第18話 帰り道と小さな決意
あの後特に問題はなく、談笑しつつ昼食をとった。
それなりの数注文をしたため、テーブルにはいくつかの料理が並んでいたが、そのどれもが絶品であった。
その味を思い出しながら、アナさんと共に帰路についていると、彼女が楽しげに声を掛けてくる。
「ふふっ、ご満足いただけました?」
「それはもう。料理はびっくりするほど美味しかったし。あとはコラドさんや、ウィリアムくんをはじめ、店の雰囲気も最高でしたからね。今度1人でも行っちゃおうかな? と、そう思うほどには気に入りましたよ」
「よかったです……」
アナさんのその言葉の後、少しの間沈黙が訪れる。
ザワザワと周囲の話し声だけが耳に入るそれも、なぜか心地が良い。
隣を見ればそこにはアナさんがいて、その表情からはいつものように柔らかな雰囲気が見て取れる。
その顔をチラと見ながら、僕は少しだけ探りを入れるように声を上げた。
「……ウィリアムくん、すごくいい子ですね」
「はい。……いつも慕ってくれて、ああやって純粋な好意を向けてくれて。だから毎回会うと、思わず笑顔になってしまいます」
そう言ってこちらに向ける彼女の表情を見れば、恋とまではいかないがウィリアムくんに対してかなり好印象を抱いているのがわかる。その恥ずかしげな笑みを浮かべる彼女に、僕は言葉を返す。
「気づいてるんですね」
「……その、すごくわかりやすいですからね」
「間違いないです」
言いながら、僕は苦笑いを浮かべる。
……あの子ほどわかりやすい子はいないって思えるくらいには、スキスキオーラが全開だったからなぁ。
「ふふっ」
僕と同様の場面を思い出したのか、アナさんが小さく笑い声を漏らす。
その微笑みの後、僕たちの間を再び沈黙が支配する。
正直聞きたいことはまだあったが、とはいえ出会って未だ数日。さすがにこれ以上踏み込むのは違うかと思い、話題を変えようかと考えていたところで──ふいにアナさんが視線を少し空へと向けながら、呟くように声を上げた。
「……ウィリアムくんは本当にいい子。それに、彼には料理の才能もあるんです。だからきっと、これから絶対に手の届かない存在になる」
言葉の後、一拍置いて再度口を開く。
「だからこそ、わたしなんかじゃなくて、もっと別の子に目を向けてほしいなって、そう思います」
空を見つめる彼女の横顔にはいつも通り微笑みが浮かんでいたが、それと同時にどこか憂いを帯びているようにも見えた。
それは彼の好意に対する拒絶というよりも、自分という存在を卑下したような言い方で──
「なんでそこまで……」
言葉を続けようとするも、やはり今の僕にはこれ以上先を問うことができなかった。
「…………」
三度沈黙が支配する。その中で、僕は一つ決意を固めた。
──彼女がそうまでして自分を卑下する理由を僕は知らない。でもいつかその心を解きほぐせるように頑張ろうと。
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2024/1/18 短いですが、本日2話目です。ご注意ください。
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