第20話 リセア
部屋から出て階段を降りようとしたところで、宿の入り口付近に赤髪の女性とアナさんの姿があった。
……彼女がお客さんか。
「すみません、お待たせいたしました」
言葉と共に階段を下りれば、アナさんと赤髪の女性の視線がこちらへと向く。
「リセア、この方がソースケさんよ」
リセアと呼ばれるその女性。何かの皮と金属でできた鎧を全身に纏い、背に大剣を担いでいる。そんな彼女の風体は一言で表すとテンプレファンタジーものの冒険者のよう。
……というよりもおそらく冒険者なんだろうな。
身長は僕と同じか少し高いくらいか。鎧でその全貌は見えないが、かなりスタイルが良さそうである。またその容貌は紛れもなく美しいのだが、そのボサボサの長髪と表情からか、どことなくオシャレやそういった類いに無頓着な、残念美人といった印象である。
「はじめまして、エステサロンPOPPYオーナーのソースケです。リセアさん、本日はよろしくお願いします」
「リセアだ。よろしくな」
言葉と共に手を差し出してくれたため、その手を握り握手をすれば、筋肉質でゴツゴツとした感触が僕の手に返ってくる。
「……女みてぇな綺麗な手だな」
「えっと、そうでしょうか」
「ん」
僕の手をニギニギと握りながら何ともいえない表情を浮かべるリセアさん。しかしすぐさま僕の手を離すと、その鋭い眼差しをこちらへと向けてきた。
「んで? まっさーじがどうたらって言ってたけど……」
言いながら、リセアさんはじーっとこちらを見る。
「ふーん」
それはまるでこちらを見定めているかのようで。決して何も悪いことはしていないのだがなぜだか緊張してくる。
ただでさえ美人は迫力があるというが、彼女はその上で僕では絶対に太刀打ちできないと思えるほどの強者のオーラを出している。だからその視線には余計に凄みがあった。
思わずごくりと唾を飲む。
その眼前で、リセアさんは表情をあっけらんとしたものに変えると、呟くように声を上げた。
「──ま、アナの紹介なら少なくとも悪いやつじゃねぇだろうし……そのマッサージとやらを受けてみるとするか」
言葉の後、こちらに近づくと、ポンと肩を叩いてくる。
「よろしくな、ソースケ」
初対面とは思えないほどラフな物言いである。
しかしその横柄な態度がきっと素だからだろう、決して不快にはならない。
むしろ男友達と接するようなラフさに心地良さすら感じる。……って、男友達なんて前世では随分といたことがないけど。
そう思い、心の中で1人涙を流しながらも、僕はそれを表に出さないように微笑みと共に言葉を返した。
「はい。よろしくお願いします、リセアさん」
そんな僕たちの姿をニコニコと嬉しそうなに見ていたアナさんがここで口を開く。
「リセア、それでメニューだけど」
「あーなんか色々あるんだったな。どれどれ……」
僕はすぐさま手書きのメニュー表を彼女へと渡す。
ちなみに料金とメニューはこの間アナさんと会話して決めてから変更されていないが、メニュー表自体はアナさんが綺麗に作り直してくれている。……本当感謝感謝である。
リセアさんはじーっとメニュー表を見つめた後、ほとんど悩む様子もなく声を上げた。
「あーじゃあこのオイルマッサージ全身ってやつにしてみるか」
「いいの?」
「ま、金はそれなりにあるしな。それに高いってことはこれが一番いいんだろうし」
ということでオイルマッサージの全身コースに決定した。
お金に関しては先払いシステムでいくことにしたため、まずは彼女から料金を受け取る。もちろん初回割引価格だ。
「それでは早速お部屋の方へご案内いたしますね」
「おう」
「リセア、また今度でもいいからぜひ感想を教えてね」
「あいよ」
「では、ソースケさんお願いします」
「はい。リセアさんではこちらへ」
言葉と共に、彼女を連れ立って203号室へと向かった。
……さぁ、はじめてのお客様、はじめての全身オイルマッサージだ。気合い入れていくぞ。
そう心の中で力強く意気込みながら。
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2024/1/20 間に合えば本日もう1話投稿します。
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