二日目(夜)

魔王城の皆さん、こんにちわ──!!


 さーて、少し時間ロスしましたが、気を取り直してー!!

 魔王討伐RTA、はっじまーるよ!


 という事で、魔王城に続く川のほとりを、爆速で走っております。

 水面に浮かんだ月影が綺麗ですね。

 今夜は満月です。


 ザバァァァァン!!!!


 水しぶきとともに、なにか川から大きな生物が出てきました。

 気にせず走り続けたいと思います。


「ふっふっふっ! ハハハハハァ!!!

 我こそは魔王軍四天王、洪水のウラベル……」


 川から顔を出した、蛇のような化け物が、大声で俺の名を呼びます。

 ザコは無視しましょう。


「って……

 おい、おいどこに行くんだっ! 待ちやがれくそ勇者っ!」


「うるせぇぇ!

 俺は魔王城に向かってるんだよぉぉ!!

 お前みたいなザコに構っている暇はないんだっ!!」


 蛇に向かって叫ぶ俺。


「雑魚だとぉ!? この美しい水龍である私が雑魚だとぉぉ!!

 許さぬっ! 許さぬわぁ!! 目にもの見せてくれるぅぅぅ……」


 四天王ウラベルの声が、うしろへ遠くなっていきます。

 どうやら巻いたようです。


「お、おい、どこへ行きやがったっ!

 くそぉ! 足が早すぎるぜっ!」


 泳ぎの遅いウラベル君を置きざりにして、


 俺は魔王城へと突き進みます。




 あれから4時間。

 俺は、ついに、ついに、

 魔王城へと辿り着きました。


 ぜぇ、ぜぇ……

 魔王城とおいっ! とおすぎるんじゃい!!


 さて……


 魔王城陥落RTA、はっじまーるよー!


 闇に包まれた森林の向こうに、禍々しくそびえたつ魔王城。

 まずは挨拶がわりに、一発ブチ込みたいと思います!!


 さーて、皆さんのご一緒に──!!


「魔王城の皆さん、こんにちわ──!!」


 俺は勇者の剣で、空を切り裂いた。


 ブフォォォ!!!


 爆風の斬撃が巻き起こる。

 そして風の斬撃が、魔王城へと襲いかかる!

 

 ズバァァァァン!!!


 あらっ、なんという事でしょう。

 魔王城が真っ二つに割れました!


「勇者レジェでーす!! おらおら魔王、出てこいよぉぉ!!」


 と叫びながら、さらに二発、斬撃を放つ俺。


 ズバァァァン!!! ズゴォォォン!!!


 魔王城の上部が吹っ飛び、土台に亀裂が入りました。


「なにすんじゃボケぇぇ!!」


 すると魔王城から、怒り狂った大量の魔族たちが、アリのように飛びだしてきました。

 見ろ、魔族がゴミのようだ。


「テメェ勇者ッ! 魔王城をめちゃくちゃにしやがってっ!

 許さぬっ! 許さぬぞぉぉっ!」


「ここは何としても通さぬっ!!

 魔王様には近づけさせないっ!」


 俺の前に慌てて飛びだしてきた、魔族たち。

 俺は構わず、魔王城に向かって斬撃を放っていく。 


「うぎゃぁあぁあぁあ」

「きぇぇぇぇぇ」

「お助けえぇぇぇ」

「お父さんっ! 死にたくないよぉぉぉ」


 魔族達の悲鳴が、幾重にも重なります。

 悲鳴の不協和音。

 阿鼻叫喚の地獄です。


「くっ、鬼畜勇者めぇぇ! 我が名は魔王軍四天王が一人、雷帝ライデンなりっ!

 貴様の能力は把握している!

 得意の風魔法で、この雷を防いでみろっ!

 出来るものならなぁ!!」


 身体中が眩しく光った大男が、俺の前に立ち塞がった。

 光の棒を天に掲げると、大空を雷雲が覆い尽くし、ゴロゴロと雷鳴を轟かせる。


「くたばれ勇者ッ!

 【怒髪天雷鳴砲ギャザリック・スパキャノン】!!」


 大男の叫びと共に、俺の頭へとカミナリが降り注ぐ。

 それを俺は、丁寧に勇者の剣で受け止めた。


「効かないねぇ」


 ニヤリと笑う俺。


「な、なにぃ!?」


 動揺する四天王ライデン。


 俺の勇者の剣は、落雷を受け止めて、バチバチと激しく帯電しています。


「いくぜお返しじゃぁぁ! 【雷・斬サンダー・スレイブ】!!」


 意趣返しとばかりに、雷を纏った剣を素振りする俺。


 ズバババババァァァ!!


