十一日目 エピローグ

花火を眺める四人


 ひゅ──

 どどん、どんどんどん

 ぱらぱらぱら……

 どぉぉぉん


 RTA開始から11日後。

 天神大祭の翌日の夜。

 女神ヘスティアを讃える花火大会は、1日遅れで開催された。


 昨夜のこと。

 俺達が魔王と激闘を繰り広げているあいだ、

 地上では、どこもかしこも悪臭につつまれて、阿鼻叫喚の地獄だったらしい。


 誰もが勇者レジェへの怒りを叫び、拭っても拭いきれない悪臭と、悪戦苦闘していたそうだ。

 しかし、その4時間後、悪臭ガスは突如として消滅した。

 マリリが製作した悪臭ガスは、時間経過で自然分解するように設計されていたらしい。

 さすがは聖女マリリ、魔法の天才だ。


 現在マナ王国では、こんなニュースが流れている。


―――――

 勇者レジェが国家転覆を企み。

 国王ジラード、王妃リリシア、戦士長ロゼリアを殺害。

 さらには魔王を手玉にとって、花火とともに悪臭を国中にまき散らし、

 悪神タナトスを現世に召喚し、世界の滅亡を目論んだ。

 女神ヘスティアが勇者レジェを止めようと力を使い、勇者レジェは死亡するも、女神ヘスティアも息絶えた、と。

―――――


 今この世界は、俺に対する憎悪ヘイトで溢れかえっている。


「おまたせ……二人とも」


 そんな言葉とともに、剣聖エリカと聖女マリリが顔を出した。


「……開始時間に間に合わなくて、申し訳ありません」


 マリリが深々と謝罪をした。


「……忙しかったんだろう、おつかれさま」


 俺は、そんな二人を労った。

 エリカとマリリが、俺の隣に腰掛ける。

 俺達は四人、並んで綺麗な花火を眺めた。


「……どこを歩いても、あんたの悪口まみれだったわよ。

 レジェは今、王国中で人気者ね!」


 エリカがそう言って、俺の右肩に身体をあずけてきた。


「……私は、不快でしたよ。

 レジェが悪口を言われてるのは、耐えられません……

 レジェは世界を救った勇者なのに……

 でも、真実を広めてしまえば、レジェに好感が集まって、レジェは再び身動きのとれない身体になってしまう……

 むぅ……複雑です……」


 ジェシカが口を尖らせながら、俺の左肩に身体を預けてくる。


「……二人とも、ずるいですよ……」


 マリリの声が、後ろから聞こえた。

 そして、後ろから、ギュッと身体を抱きしめられた。


「私も、レジェとくっつきたいです……」


 甘い吐息が俺の首元をくすぐって、こそばゆい……


「暑苦しいわ、お前ら……」


 俺は三人の熱を感じながら、花火を眺めて、感傷に浸っていた。


「……そういえば、すまないなジェシカ……

 お父さんを生き還らせることは出来なかった……」


 女神ヘスティアの力では、直前に死んだ者しか生き返させることができなかった。

 5日前に毒殺された国王は、もう手遅れだったのだ。


「……はい。残念です……

 私は、お父さまに謝りたかった……

 喧嘩別れになってしまいました……

 "お父さまの書斎"を確認して分かりました。

 お父さまはただ、お母さまに騙されていただけだったんです。

 お父さまは小さい頃、お母さまの”千里眼の力”に、何度も命を助けられたと書いてありました。

 おそらく全て、お母さまの自作自演だったのでしょうが……

 お父さまは、身分の低かったお母さまを、王妃として迎え入れたんです。

 ……ヒョウロー村を黙認していた件も、全て魔王を倒すためだったと書き記してありました。

 全てを擁護する気にはなれませんが……

 お父さまはただ真剣に、魔王討伐を目指していたんです。

 ……それがまさか、妻が魔王で、娘が魔王の娘だったなんて……

 本当に可哀想な話ですね……」


 ジェシカは自嘲気味に笑った。


「……うん。私も、今なら理解できるわ……

 私はヒョウロー村を許せないけど、

 ヒョウロー村が、人間・・の命を守っていたのは、たしかな事実だものね……」


 剣聖エリカが、遠くを眺めながら呟いた。


「ごめんね、ジェシカ。

 出会ったばかりの時、私はあなたのことを世間知らずだとか自分勝手だとか、さんざんに罵ったけれど

 私もまだ世界のこと、全然分かってなかったから……

 ……私も、変わらなくちゃいけないと思うの。

 ジェシカみたいに、学ぶ姿勢を忘れずに、変わっていかないと……」


「そうですね……ジェシカは本当に、りっぱな女の子になりましたよ……」


 マリリが後ろから、ジェシカの頭を撫でまわした。


「……うん、ありがとう……」


 ジェシカは恥じらいながら、小声でそう言った。

 そして、ふっと空を見上げて、


「……でも、一つだけ心残りがあるのは……

 私……妊娠してたんだよね……」


 ジェシカは自分のお腹を撫でながら、花火の上がる夜空を見上げた。


「……あ……」


 俺は、声を上げた。

 しまった。

 ジェシカの胎内にいた、俺とジェシカの子供の命……

 魔王リリシアによって、神の世界を繋ぐ扉として、利用されていた赤ちゃん……


 ヘスティアに蘇生を頼むのを忘れてた。


「……お腹のなかに、赤ちゃんがいたんですよね……

 やっぱり、あの子はもう居ないんですかね……?

