第30話 新オイルとタオルの実体化
アナさんのマッサージを終え、その後は特に手伝える仕事もないということだったため、僕は部屋へと戻った。
正直色々と気になることがたくさんあるが、とりあえずはできることからやっていこうということで、ずっと延期していたアレを実行することにした。
そう。一般的なマッサージオイルと安価なタオルの実体化である。
今回のレベルアップにより、僕の魔力量はあのリセアさんが驚嘆するほどに増加した。元々が4だったところから、現在28である。
正直詳しく知らない僕でも伸びすぎだと思うが、魔力に関してはスキルの性質上多いに越したことはない。
そしてこれだけの魔力量があれば、明日以降の業務に支障をきたすことなく、一般的なマッサージオイルと安価なタオルの実体化、それに必要な魔力量や質の確認ができるはずである。
ということでまずは一般的なマッサージオイルから実体化してみることにする。
……はてさて安価なマッサージオイルとは何が違うのかね。
そんなことを考えながらうんと念じてみる。
するといつもと似たような感覚と共に、僕の手に木の容器が現れた。
……容器の見た目は、ほとんど同じ? いや、少しだけ木の質が良い気がするな。あとは容器の大きさと重さ的にオイルの量に変化はなさそうだ。
ここでステータスを表示してみる。すると魔力が28から23に減っていた。
「安価な方が3で一般の方が5か。質が上がったからって必要な魔力量が倍々で増えていくとかではないんだなぁ」
……それじゃオイルの質の方を……っと、いやどうせだから先にタオルの実体化を試しておくか。それでオイルのついた手も拭けるし。
ということでタオルが現れるよう念じると、僕の眼前に真っ白なタオルが実体化された。手に取り、その手触りや質を確かめてみる。
……うん、これはあれだ。100均クオリティーだ。
つまりものすごく良いかといわれるとそんなことないが、反対に全く使い物にならないかといえばそこまで酷くはないレベルである。
そしてさらに言い換えるのであれば、この世界のいわゆる庶民が使用している布に比べれば、吸水性や肌触り等遥かに優れているレベルでもある。
ちなみにサイズは一般的なフェイスタオルと同程度。消費魔力は3であった。
……安価シリーズは全部消費魔力3だったりするのかね? いや、それにしても──なんとも微妙だなぁ。
確かにタオルの質は悪くない。むしろ今のPOPPYで使用している布と比較すれば、間違いなく質は良い。
しかしわざわざ魔力3を消費してまで数を用意したいかというと、そこまで必要だとは思えなかった。
なぜか。サイズが小さいからである。
たしかに普段使いするのであれば、このサイズがベストといえる。しかしことマッサージ、特にオイルマッサージを行う場においては、フェイスタオルよりもバスタオルやそれよりも更に大きいタオルの方が需要が多い。
……『エステ』にサイズ変更機能があればなぁ。
ついでに言えば色も変えたい所である。特にこの世界において真っ白なタオルは、一度汚れてしまうとその汚れを落とすのにかなり苦労するのだ。
その辺りは今後スキルレベルが上がることで改善されるのだろうか。……されるといいなぁ。
淡い期待を抱きながら、とりあえず安価なタオルについては、今後きちんと使ってはいくが、消費魔力やサイズを考えるとそこまで重宝するものではないという結論に至った。
さて、続いて本命の一般的なマッサージオイルの確認である。
こちらに関していえば、ステータスボードの記載上ですでに有用であることは確認できている。
……安価なマッサージオイルの追加効果が(リラックス極小UP)なのに対して、一般的なマッサージオイルは(リラックス、美肌極小UP)。使うオイルを変えるだけで追加効果が1つ増えるなんて驚きだよねぇ。
さらにいえば、それでも消費魔力は5なのである。正直、今回魔力が爆発的に増加をしたことを考えれば、これを使わない理由はない。
とはいえ流石にすべてのオイルを安価から一般に変えるわけではない。そんなことをすれば、また近いうちに魔力が足りず、レベル上げをする必要が出てきてしまう。
……だから基本的には安価な方を使って、プラス料金で一般的な方に変更できるようにするのがベストだろうな。
ではそのプラス料金をいくらにするかだが、それを決めるためにもまずはオイルを手に取ってみる必要がある。
ということで先程実体化した木の容器の蓋を外し、オイルを少量手に垂らし、両の手で広げる。
……オイルは変わらず水溶性か。手触りは、安価なものより多少滑らかか? でも触ってわかる範囲ではそこまで大きな変化ではなさそう。
続いて辺りにふわりと漂う心地の良い香りへと意識を向ける。
……香りは、フローラルで爽やか? もしかしてラベンダーか? これはもしかしたら好き嫌いが別れるかもしれないな。
グレープフルーツのような柑橘系の香りは基本的に万人受けする印象がある。実際これまでオイルマッサージを行った際にも別段香りが苦手だという話はなかった。
対して花の香り、その中でもラベンダーの香りはかなり人による印象がある。ちなみに僕は大好きだ。
……うーん、効果だけを考えれば間違いなく一般的な方だけど、結局香りが苦手だったら付随効果があろうともリラックスなんてできないからな。まぁ、それは安価な方にも言えることではあるけど。
今までたまたま柑橘系の香りを苦手に思う人がいなかっただけで、いずれ必ず苦手な人が現れるはずだ。それもPOPPYが繁盛すればする程、その可能性は高まる。
もしかしたら両方の香りが苦手という人も出てくるかもしれない。もしもそうなれば、オイルマッサージを受けたかったけど、渋々もみほぐしに変更する、もしくはやっぱりマッサージを受けるのをやめる……ということになりかねない。
「さっきのタオルサイズといい、今回の香りといい、地味な所で使いにくさがあるなぁ。そこら辺を自由に変更できたら、もう少し幅が広がるんだけど」
たとえばオイルを無臭に出来たら、タオルをバスタオルサイズに出来たら。
考えれば考えるほど、その辺りを変更できる機能がほしくなってくる。
しかし、いくら言葉にしようとも、それで言う通りにスキルが変化する訳でもない。そのためここは仕方がないと諦め、今後に期待することにした。
ということで現状の結論としては、タオルは1日1枚ペースで実体化をし、一応ためていく。オイルはメインを変わらず安価な方にし、全身は10リル、半身は5リル追加で支払うことで一般的な方へ変更できるようにする。
また手順も一部変更。お客さんがオイルマッサージを選んだ場合は、まず両方の香りを確認してもらう時間を設けることとした。
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2024/1/26 本日2話目です。ご注意ください。
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