第23話 早朝ハプニング

 やはり60分というのはあっという間なもので、気づけば終了時刻となっていた。


 ということで褐色の柔肌からゆっくりと手を離しながら、僕はウットリとする彼女へと優しく声を掛ける。


「はい。ではお時間になりましたので、以上でマッサージの方終了とさせていただきます」


 その言葉に、リセアさんはトロンとした目つきながらも、しかし少々驚いた様子で時計へと目をやる。


「……いつの間に」


「マッサージを受けていると、なんだか時間があっという間に感じますよね」


「だな」


 僕も何度も経験したことのため、共感の声を上げると、リセアさんもそれにうんと頷いた。

 そんな彼女に微笑みかけながら、僕は再度口を開く。


「……では全身のオイルを拭き取っていきますね〜」


 言葉と共に、彼女の身体に掛かっている布を捲り、全身を軽く拭いていく。

 とはいえ背面に関してはうつ伏せから仰向けに変わる前にすでに拭き終わっているため、今現在拭いているのは身体の前面である。


 と、そんな感じで優しく身体を拭いている間、少しだけ無言の時間が生まれてしまう。そこでリセアさんはウットリとした状態から平常へと戻っていったようで、その顔がいつの間にか何ともいえない表情へと変わっていた。


 僕は疑問に思い、彼女に問いかける。


「どうしました?」


「いや、流れのままに色々話しちまったけど、思い返すとちょいと恥ずいなって……」


「まぁ、冷静になるとそう思うこともありますよね」


「いや、話させたあんたがそれを言うなよ」


 言ってリセアさんがジト目を向けてくる。そんな彼女に僕は少々得意げに声を上げた。


「でもどうですか? 気分の方は」


「……まぁ、悪くねぇよ。身体も軽いし、全身もポカポカしてあったけぇし、気持ちも楽になって……なんていうか、むしろいい感じだ」


 言葉と共に、リセアさんは恥ずかしげに全身に掛けられた布で顔を隠す。当然、布を上に引っ張れば足元は露出する訳で──


 僕は思わずチラとそちらへ目をやった後、ドキドキと鼓動を早める。

 というのも、彼女同様にこちらもマッサージを終えて徐々に冷静になっているところであり、ゆえにこうした少しの刺激でも顔が赤くなってしまうのである。


 とはいえそんな僕の赤らんだ頬もこの薄暗さではわからないようで、リセアさんには僕の内心はバレていない様子。


 そのことにホッとしつつ、平静を装い声を上げる。


「なら、よかったです」


 その後も全身を拭いていき、少しして僕はリセアさんへと再度声を掛けた。


「……よしっと。一応全身拭きましたが、際どい部分や気になるところについては後ほどご自身でお拭きください」


「あいよー」


 彼女に新しい布を渡すと「あんがと」というなんともラフな言葉が返ってくる。


「では僕は退室しますので、身体を拭いて、服を着たところで──」


「あ、そこなんだけどよ。今日はもう服を着るつもりはないぞ」


「えっ、それってどういう……?」


「いやほら、今せっかくいい匂いで気分もいいのによ、そこに一日中着て汚れてる服を着るのはなんか嫌じゃん……?」


「それは、確かにそうですけど……」


「だろ? だから今日はここに泊まっていくことにした訳よ。なんか余韻に浸りたい気分でもあるしな」


「でも1泊するにしろ、なにかしら服は着なきゃなんじゃ」


「そこは何も問題ねぇぞ。あたし寝る時は基本裸だからな」


 ……あぁ、裸族の方でしたか。


 とはいえ、マッサージ後だけに限らず、普段からもできれば身体を冷やしてほしくないため、裸で寝るのはなるべくやめて欲しいところなのだが……そこはどうやら何か対策があるようで何の問題もないとのことであった。


 そういうことならばと、僕は1階にいるアナさんにその辺りのことを伝えた。

 するとどうやらたまに泊まりに来ることがあるようで、アナさんは特に気にした素振りもなく、一つの部屋を用意する。そして身体を拭き終わった裸のままのリセアさんをその部屋へと連れていってくれた。


 ◇


 やはり初めての全身マッサージということもあって気を張っていたからか、この日は自室に戻るとすぐさま意識を手放してしまった。


 そして翌朝。僕はドンドンと部屋の扉を叩く音で目を覚ました。


「ん……なんだろ」


 半分寝ぼけつつ、僕は身体を起こして扉の方へと向かう。そして「はーい」と言いながらら戸を開けると、そこにはリセアさんの姿があった──ベッドに備え付けの掛け布団代わりの布を巻いただけの状態で。


 一気に目が覚め、僕は思わず声を上げる。


「リセアさん!? ちょ、服! 服ー!」


「服だー!? んなことどうでもいいんだよ!」


「いや、よくないですよ!?」


 ……ってかこぼれる! 胸がこぼれるから!


 リセアさんの巻き方が適当なため、徐々にずれ落ちていく布。豊かな双丘を全て覆っていたはずのそれから、胸元が見え、谷間がはっきりと見え、そしてついにその先端が見えそうになった所で──唐突にトタトタと階段を駆け上がる音と共に、慌てた様子のアナさんが2階へとやってきた。


「ど、どうかしましたか!?」


 何かあったのかと急いできた彼女。その目前には僕と、半裸で僕に近づくリセアさんの姿。


 アナさんは途端に半目を作る。


「あ、失礼しました〜」


「違っ! 誤解ですアナさーん!」


 明らかに勘違いをしている彼女へ、僕はすぐさま力強くそう声を上げた。


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2024/1/22 間に合えば本日もう1話投稿します。

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