三日目

さぁ、尋問のお時間よ!


「エリカ、マリリっ!

 勇者レジェが目を覚ましましたっ!

 勇者は無事ですっ!」


 王女ジェシカは、勇者レジェを胸に抱きながら、そう叫んだ。

 それを背中越しに聞いた私は……


「そう……よかった……」

 

 、剣聖エリカは、そんな言葉を漏らして……

 汗ばんだ右手で、大切な剣を強く握りしめながら……


─剣聖エリカ視点─


「エリカ、もう一度前から来ますっ!」


 緊迫した聖女マリリの声がする。

 眼の前の川から、ザバァァンという水音、そして水しぶきとともに、


 邪悪な水の龍が姿を現した。


「ぐぬぬ……我こそは魔王軍四天王、洪水のウラベルであるぞ……

 なぜ私の攻撃が効かぬ…… ただが女三人に……」


 魔王軍四天王、ウラベルと名乗った化け物は、高い背丈で私達を見下ろしてくる。

 ……大きすぎる……

 これは魔物なの?

 大型ドラゴンなんて比じゃない、大きさはその5倍以上……


 信じられない……こんな生き物が……

 手が……震える……


「エリカ、どうやって倒しましょうか!?」


 隣で杖を握ったマリリが、私に尋ねてくる。


「マリリの魔法は有効打にはならなかった。

 かといって私の剣は、川の中までは届かない……

 ……何とかして、私の剣が届く場所まで、アイツを誘い出す方法はないかな?」


 呟きながら、考える。

 魔王軍四天王……

 まだ生き残っていたのか。

 魔王は既に死んだというのに……


「……ですが、あのウラベルという魔物は、川の中から大量の水を用いて、遠距離攻撃を仕掛けてきます。

 地上までおびき寄せるのは、難しいかと……」


 そう、マリリの言う通りだ。

 ならば……!


「………だったら私が行く!

 マリリ、魔法で私をあいつの頭あたりまで投げ飛ばせる?

 剣さえ届けば、私が斬れる!」


「正気ですかエリカ!?」


「ええ、もちろんよ!

 ……勇者レジェが、魔王を倒してくれたんだから……

 私たちで魔王軍四天王ぐらい倒さないと、認めてもらえない・・・・・・・・でしょ!」


 そう言ってマリリに笑いかけると、マリリもコートの内側で笑みを浮かべた。


「そうね、エリカ。

 覚悟はいい?」


「うん、マリリ。

 あいつを倒して、ハッピーエンドよ!」


 私は剣を構えた。


「【戦塵風ダスト・ストリーム】!!!」


 マリリの強力な風魔法が、私を天へと押し上げる。

 空を駆ける私。


 この感覚……

 昨日のあのときを思い出す。

 ヒョウロー村に来て、勇者レジェに抱きしめられて、空へ飛んだときの感覚。


 あれから私たちは管理塔に飛び込んで、私は父さんとケジメをつけたんだ。


 あぁ、あのとき、私は、

 心臓が高鳴って、すごくドキドキして、

 ちょっと怖くて、不安で、

 でもそれ以上に、ときめいていた。


 運命を感じたの。

 勇者レジェが、私にとって、

 運命の人だって思った。


 ねぇ。

 なんでわざわざ、嫌われるような真似・・・・・・・・・をしたの?

 私には分からないよ。


「……正直に白状するまで、尋問じんもんしてやるから……」


 今までやられたぶん、やり返してやるんだから。

 ねぇ、勇者レジェ。

 もう、にがさないよ。

 ふふ……


 私の口は、どうしようもなくニヤけていて、

 これから起きることが楽しみすぎて、身体じゅうが熱くなった。




「なにぃぃぃい!!?」


 空を飛び、迫る私に気づいた四天王ウラベルが、絶叫をあげる。

 もう遅い、斬る。


 私は剣聖の剣を握りしめて、空中で構えて力を込めて……


「勇者レジェのバカヤローーッ!!!」


 心の底から叫びながら、四天王ウラベルの首を切り裂いた。


 ズバァァァァァァ!!


 魔王軍四天王ウラベルは、断末魔を残して血飛沫をあげた。


 そして、血飛沫の海に飛び込む私。


 やがて川へと落下していき、ドボーンと川のなかに着水する。


 水のなか。

 すべてが洗い流されて、気持ちいい。


 ぷはぁ、

 と水面から顔をあげる。


「さすがエリカ! 魔王四天王を一撃だなんてっ!!」


「剣聖エリカっ! お見事ですっ!」


 声のするほうを見ると、川岸からマリリとジェシカが、私に向かって手を振っていた。


「うん!」


 私は天に拳を突き上げて返事すると、岸に向かって泳ぎはじめる。

 大きな川には、魔王軍四天王ウラベルの死体が浮かんでいた。


 そして、ジェシカの腕のなかには、

 勇者レジェが抱きかかえられていた。

 勇者レジェは、狐につままれたような顔で、私を見ていた。


 今朝。

 マナ王国王都から、【勇者レジェが魔王を討伐した】という知らせが届いてから、

 3人でヒョウロー村を飛び出して、半日……

 ようやく問いただせる。


 さあ、覚悟しなさい勇者レジェ!


 尋問じんもんのお時間よ!

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