 雷属性を纏った斬撃が走り、

 大量の魔族達を、次々に感電死していきます。


「ぐぁぁ……魔王さま……申し訳、ありません……」


 身体を真っ二つに裂かれて、最後の言葉とともに力尽きる四天王ライデン。


 魔族達は、ほとんどがくたばりましたね、ハイ。



「き、貴様には…… 人の心が無いのかっ!?」


 まだ生きてるやつが居ましたね。

 血まみれで涙を流した女魔族が、俺の前へと現れました。


「この魔王城の城下町にはっ……幸せに暮らす魔族達が、たくさん住んでいたのだっ!

 貴様は私たち魔族を蹂躙して……心が痛くないのかっ!?

 これ以上、私たちの故郷を壊さないでくれっ!」


 身体中ボロボロの女魔族は、涙ながらに訴える。

 ブーメラン発言乙。

 どのツラ下げて、そんなセリフを吐けるのでしょう?

 魔族の侵攻によって、多くの人間が生き絶えたというのに。


「まぁ良い、お前だけは見逃してやるさ。

 もう人間を殺すなよ」


 俺はそう言って、特別に女魔族を見逃してやります。

 さーて、いよいよ魔王城に乗り込みましょう!!



 ???


 あれ? おかしいですね……

 突然、目眩がして、足がふらふらしてきます。

 頭が痛くてぼーっとします。

 なんでしょうねコレ……


「ふ、ふふふ、あはははぁ!! 騙されたわねぇ!!」


 後方から、先ほど見逃した女魔族の笑い声がした。


「とんだお人よしね勇者っ! あなたが吸ったのは猛毒の霧よっ!

 あなたの弱点が毒であることは、魔王さまから聞き及んでいる! 

 あなたはここで終わりっ! 無様に死になさいっ!

 私は魔王軍四天王が一人っ! 侵食のバハネルよっ!」


 あーこれは一本取られましたねー。

 大変ですね。また毒を喰らってしまったようです。

 しかし心配ありません。

 RTA世界一である私は、同じ手は二度と食らいませんから。

 

 こんな事もあろうかと、ヒョウロー村の管制塔から盗み出して、持ってきたんですよ。

 大量の解毒薬と回復薬をね。

 

 これで聖女マリリに頼らなくても、回復や解毒が出来るのです……

 また自分で魔法を使って、吐き気に襲われる心配もありません。


 強力な解毒薬をゴクン。

 これで死にませーん。


「な……なぜまだ倒れないっ! 毒が効いていないのか!?」


 驚愕の声でうろたえる女魔族に……

 スパーキングッ!!!


 ドゴォォ!!


 女魔族は、空の彼方へと吹っ飛んでいきます。


 さて……



「おらぁ!! 残るは魔王だけだぜぇ!!!」


 高くそびえたつ魔王城に向かって、俺は再び風の斬撃を浴びせかけます。


 ドゴーン! バガーン! ズゴーン!!


 しかし……

 魔王城が切り刻まれて穴だらけになっても……

 魔王が魔王城から出てくる気配はありませんでした。


「はぁ……仕方ねぇなぁ引きこもり魔王が……

 特別に俺から出向いてやるよぉ!」


 ということで、魔族たちの血に塗られた大地を駆けて、

 俺は魔王城の中へと飛び込みました。


 魔王城の中は、瓦礫まみれの血まみれで、

 天井は半壊し、きれいな満月と星空が望めます。

 奇跡的に原型をとどめている魔王城跡地を歩いていきます。

 さて、魔王はどこにいるのでしょう……


 玄関からまっすぐ奥に、真っ二つに割れた大きな階段を登っていきます。

 そして、目の前に現れる大きな扉。

 それをぶっ壊して、いざ魔王とご対面です。


 魔王は……

 あっ、居ました!


 無駄に広い豪華な部屋の奥で、大きな椅子に座りながら……

 魔王……イカつい身体で牙を持った漆黒の大男が……

 真っ二つに切り裂かれて、血まみれでくたばっていました……

 は……?

 クソわろたwwwww


 魔王もうしんでんじゃんwwww


 どうやら、最初の風の斬撃で即死していたようです。

 え? マジ? これで終わり??

 魔王討伐完了ですか!!?

 えぇぇ!!?


 あまりにあっけない最後、全然達成感がないんですが、

 クソゲーじゃねえかっ! 魔王ザコすんぎ!!

 

 俺は心底がっかりしながら、魔王の死体を確認しにいきます。


 魔王の見事に真っ二つに割れた、断面を確認しました。

 

 魔王の身体からは、赤い血が流れていました。

 しかし、んん? これは……

 あきらかにおかしいですね。

 魔王の身体の中には、肉ではなく、大量の泥が詰まっていました。


 え……?


 魔王の身体は、泥人形だったのです。

 つまりハリボテだったのです。

 

 あれぇ? おかしいですね?


 本物の魔王は、どこへ消えた?

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