二日目(昼)
盛られた朝ごはん
「ギャォォオォ!!!」
夜明け、日の出を告げるバカうるさい鳴き声が、俺の鼓膜へと襲いかかる。
この世界の朝は、コケコッコーではなくギャオォで始まるらしい。
俺は鳴き声のする空を見上げた。
スッと、俺たちに影をおとした大きなナニカ。
それはバカでかい、恐竜のような……
しかし翼が生えているドラゴンだった。
「あ、あれはド、ドラゴン!!? 魔王軍最強の使い魔っ!」
エリカの怯える声に合わせて、俺は勇者の剣を素振りした。
ズバァァァァン!!!
巻き起こる風の斬撃。
次の瞬間、ドラゴンの身体は真っ二つに割れて、目の前の地面に落下した。
「は?」
「嘘でしょう?」
「きゃあっ!」
あんぐりと口を開けて目を丸くする三人娘。
そして俺は、エリカの剣を包丁がわりにして、ドラゴンの肉をステーキサイズに切り刻んだ。
「わ、わたしの剣をっ、包丁がわりにするなっ!!」
そして聖女マリリに頼んで、魔法で美味しく焦がしてもらった。
「こ、この神聖な大聖女を、料理道具として使うなんてっ、なんて罪深い男っ……やはり貴方はっ……
「喋ってないで早く焼けマリリ」
そして数分後。
俺たち四人は焚き火を囲みながら、朝ごはんを食べていた。
「五分で出発するから、急いで食べろよっ! 返事は!?」
「「「くだばれクソ勇者っ!!」」」
まぁ、お行儀の悪い娘たちですこと。
俺は昨日から走りっぱなしだ。
はらぺこな俺は、
しかし……
なにか味気ない。
こうなると、"焼肉のタレ"が欲しくなる。
ただの焼いた肉は、現代人の舌ではもの足りなく感じてしまうのだ。
くそ、料理シェフでも一人誘拐してくれば良かったか?
「ねぇ勇者、そこに生えてる草があるでしょ?
その草と一緒に肉を食べると、もっと美味しくなるわよ」
突然、エリカが口を開いた。
「ほう、そうなのか?」
素直に聞き返す俺。
「えぇ、この葉っぱは珍しい調味料なのよ。
残念な事に一枚しかないから、クズ勇者のあなたに譲るわ」
そう言って、千切ったギザギザの葉を俺に差し出してくる。
「ようやくエリカも、素直な言いなり奴隷になってきたな」
「そうね、どうせあなたには何をしても敵わないし……
私の身体も命も、全てがあなたのモノだから……」
コイツ、やけに素直じゃないか?
ツンデレのツンはどこに消えた?
「これでいいのか?」
俺は受け取った葉っぱを小さく千切り、肉の上に乗せてから、
ひと思いにかぶりついた。
おぉ、これは確かに美味い!
スパイシーでピリピリして、辛めの胡椒のような味!
俺は、さらに葉っぱを千切り、二口目を頂いた。
そして、違和感を感じた。
あれ? おかしい、視界がぼやける。
痛い、痛い痛い痛い……
喉の奥が痛い……
エリカの口元が、ぐいっと持ち上がった。
そして高らかに笑う。
「はははっ! バカねぇっ!
その葉っぱはスギナメの葉! 猛毒よっ!!
あなたはもう終わりよっ!
猛毒に身体を犯されて、ここで無様に死ぬのっ!」
悪魔の笑みでご満悦のエリカ。
子どものように飛び跳ねてはしゃいでいた。
この女……やりやがったなぁ!?
完全に油断していた。まさか毒を盛られるとは……
このまま死ぬ訳にはいかない、くそっ、どうするっ!?
「おいマリリっ! お前は魔法使いだろう!! 今すぐ俺を解毒しろっ!」
俺は慌てて、マリリの首を掴んで声を荒らげた。
「ふ、ふん、ご冗談をっ! 変態勇者はここで死ぬんですっ!
私の首を締めるならどうぞご勝手にっ! そうなればこの毒を解毒できる人間なんて居ませんよ?
