王様の顔面にスパーキング!


「ここは……どこですか? 

 俺は勇者……

 俺の使命は、魔王を倒す事……ですよね?」


 俺は先回りして、説明を聞くのをスキップした。


「いかにもその通りだ。理解が早くて助かるな。

 勇者よ。名は何という?」


「"レジェ"だ」


 王様の威厳の籠った問いかけに、俺も負けじと低い声で張り合った。

 ちなみに"レジェ"とは、俺のRTAでのユーザーネーム、"レジェンド"から取った。

 再び王様が口を開く。


「そうか、勇者レジェよ。

 立ち上がり、こちらに登ってきなさい。

 これより、勇者任命式!

 我が娘ジェシカより、”勇者の剣”の授与をり行う。

 そして、勇者が魔王を討伐したあかつきには、我が娘ジェシカを勇者の妻とし、

 勇者レジェを、次代国王として迎えいれる!」


 王様の長ったらしい説明の後、後ろの観客がドドッと沸き立った。

 ひゅーひゅーと大歓声が、割れんばかりの拍手とともに鳴り響く。

 うるさい耳が痛い。

 左右の兵士の隊列を眺めながら、俺は足早にレッドカーペットを登り、壇上へと上がった。


「では王女ジェシカよ。”勇者の剣”を勇者へ」


「はい」


 王様に呼ばれて、白ドレスの思春期娘が、椅子から立ち上がった。

 豪華な装飾の大剣を、重たそうに持ち上げて、俺の方につかつかと歩いてくる。


 黄金色の透き通るような髪が一本一本さらさらとなびくさまは、まるでションベン小僧の放尿のように……

 長いまつ毛に紅く塗られた唇は、キュッと閉じられて、

 美貌と幼さを兼ね備えた、ケツの青い生意気王女が、俺の目の前で足を止めた。


「それでは、レジェよ。

 わたくし王女ジェシカの名において、あなたを第三代勇者に任命します。

 私にひざまずき、両手をかかげてください」


 ジェシカが偉そうにペラペラ喋るなかで……

 キョロキョロと辺りを見渡す俺、

 そして俺は、気になるものを発見した。


 王座のそばに控えるように、大きなパウンドケーキやシャンパンの乗ったテーブルが置いてあったのだ。

 

「なぁジェシカ、あのケーキは何だ? 食べて良いのか?」


 俺は尋ねてみる。

 目の前の王女ジェシカの口元が、ピクリと引き攣る。

 殺気を感じた。


「口を慎め無礼者っ! 王女さまになんて物言いをっ!」


 背後の階段下から、元気なモブ女の声がした。


「よいよい構わぬ。

 このケーキは勇者の誕生を祝うものだ。

 この儀式を終え次第、この教会は歓迎パーティ会場となるのだ」


 王様は優しそうに目を細めて、寛大な心で、ざわめく観客をなだめた。


「そうですか、それでは遠慮なく」


 俺はそう言って、スタスタとパウンドケーキへと足を進め、

 ケーキの皿を両手で掴んだ。


「ちょ、ちょっと、何してんのよっ」


 王女ジェシカの低い呟きが、後ろから小さく聞こえた。


「それじゃあここ・・に、新しい勇者レジェの誕生を祝ってーー!!」


 俺は仰々しく叫びながら、ケーキを皿ごと持ち上げて、


「スパーキングッ!!!」


 それを、王様の顔面めがけて投げつけた。


「ブフッ!!?」


 王様の頭に、巨大なパウンドケーキが、

 バフゥゥン!

 勢いよくクリーンヒットする。


 バカデカいパウンドケーキが、王様の頭をまるごとすっぽり飲み込んだ。


 それはまるで、アンパ○マンならぬケーキマンのようで、

 新しい顔よ、それっ!

 と言わんばかりに投げつけたケーキは、王様の頭にうまい具合にセットされた。

 これで元気100倍だねっ!


「ぐぁぁぁ!!」


 ケーキの頭の重さに耐えられず、悶えながら膝から崩れる王様。


「きゃぁぁ!!」


 隣の赤ドレスのおばさんが――たぶん王妃だろう、口を大きく開けて泡を吹いた。


「ちょ、ちょっ、え?」


 目を点にして唖然とする王女ジェシカ。


「ブフッ」


 と、たまらず噴き出す観客たち。


「貴様ぁぁ! 叛逆者はんぎゃくしゃかっ! 捕えろぉぉ!!」


 次の瞬間、階段の下から怒号が飛んできた。

 先ほどのモブ女だ。

 紫色のドレスの、性格のキツそうな厳つい目の女。

 おいおい、そんな怖い顔してるとしわが増えるぜ?


「即刻勇者を捕えろっ! 戦闘配置っ!!」


「「「はいっ!!」」」


 紫ドレスのモブ女が、怒り狂ったように叫んだ。


「きゃぁぁぁ!!」

「こ、国王さま―っ!」

「なぁ俺、夢でも見てるのか?」


 教会内が一気に騒がしくなった。


「ぁ、ぁあ、勇者あなたっ、なんてことっ……」


 目の前の王女ジェシカは顔を真っ青にして、俺を涙目で見ながら全身をガタガタと震わせていた。

 それは恐怖か? それとも怒りか?

 白ドレスの下に透けた細長い2本足は、おしっこを我慢する時のようにプルプルと内股に折りたたまれて、

 生まれたての子鹿のように不安定でおぼつかなかった。


「さぁ王女様、ともに参りましょう」


 俺は両手を広げて、王女ジェシカへと近づいていく。


「い、いやっ来ないで……」


 緑がかった瞳から、ぽろりぽろりと涙が落ちる。

 そして股間からはじんわりと黄色い液体がにじみ、太ももをつたいながら垂れ落ちて、

 王女さまは恐怖のあまり、上も下も決壊していた。

 

「地獄へ共に」


 俺はおもらし王女さまを抱きしめて、お姫様だっこで抱きあげた。


「き、貴様っ! 勇者のクソ野郎!!

 王女様から離れろっ!!」


 男臭い声が集まってきた。

 俺を囲むように、殺気まみれの兵士たちが集まってくる。

 向けられる憎悪、殺意、怒りの感情。

 そのたびに身体の内側から力が湧いて、レベルアップしていく感覚が分かる。


 嫌われることほど強くなる俺は、"嫌われるだけで強くなる"!


「いやぁぁぁぁ!!」


 王女ジェシカが泣き叫び、俺の胸の中でじたばたするが、

 俺の体はビクともしない。


 集まってくる兵士達、重なり膨れ上がる俺への憎悪ヘイト

 それに比例して、俺のレベルは、指数関数的に上がっていく。


 もう、誰にも負ける気がしないぜ。


 まずは王様をケーキマンにして、

 つぎに王女を誘拐して……

 俺はこの王国国民全員から、憎悪ヘイトを買ってやる!!

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