庇い合い
「ギャハハハァ!!」
「可愛い子ちゃんが来たぜぇ!!」
「これが王女に剣聖一位に大聖女って、本当かよぉ!? 弱っちいヒトメスにしか見えねぇよぉ!!」
森の奥、魔族の
焚き火のそばに集められて、紫肌の汚らわしい魔物に囲まれて、手足を縛られていた。
「魔王さまに捧げる前に、この三人を俺たちで楽しみませんか!? 減るもんじゃないでしょう!」
「そうだそうだ!」
「ヴェロキア様っ! 早く手を出す許可を!! いや手じゃなく下半身かァ!」
「ギャハハ」
焚き火と私たちを囲み、楽しそうに騒ぎ立てる魔族たち。
手足を縛られた私たちには、どうする事もできなかった。
「くっ……
隣で縛られた剣聖エリカが、血に汚れた顔で、魔族達を睨みつける。
「あ、ぁあ、
一体どんな
聖女マリリがおでこを青ざめさせながら、身を
「黙れ! 騒ぐなお前らぁぁ!!!」
突然、鼓膜が破れるほどの怒声が飛ぶ。
そのあまりの迫力に、シーンと静まりかえる魔族たち。
ドシ、ドシ、ドシ、
と、大声の主の大きな足跡だけが響き、こちらに近づいてきた。
その声の主は、ここにいる魔族のなかで一番強いであろう、魔王軍四天王ヴェロキアだった。
「まずは先に俺が楽しむとしよう、ふぅむ……マナ王国王女ジェシカ、剣聖一位のエリカ、大聖女マリリ……
みな噂以上に可愛いなぁ……
さぁて誰から
ヴェロキアは大きな目玉を細めて、口角を上げてドロドロと唾液を垂らした。
いったい私たちは、これから何をされるのだろうか?
少なくとも、
怖い……
でも、逃げる事もできない……
私は助けを求めるように、隣のエリカとマリリを見た。
「それなら、こ、この聖女マリリがおすすめですよぉ〜!
うふんっ。ほらほら私は可愛いし、おっぱいも大きいし、
この中の誰よりも従順ですよぉ〜」
マリリが、胸元を揺らしながらそう言った。
震え声で、でも笑顔を作りながら、
「ほう……こりゃあなかなかのもんだなぁ」
「そうでしょうっ、ほら、ほらっ」
ヴェロキアが、大きな顔をマリリへと近づけた。
でも、マリリは逃げなかった。
まるで、自分から誘うみたいに……
「待って、わ、私の方が可愛いわよっ! ほらっ、剣聖一位の私は肉付きも良いし、体力もあるからっ……!」
今度は、エリカの声がした。
何度も噛みながら、ぎこちない笑顔で、
「ほほう……」
ヴェロキアが今度はエリカに身体を近づけて、舐め上げるような視線で
「く、くるなら来なさいよ! 好きにして、いいわ……」
エリカもまた、自分から誘うように、
目を逸らしながらも体を揺らして……
あぁ、そうか。
私はやっと気づいた。
二人とも、互いを庇いあってるんだ。
自分を襲わせて、
他の二人を守るために……
「………!」
私、ジェシカは王女である。
騎士や聖女は、いつも王女である私を守ってくれる。
それが騎士と聖女の義務であり、王家への忠誠であるから。
でも……
"王女もまた、国民を守るのだ"
マナ王国王家は責任を持って、王国全土を指揮し、魔王軍と戦わなければいけない。
国家権力とは、国を守るために使わなければいけない。
「私もっ……」
怖くてたまらないけど、私は意を決して口を開いた。
「私の身体の方がエッチですぅぅぅぅ!!」
言った。言ってしまった。
王女としてあるまじき、はしたない言葉を。
「王女さまっ!?」
マリリが動揺している。
「ブッ、あははっ!」
エリカが、可笑しそうに笑い出した。
「ほほーん」
ヴェロキアの目が、私のほうへギロリと向いた。
怖い、凄く怖い。
何をされるか分かったものじゃない。
でも、私だってっ……!!
「私は王女よ? 国民男子全員の憧れる存在よ。 偉くて優しくて美しくて、気品もあって……それから……」
私は必死に、誘い文句を並べていった。
こういう事はよく分からないし、何を言えば良いのか分からないけど、
とにかく私は、エリカとマリリに恩を返すために……!
今度は私が、二人を守るんだっ!
「はぁ? どこがよっ!
この王女が、優しくて気品がある?
猫かぶった腹黒女の間違いでしょう!
ほら、こんな性悪女より、性格よしスタイル良しの私がオススメですよぉー」
「はぁ、なんですってエリカ!」
エリカの聞き捨てならない言葉に、私はついカッとなって言い返してしまった。
「王女さまなんかより、一番エッチなのはわたくし、聖女マリリですわっ!
ほーら、迷ってないでっ、早く私を選んでくださいよぉっ!」
マリリが被せるように大声をあげる。
「わ、私ジェシカも負けてませんわっ!」
マリリに負けじと言い返す私。
それは、震えるほど恐ろしかったけれど。
同時に心が熱くなった。
こんなの虫が良すぎるかもしれないけど。
マリリやエリカの隣に立てる存在に、少し近づけた気がしていた。
「ひゅー熱いプロポーズだねぇ!」
「羨ましいですよヴェロキアさーん!」
「俺も……早く……」
「まだ夜は長いからなぁ、たっぷり楽しめるぜ」
下品に騒ぎ立てる魔族たち。
「黙れと言ったのが聞こえなかったか!??」
ヴェロキアが再び叫んだ。
鼓膜が裂けそうなほどの怒鳴り声。
再びシーンと鎮まりかえる。
「もういい、ガハハ、三人同時にいただくとしよう……」
下品にニヤけた四天王ヴェロキア。
ニタニタと笑いながら、私たちに忍び寄り。
太くてゴツゴツした腕が、私たちへと伸びてきて……
もうダメか、と観念して。
エリカやマリリの事を想いながら、
私はギュッと目を瞑った。
その時だった。
「待てっ!!」
妙に高い、男の声がした。
まるで頑張って、高い声をだしているような。
「何者だぁ?」
すぐ目の前で、ヴェロキアが後ろを振り返る気配がした。
「俺の名を知りたいかぁ? 俺の名は……!」
恐る恐る目を開けて、声のする方を見た。
そこには、大きな満月があって、
満月を後ろに背負って、黒い人影が、私たちの方へと飛び込んで……
「俺はウンコ仮面だぁぁぁ!!」
目の前に降りた黒い影は、
四天王ヴェロキアを、バチコーンと殴り飛ばした。
ギャァァァ!!
森の奥へ吹っ飛んでいくヴェロキア。
私たちの前に降り立ち、バサバサと背中のマントをなびかせて、月に照らされた人影の頭は、
ソフトクリーム型だった。
いやウ○コか。
ウ○コの仮面を被っていた。
「まさか……、ウ○コ仮面……? 本物!?」
そう呟いたエリカの瞳は、
焚き火の明かりの反射で、キラキラと輝いていた。
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