わ、私はたとえ死ぬ運命だとしても、決して悪意には屈しないっ!!」
恐怖で震えながら、精一杯俺を睨みつける聖女マリリ。
死んでも俺を解毒する気はないらしい。
そ、それなら最終手段だ。
俺は、王女ジェシカの首を掴んだ。
「こ、この王女さまがどうなってもいいのかっ!?」
「そ、それは……王女さま……」
動揺するマリリ。
やはりジェシカは、人質として最適だ。
エリカもマリリも、王女のためなら言いなりになってくれる。
それほど王女というのは、高貴で大切な存在なのだろう。
「ばっ、ばかにしないでくださいぃぃぃ!!!!」
えぇ?
王女ジェシカが、顔を真っ赤にして叫んだ。
「私だって、国を守る王女ですっ!
これはチャンスですっ、クズ勇者を倒すための最大のチャンスなんですっ!
だから私も命をかけますっ!
勇者と共倒れになる覚悟ですっ!
だから、マリリ! 迷わないでくださいっ!
私も命をかけて、二人と共に戦いますっ!
こんな巨悪に、屈してはいけませんっ!」
俺はジェシカのセリフに驚いていた。
「王女、さま……承知しましたっ!
私達は、決して悪に屈しませんっ!
ここで終わらせましょう……」
マリリが、ポロポロと涙を流して、ジェシカへと微笑みかけた。
「王女さまではなくジェシカ、と、
私のことは、呼び捨てでお願いしますっ……!
私は人生の最後にっ、エリカやマリリと出会えて、本当に良かったですっ……!
二人は私の憧れですっ! 大好きですっ!!
一緒にまた、来世で友達になりたいですっ!!」
ジェシカも、涙を溢れさせながら、精一杯の笑顔を作った。
「ジェシカ」
「ジェシカちゃん……」
エリカとマリリが、王女の名前を呼んだ。
「そういう事よっ! さぁ変態勇者っ!
私達を殺したいなら、どうぞ皆殺しにしてくださいっ……!
酷い拷問でもエッチな事でも、何でも好きにすればいいですっ!!
でも、私やエリカやジェシカが、この先どんな酷い目に遭わされようともっ!
私が、あなたを”解毒”することはあり得ません!
だから、あなたはもう終わりですっ! ジ・エンドですっ!
残念でしたね変態勇者っ!」
身体じゅう恐怖で震わせながら、マリリは硬い覚悟で俺を睨みつけた。
「うぐ……」
どんどんと身体が重くなる。
このままじゃヤバい、マジで死ぬ。
くっ、しかたない。
この手は使いたくなかったが……
「くっ、コレをかせっ!」
俺は聖女マリリの腕から、魔法の杖を奪い取ると……
「【
自分で解毒魔法を詠唱した。
「ななっ、なんですってっ!!? なぜ貴方がソレをッ!?」
マリリが驚愕の声をあげる。
そう、高レベルの俺は、たいていの魔法は使いこなせるのである。
高レベルの俺は、感覚で理解していた。
魔法とは何か、どうすれば使えるのか、理解っていたのだ。
俺の体内の猛毒は、綺麗さっぱり解毒できた。
魔法は便利だ。
火に水に土、様々なエネルギーを生成できる。
しかし、なぜ俺が、自分で魔法を使うのを
それは……
「おぇぇええええぇぇ、ゲロゲロゲロォォ!!」
俺は魔法をつかった後、凄まじい吐き気に襲われるのである。
これは体質だろう。
魔法を打ち出すときに感じる、お腹の中を変な生き物が蠢く感覚。
それが本当に気持ち悪いのだ。
俺は魔法アレルギー、とでも言うべきか?
魔法を使うたび、腹を壊すのである。
だからなるべく、魔法はマリリにまかせていたのだ。
「そ、そんな……解毒魔法がつかえるなんてっ!」
ガクリと膝をつき、絶望するマリリ。
「何なのよっ、あなた一体何者よっ!」
エリカが悔しそうに歯噛みする。
「あぁ、まだ地獄は終わらないのですね……」
ジェシカが光を失った瞳で、呆然と立ち尽くしていた。
「おぇぇ、ゲホォォ……! やってくれたなぁ、エリカぁぁ!! おぇぇぇ……」
そして10分ほど俺は吐きまくった。
吐きまくったせいで、胃の中のモノをほとんど吐き出してしまったので、
俺は急いで、焼肉を食べなおした。
そして慌てて、三人を抱えて、魔王城へと再出発する。
滞在時間、30分か……
くそぉ、また時間ロスしてしまった。
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