 ……可哀想なことをしました……

 私が魔王の娘だったせいで……私なんかが母親だったせいで……あの子は……」


 ジェシカは辛そうに唇を噛んで、目尻に涙を浮かべていた。


「……ジェシカ……」


 俺も泣きそうになっていた。

 すまない。

 俺がヘスティアに、蘇生をお願いし忘れたせいだ……

 完全に、頭から抜け落ちていた。

 なに、やってるんだ、俺は……


「ジェシカ、少しお腹を見せてください」


「「えっ?」」


 後ろからの聖女マリリの声に、俺とジェシカは勢いよく振り向いた。


 ゴンっ!


 そして互いのおでこが激突した。


「いっっ……」


「痛ぇ……」


 ジェシカと俺は、仲良くおでこを押さえて悶絶した。

 その隙に、俺たちの間に潜り込んだマリリは、

 その両手をジェシカのお腹にあてて、ジェシカの胎内を聴診した。


「……妊娠してます……」


「「え……?」」


 マリリの答えに、俺とジェシカの声が重なった。


「生きてますよ! 二人の赤ちゃん!」


 マリリの言葉を聞いて、俺とジェシカは目を見合わせた。


 それは……つまり……そういう事であって……そう……


「「良かったぁぁぁっ!!」」

 

 俺とジェシカは、ぐちゃぐちゃの涙で抱き合った。


「うわぁああああっ……!!」


 良かった、良かった。

 やりやがったあの女神……

 俺とジェシカの子供まで、生き返らせてくれていたのか……

 もうヘスティアさん、ガチ女神!

 女神のなかの女神!!


「……良かったぁぁぁ……私たちの子供だよぉぉ……レジェぇぇ!」


 ジェシカが涙でぐちゃぐちゃの顔で、俺の頬にくっついてくる。


「あぁ……そうだなぁ、ここにいるのか……ジェシカのお腹のなかに……!」


 俺はジェシカのお腹をさすった。


「……あんっ……レジェ……触り方がいやらしいわっ……」


「……いいだろう……触らせてくれよ……

 ずっと手足を動かせなくて、お前たちから一方的に触られてばかりだったんだから……」


 俺はジェシカの身体を、すみずみまで触ってくすぐった。

 二人で抱き合いながら、ゴロゴロと草むらを転がった。


「あぁちょっと、二人だけずるいですよ……」


「……そうよ、二人の子供はおめでたいけど!

 私とマリリだって、今までずっと我慢してきたんだから……」


 マリリとエリカが、俺達二人のあとを追いかける。

 夜空を見上げたジェシカと俺、その上にエリカとマリリが覆いかぶさってきた。


「ふふ、今夜は寝かせませんよ……レジェ……」


「……ぐちゃぐちゃにしてやるから……覚悟しなさいよね! レジェ!」


 頬を紅潮させたマリリとエリカに、至近距離で囁かれた。


「ふっ……それはこっちのセリフだぜ」


 俺が口角を上げながら言うと、


「あぁっ……そんな……

 ぐちゃぐちゃだなんてっ、なんて破廉恥なっ……!

 強さを取り戻した最強のレジェに、私たちは手も足も出さずに蹂躙されるのでしょうか!?

 あの夜は、動けないレジェを好き放題しましたが、今夜は立場が逆なのです!

 これが立場逆転! わからせというヤツなのですかッ!?」


「い……いったい何を言っているの? マリリ……」


 早口で興奮状態のマリリに対し、ジェシカは呆れた目を向けていた。


「……あ、見て、フィナーレよ」


 エリカの声に、花火が上がる方をみると。

 そこには鮮やかな花火が、ドンドンパチパチと上がっていた。

 

「……綺麗ですね……」

「……すごいです……」


 マリリとジェシカが、目を輝かせながら声を上げた。

 そんななか、

 三人が花火に見とれるなかで…

 俺はただ一人、三人のおっぱいに見とれていた。


 左上にはマリリの隠れ巨乳、

 右上にはエリカの引き締まった乳房、

 そして隣には、ジェシカの控えめな美乳があった。


 俺の視界を取り囲むように、大きなおっぱい花火が六つ、趣き深く花咲いていた。


「……うむ、絶景かな……」


 おっぱいに囲まれた視界の先では、花火がパチパチと鳴っている。


 この景色が、魔王討伐の報酬ならば、

 俺は喜んでこれを受けとろう。


 あぁ、俺はいま、最高に幸せだ。




―完―

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RTA世界一が勇者転生!【嫌われるほど強くなる】スキルで、ド畜生変態史上最低クズ勇者となった俺は、王女ちゃん剣聖ちゃん聖女ちゃんを誘拐してパーティ結成!(ヒロイン涙目)魔王討伐RTAを目指す! スイーツ阿修羅 @sweets_asura

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