異世界エステ〜チートスキル『エステ』で美少女たちをマッサージしていたら、いつの間にか裏社会をも支配する異世界の帝王になっていた件〜
福寿草真【コミカライズ連載中/書籍発売中
第1話 突然の異世界転移
「……あっ」
光源が淡いランプしかない薄暗い部屋の中に、艶やかな女声が響き渡る。
その淫靡な声に思わずドキドキとしながらも、僕は努めて冷静な面持ちのまま優しく声をかける。
「力加減はいかがですか?」
「ちょうどいいです……んっ」
白磁のような白く滑らかな女性の肌に淡く発光する親指をスーッと通せば、再び女性から嬌声が漏れ出る。
その声に僕は再び身を固くしながら、ふとこれまでのことを想起する。
……まさかこんな人生が待っているなんてなぁ。
ただマッサージを受けるのが好きなだけのアラサー社畜だった僕が、いったいなぜこのような状況に置かれているのか。
それはおよそ数週間前のこと──
◇
目を覚ますと僕は見覚えのない草原にいた。
「……は?」
混乱しながら辺りを見回す。しかし目に入るのは草花や木々であり、現代日本を特徴づけるような建物などは一つも見当たらない。
「えっと……」
僕は眉根を寄せながら、最後の記憶が何だったのかを思い出そうとうーんと唸り、ふと思い出す。
「そうだ、マッサージを受けようと歩いていて……」
馴染みのエステサロンでオイルマッサージを予約し、久しぶりのそれが楽しみで意気揚々と歩き向かっていた……はずなのだが、どういう訳かその先を思い出せない。
「うーん」
記憶を辿る限り、まず間違いなく泥酔していたわけでも、睡眠不足でフラフラとしていた訳でもない。ただ行き慣れたエステサロンへ、行き慣れた道を通って向かっていただけである。それが一体どうすれば、その先の記憶を失い、気づいたらこんな草原にいるようなことがあるのか。僕にはさっぱりわからなかった。
と、そんな摩訶不思議な状況ではあるが、何にせよここでこのままという訳にもいかない。いったい最後の記憶からどのくらい時間が経過したのかわからないが、仮に日を跨いでいれば今日は出勤日である。そうなれば間違いなく遅刻だ。
僕はそう思いながらスキニーのポケットからスマホを取り出そうと手を伸ばす……が、どういう訳かポケットが見当たらない。いや、それ以前に何やらスキニーの感触が普段履いているものとは違い、明らかにザラザラとしており──
「……っ!?」
ここで積み重なった違和感からか、ようやく僕は意識をハッキリとすると、バッともう一度辺りを見回した後、自身の服装へと目を向け、ハハハとから笑いをする。
「ハハハ、いやいやいや」
しかしそれも仕方がないと言えるだろう。なぜなら僕の服装が、現代日本ではまず着ることがないだろう麻でできた簡素なものだったのである。
「さすがにこれは……」
まだ目が覚めて草原にいただけであれば、百歩譲ってないことはない。もしかしたら本当は泥酔し、記憶を失っているだけという可能性もゼロではないからだ。
しかし服装も変わっているとなると話が違う。たとえばタレントが番組の企画で似たような状況になるのならまだわかるが、僕はマッサージが好きなだけのただのアラサーである。万に一つもこのような状況になることはありえない。
いったい何が……とグルグルと頭を悩ませていると、ここで僕の頭に一つ荒唐無稽な考えが浮かぶ。
「……異世界転移?」
近年大流行しているソレ。アニメや漫画が趣味の一つである僕も当然触れてきている。異世界転生というものもあったか。
どちらにも共通していることとしては、現実世界で何らかの理由で死亡し、異世界で第二の人生を始めるストーリー展開であるということだ。
では今の自身を振り返ってみてどうか。
顔は……確認する術がないためわからないが、少なくとも身体の作りから今までと特に変化がないように思える。触れた感じ、髪型もおそらくいつも通りごく普通のショートヘアである。あと髪色だが、これも変わらずの黒。
おかしな点としては服装が見知らぬものであること、見知らぬ景色の中にいること、あとは目を覚ます直前の記憶が酷く曖昧であることくらいか。
「いや、でもさすがに……」
そんな訳はないかとなかば現実逃避をするように考え、ここで僕はほんの数メートル先に何やらバッグのようなものがあることに気づく。
「これは──」
立ち上がり数歩歩いた後、服装と同様に見覚えのない簡素なそれを手に取ると、ずっしりとした重みを感じた。
……何か入ってる?
