終わり、いざ開店準備を……といきたい所であるが、リニューアルオープンに際して1つ忘れてはならない重要な事柄がある。


 ──そう、宣伝である。


 ということで、僕がリセアさんをはじめとしたPOPPYのお客さんへ、アナさんがコラド食堂等や彼女の知り合いに情報を広めてもらうよう頼むことになった。


 準備期間2日目。この日、僕は1人で冒険者ギルドへと向かっている。目的はもちろんリセアさんやPOPPYのお客さんである冒険者の女性たちと会って事情を説明するためである。


 向かう先が冒険者ギルドなのは、お客さんの多くが冒険者の女性であることと、それ以外のお客さんがどこにいるか把握する手段がないからだ。


 なんとも行き当たりばったりのようだが、リニューアルを決定してからはリセアさんやその他大半のお客さんと会っておらず、かつ基本短期間での連絡となると直接会話しか方法がないため、致し方がないのである。


 そんなこんなで道中で時折POPPYのお客さんと遭遇した際にリニューアルオープンの件を伝えたりしながら歩くこと数十分。僕は冒険者ギルドの前へと到着した。


 ……あいかわらず威圧感のある外観だなぁ。


 内心そう感想を抱きながら、僕は意を決してギルドへと入る。その瞬間、前回同様多方から鋭い視線が向けられる。


 ……以前ならこの視線にビクビクしていたと思うけど、ゴブリンと死闘を繰り広げた影響か、これくらいで酷くビビることはなくなったな。怖いは怖いけど。


 これもある意味成長なのか? などと思いつつ周囲を見回し、リセアさんをはじめとしたお客さんを探す。


 すると何人かのお客さんを発見。こちらに気がついたようでその多くがこちらへと寄ってきてくれる。


 その数なんと8人。こうして周囲を女性に囲まれるという過去にない状況が出来上がった。


 ……なんだこの状況。……ってか周囲の男どもの視線が怖すぎる!


 ただ僕が以前アナさんと訪れたからだろうか、それとも他の噂でも広がっているのか、男たちはこちらを睨みながらも、特にアクションを起こす人はいない。


 そのことにホッとしつつ、僕は邪魔にならないようにとみんなをギルドの端へと連れていき、詳しい事情を説明していった。


 ◇


 ある程度伝え終わりかなり好意的な反応を貰えたところで、なんともタイミングが良いことに、ギルド入り口からリセアさんが中へと入ってきた。


 その瞬間冒険者の男たちはいつものようにそちらへと視線をやり──しかし一瞬で逸らす。


 ……リセアさん、どんだけ恐れられてるの?


 改めて凄い人と知り合ったんだなと感想を抱いていると、そんな彼女の視線がこちらへと向いた。


「お前らなんでそんなとこで集まって……って、ソースケじゃねぇか! どうしたんだよこんなとこで」


 言ってツカツカと僕たちの方へと歩いてくる。


「あ、リセアさん。実は──」


 僕はリセアさんに、まごころがリニューアルすることを簡単に伝える。


「リニューアル!? ……なぁ、ソースケ。詳しく聞きてぇんだけど、今からいいか?」


「大丈夫ですよ。ちょうど皆さんに説明を終えたところなので」


「っしゃ! じゃあさっさと行くぞ!」


「どこに……って、ちょ、リセアさん!?」


 言葉の後、さっさとギルドの入り口へと向かっていった彼女の後を追って僕も外へと出た。 

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