第13話 店名決定

 その日の夜から宿屋まごころに泊まることとなった。


 その際、開店までの宿泊費について払う払わないでアナさんと軽く揉めたのだが、「ソースケさんの開店資金を減らす訳にはいかない」と彼女がどうしても譲らなかったため、最終的には払わない方向で話がついた。


 とはいえ流石にタダで泊まらせてもらうのはこちらとしても避けたかったため、僕が空いている時は、アナさんの仕事を手伝うということでなんとか彼女には納得してもらった。


 なんだかヒモになったようで少々情けないが、マッサージで稼げるようになったらこの間の宿泊代もきっちり払うことにしようと、1人心の中で決意を固めた。


 ……ということで夜の内に彼女の仕事をいくつか教えてもらい、翌日から開店に向けた準備が始まった。


 そうは言っても、商人ギルドで契約は受理されているため、現状必要なのは値段や店名のような簡単な決め事のみである。


 でもだからこそ、やればすぐに終わらせられる……ということで、朝早く起きて仕事を手伝い、昨日同様アナさんのご好意により朝食をいただいた後、早速それらへと取り掛かることにした。


 できれば最初からアナさんの知恵を借りたいところだが、アナさんは宿屋のオーナー。今日もお客さんはいないようだが、それでもまだまだやらなければならないことはあるようで、現在はかなり忙しくしている。


 そのため、まずは僕1人でも決められる内容から対応していき、後ほどアナさんの時間に余裕ができたタイミングで、彼女の力を借りることとした。


 ……となると、まずは店名かね?


 それならばアナさんがいなくともなんとかなるはずである。


 僕はそう考えると、アナさんが用意してくれた僕の自室──204号室となった──へと入り、椅子に腰掛ける。


 ……さて、どうしようかねぇ。


 生まれてこの方店の名付けを行ったことがない上、この世界の一般的な店名というものを知らない。


 ──宿屋まごころ。ここの宿名を考えると、言語が違えどある程度前世と似たような名付け方法なのだろうか。


 ……ならそっちに合わせても──いや、でもな〜どうせだったらエステサロンっぽい名前にしたいよなぁ。


 うーんうーんと様々な要素を検討していく。

 時折自身の命名センスの無さに悲しくなりながらも、悩み続けることおよそ1時間。ついに僕は納得のいく店名を思いついた。


「よし、決めた。店名はエステサロンPOPPYにしよう!」


 POPPY。読みはそのままポピーであり、前世にあった花の名前である。

 花が好きでなければあまり聞き馴染みがないかもしれないが、僕は母親が花好きだった影響で記憶に残っていた。


 この名前を選んだ理由は3つある。


 1つは、エステサロンっぽい名前だからである。

 勝手な印象だがエステサロンには横文字の店名が多い。ただ生憎、僕には店名を決められる程、外国語の知識がほとんどない。そこで、そういえば中には花の名前を店名にしている所もあったなぁという考えの元、今回の名を選んだ。


 2つ目は、花言葉である。確かポピーの花言葉に思いやりや、いたわりというものがあったはず……という曖昧なものだが、その通りのお店にしたいという思いと共にこの名とした。


 そして最後3つ目は、この世界の人々に聞き馴染みのない言葉にしたかったからである。

 よく耳にする単語よりも、他では使われない単語の方が、広まりやすい、広まった時に真っ先に僕の店が浮かぶだろう……と、素人ながらにそう考えたのである。


「エステサロンPOPPY……エステサロンPOPPY……。うん、我ながらいい名前だ」


 そんな思いも込めた名前だけに、何よりもここから自分のお店が始まるんだという事実に、僕の心は得も言われぬ高揚感に包まれ、思わずその名を小声で連呼してはニヤニヤとしてしまう。


 と、そんなはたから見たら気味悪がられそうな場面もあったが、なにはともあれ僕が開店するお店の名前が決定した。


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2024/1/16 間に合えばもう1話投稿します!


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