第14話 花言葉
店名が決まったということで、早速アナさんの元へ報告しに向かう。
部屋を出て1階を見れば、椅子に腰掛けた彼女の姿がある。どうやら休憩中のようだ。
「アナさん、店名決まりましたよ〜」
「本当ですか! 今ちょうど午前のお仕事が終わった所なので、ぜひ聞かせてください!」
彼女の声に頷き、1階へと向かえばすぐに飲み物を用意してくれる。僕はそれに「ありがとうございます」と返し、席へと着いた後、早速店名や由来について彼女へと伝えた。
「……まぁ、素敵なお名前ですね!」
「ありがとうございます。それでどうですかね、おそらくあまり聞き馴染みのない言葉だと思うんですが……」
「故郷にあるお花の名前……ですよね? 確かに初めて聞いたお名前ですし、響きも独特だと思います。でもそのおかげで名前を聞いたらすぐソースケさんのお店が思い浮かぶのは間違いないと思いますよ」
……アナさんのお墨付きをいただいた。これなら間違いないだろう。
「よかった……」
言ってホッと息を吐く。そんな僕の向かいの席で、アナさんはにこやかな笑みで口を開く。
「それにしても、花言葉……? には驚きました。まさかそんな素晴らしい文化があったなんて」
「いいですよね、花言葉。僕、個人的にすごく好きで」
「私もお話を伺っただけなのに、もう気に入ってしまいました。花言葉があるだけで、普段お花を眺めたり、お店に飾ったりする時にもまた違った彩りが生まれそう……」
「確かに、僕の故郷でも花言葉を元に飾る花やプレゼントとして贈る花を選ぶ人もいたので、幅は凄く広がりますね」
「プレゼントに花言葉を込めたお花を……素敵」
言ってアナさんはウットリとした表情になる。
……やはりどの世界でも、女性はこういうロマンチックなものが好きなのだろうか?
心の内でそう思っていると、アナさんはふと疑問に思ったようで再度口を開く。
「この辺りのお花にも、私が知らないだけで花言葉が決められていたりするのでしょうか?」
「うーん、どうでしょう。少なくとも花の名前には何かしらの由来はあるはずですが……」
「そうですよね。ふふっ、今度調べてみようかしら……」
言ってアナさんは楽しげに微笑む。
ちなみに僕も昨日の彼女との会話の中で知ったのだが、この町には、というよりもこの国には図書館を用意できるほどに発達した製紙技術、製本技術があるようだ。
前世ほど優れた紙質ではないが、なんでも魔道具を活用することでそれらを可能にしているらしい。
さすがにアナさんもその仕組みまでは知らないようなので、これ以上の情報は得られなかったが。
とにかく、この町にも図書館があるとのことなので、今度この世界の常識を学ぶために訪れるのもいいのかもしれない。
そんなことを考えながら、僕はふと思いついたことを口にする。
「もし調べて見つからなかったのなら、たとえば色や自生地を元に自分で決めてみる……というのもまた楽しいかもしれませんね」
その言葉に、アナさんはハッと目を見開く。
「その発想はありませんでした。確かに面白そうです! ソースケさん、ソースケさん! 参考までに他にもご存知の花言葉がありましたらぜひ教えてください!」
「いいですよ。そうですね、たとえば──」
こうして僕の記憶にある花言葉をいくつか紹介していった。
そういえば僕も子供の頃母親に教えてもらってたなと、昔を思い出し、少しだけ感傷に浸りながら。
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2024/1/16 本日2話目です。ご注意ください。
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