夕日を眺める四人


―勇者レジェ視点―


「ねぇ、勇者レジェ、ありがとう…… 

 私にかたち討ちをさせてくれて……」


 顔を真っ赤に染めたエリカは、管理塔の最上階にて、勇者の俺に寄りかかっていた。


「私は勇者のことを誤解していました……」


 夕日を眺めながら、俺の隣に座ったマリリが口を開く。


「私は勇者を誤解していました。

 最低クズのド変態だと。

 でも違いました。

 勇者は優しくて強くて、カッコいい変態でした」


 マリリの顔も、心なしか赤かった。

 そして、聖母のような笑顔を俺に向ける。

 こんな綺麗なマリリの顔は、初めてみた。

 あと、変態は否定しないんだな。


「私は外の世界の事を、何も知りませんでした……

 でも、勇者が私を連れ出してくれたお陰で、

 私はやっと、自分の間違いに気づけました。

 勇者レジェさん、私を外の世界に連れ出してくれて、ありがとうございました」


 王女ジェシカから、感謝を告げられる。

 その笑顔は、大人っぽくて、

 召喚時に教会で会った時の、生意気な彼女とは全然違っていた。

 王女ジェシカは、この旅のなかで、人間として正しく大きく成長したのだ。


「ねぇレジェ、聞いてもいい?

 私たちを魔王に差し出すって話も、嘘なんだよね?

 だってレジェは、すっごく優しい人だから、

 本当は勇者として、魔王を倒しにいくつもりなんでしょう?」


 剣聖エリカから、核心を突かれた。

 エリカのいう通りだ。


 俺は魔王を倒すために、魔王城に向かっているのだ。


 クズ勇者一行による、ヒョウロー村襲撃事件。

 この事件によって俺は、この村のエルフ達やこの三人から、たくさんの好感度を稼いでしまった。

 その人数、約300人。

 俺のレベルは、もう観る影もない。

 今の状態の俺では、きっとエリカにもマリリにも敵わないだろう。


 俺は、エルフ達を助けるために、一度憎悪ヘイトを失った。

 レベルを失った。

 でも……


「ねぇ、勇者、気になったんだけどさ、なんでわざわざ、皆に嫌われるような真似をしたの?」


「ん? いい質問だなジェシカ」


 でも、心配ない。

 憎悪を失ったのなら、もう一度集めれば良いじゃないか。


「それは俺が、とんでもない極悪人だからさ」


「「「え??」」」


 俺の答えに、三人が首を傾げた。


 俺は、肩に寄りかかるエリカをどかして、

 屋上が消えて屋上となった管理塔のテッペンにて、俺は立ち上がった。


「聞けぇ! エルフどもぉぉ!!」


 俺は声を張り上げた。


「助かった気になるなよ!

 お前らに自由なんか、あり得ないんだよぉ!! バァァァカァァァァ!!」


 俺の演説を、エリカが呆然と見上げている。


「つまり、支配者が変わっただけって事だ!

 お前らエルフは今まで通り、家畜のままだ!

 今度はこの俺、レジェ様のために、

 汗水垂らして働いてもらうのさぁぁ!!」


 エリカやマリカ、ジェシカの顔が、みるみるうちに青ざめていく。

 そして俺のレベルは、すごい勢いで上昇していく。


「働かざるもの食うべからず! お前ら家畜は人間のために命を捧げるんだよぉ!!

 残念だったなぁ! 助かったと思ったか!?

 俺はお前らから、限界まで搾り取るぜぇぇ!!

 むしろお前らに待っているのは、これまで以上の地獄の日々だぁぁ!!」


 俺は大声で宣言する。

 俺は支配者だと、

 エルフは家畜だと。


 俺のレベルが、みるみるうちに上がっていく。


「ふざ、けんなっ、取り消せよっ……」


 エリカが怒りに震えていた。


「ぶっころしてやるぅぅ!! クズ勇者ァァァ!」


 エリカの煮えたぎるような殺意が、俺に向かって剣を振る。

 エリカの殺意によって、俺のレベルはさらに跳ね上がり。

 俺のレベルが、エリカのレベルを追い越した。

 次の瞬間。


 ギィィィィン!!


 俺は勇者の剣で、エリカの剣を受け止めた。

 レベルがどんどん上がっていく。


「言っただろエリカ。

 俺がいい人に見えたのか? だとしたらお前の目は壊滅的に腐ってるぜぇぇッ!

 俺は極悪勇者だぁ!

 そしてお前は、ひっくり返っても俺には敵わない」


「ぐぅぅ!! あぁぁ!」


 悔しさを噛み締め、苦悶の表情で涙を流すエリカ。


「【爆炎ファイアバーン】……」


「無駄だっ!」


 マリリの魔法を、詠唱途中に食い止めて、マリリの首根っこを掴んだ俺。


「く、クズ勇者っ……! あなたはやはりっ、どうしようもない変態だったんですねっ!!

 私の事ならっ、好きにすればいいわっ!

 私にはっ、死ぬまであなたに添い遂げっ、あなたと共に地獄に落ちる覚悟がありますっ!

 ですが、どうかっ! 他の人を巻き込まないでくださいっ!!」


 マリリがぐちゃぐちゃの泣き顔を見せる。


「あ、ぁぁ、嫌っ、そんなぁぁ」


 ジェシカは女の子座りで尻もちをついて、そのままチョロチョロとお漏らしをしていた。

 チョロチョロインの称号を授けようか?

 よく漏らす奴だな。


「騙したなっ! 私の心を弄びやがってっ!!」


 暴れるエリカを押さえつけながら、三人まとめて抱き上げる。

 俺のレベルは、ほとんど元に戻っていた。


 地上の方を確認すると。

 エルフ達は俺を見て、恐怖の顔で震えていた。

 いい気分だ。

 希望から絶望に叩き落とされた、情けない顔だ。


 俺は管理塔の階段を降りて、牢屋へと三人を連れて行った。

 牢屋には人間の兵士たちを、ぎゅうぎゅう詰めに閉じ込めてある。

 男臭い牢屋だぜ。


 そして俺は、三人まとめて独房にぶち込んで、金属製の手錠と足錠をかけた。


 これで逃げられないだろう。


「くぅぅ、許さない、許さないっ!!」


 俺を睨み続けるエリカ。


「心配するな、昨日は一睡もしてないんだから、今日はもう寝ろ。

 隈ができたら、可愛い美貌も台無しだぜ?

 明日の朝には出発だ。

 お前らは明日、晴れて魔王様のオモチャとなるのさ!」


 俺はそう言い残して、牢屋を後にした。

 コンクリートの壁は、特殊な暗証番号でしか開かないので、エルフに逃げられる心配もないだろう。




★★★




 さて……

 日が沈み。

 コンクリートの壁を飛び越えて、一人。

 俺は魔王城へと走り出した。


 ジェシカやマリリやエリカは、もう用済みだ。


 俺は管理塔にて、正確な地図を拾ったのだ。

 時間ロスも、無駄にはならなかったということだ。

 魔王城の位置も把握した。

 幸運なことに魔王城は、俺が屋根を投げ込んだ大河の上流にあったのだ。


 つまり川に沿って進めば、魔王城に着くということ。


 マリリ達案内人は、必要ない。

 ここからは一人の戦い、ソロ攻略だ。

 夜が明ける前に、決着をつける。


 俺は今、全国民から憎悪を集めて、最強の状態だ。


 今夜、俺は一人で、魔王を倒すっ!!

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