普通見知らぬバッグがそばに落ちていたとしても、日本人の性質上中身を確認することなどそうそうないだろう。しかし今回はそんなことは言っていられない。
というよりもわけのわからない状況で見知らぬ服装に身を包んでいることを考えれば、きっとこのバッグは僕のものなのだ、そうだ間違いないとジャ◯アン理論で一人そう結論を付けると、僕は少しだけ緊張を覚えながらバッグを開けた。
「えっと、これは……干し肉? んでこっちは……水筒? それにこれは……げっ、ナイフじゃないか」
ぶつぶつとそう言いながらごそごそとバッグを漁り──同時に異世界転移という単語が現実味を帯びてきていることに心をざわつかせていると、ここで僕はバッグの中でひとつ現状に似つかわしくないものをみつけた。
「……紙? なんか書いて……って日本語じゃん!」
やはり異世界転移なんて起きるわけないよね!? なんて思いながら真剣にその文章を読み進めていく。先に進めば進むほど僕の頭が真っ白になっていくのだが、原因はその内容にあった。
要約するとこうだ。
健康体であったはずの僕はマッサージに向かう道中、心臓発作によって突然死んでしまった。それを偶然見ていた神様が、気まぐれで僕を異世界転移させた。つまり現在僕は異世界にいる。
この世界はいわゆる剣と魔法のファンタジー世界であり、この世界にはスキルという特別な力が存在する。さらに言えば、今の僕はその記憶が消されているようで一切覚えていないが、この手紙を書いた神様と直接会話をし、1つ僕自身が望むスキルを与えてもらったようだ。
そして最後に特に使命はなく、思うままに生きてほしいと綴られていた。
ちなみにぺらりとその手紙を捲れば近辺の簡単な地図と、貨幣の種類等基礎的な知識が記載してあった。
「……ふむ」
手紙を読みすべてを知った僕は、我ながら異様に落ち着いているなと思いつつ一つ息を吐いた。
いや、もちろん手紙を読んでいる最中は気が気ではなかった。しかしふと思えば僕の中に前世に対する未練などなかったことに気づいたのだ。
家族も、彼女も、友達と呼べるような存在もおらず、特に誇れるほど優れた能力のようなものもなく、ごく普通の中小企業で、好きでもない退屈な仕事を、はやく終業時間にならないかなと思いながらただただこなすだけの日々。
趣味と呼べるようなものもなく、休日は動画やネットをだらだらと見ながら、何の生産性もない無為な時間を過ごすだけ。
ああ……きっとこのまま意味もなく過ごし、そのまま人生を終えるんだろうなと、諦念というわけでもなく、ただ無気力にそう思うだけの何の色味もない、灰色な日常。……いや、一つだけ心残りがあるか。
「……異世界にはマッサージってあるのかなぁ」
僕の無為な人生の中の唯一の色どり。ある意味趣味ともいえるそれは、月に一回なけなしの薄給でマッサージを受けに行くこと。
長年のデスクワークと年齢の影響かコリに凝り固まった身体を、時にタイ古式で、時にオイルマッサージで少しずつほぐされていく快感は、間違いなく僕の人生の中で唯一と言ってもよい至福の時間であった。
そんなマッサージはいったいこの世界に存在するのか。もしかしたらそのようなものは一般的ではなく、今後一生あの幸せな時間を過ごせない可能性がある。
その事実に僕は、自身が死に、異世界に転移したということを知った時以上に深く落ち込むのであった。
◇
「いやいや!? それよりまずは生きる術を見つけなきゃ」
あの後少しして気を持ち直した僕は、今更ながらこのままここにいてはいずれ死んでしまうだけだと思い出すと、神様の手紙に従ってまずは近くの町に向かってみることにした。
町の名前、そこへの道のりは手紙の裏に書いてある地図で把握している。町への入り方などもご丁寧に手紙に記載してあったため、おそらく問題はない。あとは言語等不安はあるが、こちらもどうやら『言語理解』というスキルを付与してくれているようで問題ないようだ。
ほんと、気まぐれで異世界に転移させたと手紙にあったときは神様という存在に少し恐怖を覚えたが、今回の手紙や言語の件等を考えれば少なくとも悪い存在ではなさそうである。
「神様……ありがとうございます」
と、一人姿かたちの知らぬ神様に小さくお礼を言った後、僕はいよいよ町へと歩き出そうとし、ここでそういえばと手紙の内容を思い出す。
「あ、そうだ。望んだスキルが僕に宿っているって話だっけ。でもその時の記憶がなぁ」
うーんと唸るも、当然のように僕が望んで手に入れたスキルがどんなものか思い浮かばない。これでは宝の持ち腐れというやつだ。
いったいどうすればともう一度手紙に目を通してみると、どうやら念じれば自身のステータスを見ることができるようである。であればおそらくそこに『言語理解』や僕が望んだスキルの情報も書かれているのだろう。
「よし」
僕は気合いを入れるように一つ小さく声を上げる。
……はてさていったいどんなスキルを過去の僕は望んだのかね。
神様の手紙によれば、この世界が剣と魔法の世界であることからも予想がつくように、魔物という恐ろしい生物が存在しているとのことである。
今いるこの草原はかなり安全な場所のようだが、基本的には魔物の危険と隣り合わせの世界である。
そんな世界に来るのだ。神様と会話をした僕が望んだスキルはまず間違いなくその脅威から身を守る、もしくは対抗するようなものであろう。
……なんだろう。あらゆる攻撃を防ぐ最強の防御スキルか? それとも魔物をいとも簡単に屠れる攻撃スキルか? いや、そのどちらも有している召喚系のスキルかもしれないな!
思いながら年甲斐もなくワクワクした後、僕は興奮冷めやらぬ様子のまま心の中で「ステータス表示!」と叫んだ。
瞬間、僕の目前に浮かび上がるホログラム。
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安間草介
体力 5
魔力 4
攻撃 2
防御 3
【スキル】
『言語理解』
『エステ』
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名前、決して高いとはいえないステータスと想像以上に簡易的なそれに目を通していき、ついに僕の視線はスキル欄へと向いた。そこにはこう書かれていた。
スキル『エステ』──と。
僕はすぐさまステータスを閉じた。
と同時に、安全なはずの草原、その遠方から獣の鳴き声のようなものが聞こえてくる。
僕はスーッと鼻から息を吸った後、フーッと大きく息を吐く。そして──
「過去の僕のバカやろおおおおおおお!!!!」
とこころの中で叫びながら、死に物狂いで町へと走った。
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『ヒトカラとギャルJK』
『俺だけダンジョンの難易度が鬼畜すぎる件』
上記2つの短編を投稿しました。1万字程度と読みやすい分量なので、よろしければこちらもお読みください!
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