なんでっ、あなたがここにっ!?


 さて……


「!!? な、何者だ貴様っ!?」


 俺は適当な方向を向き、棒読み演技で突然叫んだ。


「え??」


 呆気にとられる剣聖エリカ。


 ボムッ!!


 そして足もとで弾ける煙幕。

 俺は素早い動きで、小屋で拾った”煙玉”を地面に叩きつけたのだ。


「くっ、なんだこの煙はっ! 誰だっ!? 離せっ!!」


 俺は迫真の演技をしながら、ウンコの仮面と赤いマントを地面に脱ぎ捨てて、


 急いで草陰へ走る。

 そこに隠していた、勇者の剣とその他二本の棒を手に取り。

 元の場所に戻ってくる。

 一瞬の早技。


 脱ぎ捨てた赤マントに、勇者の剣をグサリと突き刺した。


 これで入れ替わり完了だ。

 あとは、煙が晴れるのをまって……




―王女ジェシカ視点―


「ごほ、ごほ、ごほ……!」


 今度は何っ!?

 突然の煙幕、ウ○コ仮面さんの驚いた声。

 手足を縛られた私たちは、何もできないまま……

 煙が、少しづつ晴れていく……

 そして、そこに居たのは……


「チッ……逃げられたかっ……、ウンコ仮面めっ……」


 そう呟いた男は……

 ウ○コ仮面ではなかった。

 そこに居たのは、私が大嫌いな、最悪の男……

 勇者レジェだった……

 クズ勇者レジェが、ウ○コ仮面さんの赤マントを、勇者の剣で突き刺していたのだ。


「え……なんでっ、あなたがここにっ! クズ勇者っ……!!」


 エリカが青ざめた顔で、ガタガタと身を震わせていた。


「仮面とマントだけおいて逃げるとは、ウンコ仮面も腰抜けだなぁ!

 まぁ流石のウンコ仮面も、勇者レジェ様には敵わねぇって事だなぁ」


 助かったと、思ったのにっ!!

 また捕まってしまった……!


「さぁお前ら。よくも俺から逃げてくれたなぁ……」


 クズ勇者が、私たちへと向き直った。

 怖い、怖い、怖いよぉっ……!!


「くっ、殺せっ……!

 あぁ……愛しておりますっ、ウ○コ仮面様っ……!!」


 剣聖エリカが隣で泣きながら、救いを求めるように天を仰ぎ見る。


「あぁぁんっ! 変態勇者っ! 私たちを罰するならすれば良いわっ!

 でも罰するなら私をっ! 私だけにしてくださいませっ!

 手縄と足縄を解いたのは、この私なんですからっ!!」


 聖女マリリが、私たちを庇ってくれる。

 

「はっ! お前らの身体なんて毛ほども興味ねぇよぉ!

 お前たちは寝不足だろうが、俺は構わないからなぁ!

 このまま魔王城まで一直線だぁ! お前らを魔王に貢ぐためになぁ!」


 な、なんで?

 なんでそんな酷い事が出来るっ……!


「や、やだぁっ! 行きたくないっ!

 私はウ○コ仮面さんと幸せになるのっ!!

 やっと見つけたのっ、私の運命の人っ……」


 エリカが隣で泣いていて……


「魔王……だなんてっ! あんっ!!

 幹部の四天王でさえ、あれほどの変態だったというのにっ!!

 魔王は一体、どれほどの変態なのでしょうかっ!! んふぅぅっ!」


 マリリが身をよじらせながらもだえていた。

 私にはマリリが何を言っているのか、よく分からなかったけど、

 きっと私が無知なのだろう。


 私は王女の癖に、何も知らない。何の力もない。

 出来れば、クズ勇者に捕まる前に、気づきたかったな……

 大切なコト……

 もっと謙虚に、努力しておくんだった。

 必死に生きるべきだった。


 もう遅い。

 勇者に捕まった私たちは、お先真っ暗だ。


 勇者の剣で、私たちの手足の拘束が解かれた。

 そして、


「ほい、ほいっ」


 勇者がなんと、剣聖の剣と魔法の杖を、エリカとマリリに投げつけたのだ。

 慌ててキャッチするエリカとマリリ。


「これは……どういうつもり?」


 剣聖エリカが、大切そうに剣聖の剣を握りしめながら、勇者を睨んだ。


「返すよ。今の俺なら、剣を持ったエリカも簡単に抑えられるだろうからね」


 勇者は淡々とそう言った。


「へぇ? 舐められたものね……」


 エリカが不敵に笑い、剣聖の剣を勇者へと向けた。


「正々堂々戦う気になった? ぶっ潰してやるわ! 私は王女を守る剣! 剣聖一位のエリカだっ!」


 同時にマリリも、杖を天へと掲げる。


「あなたの強さは知っています。

 ですが私たちは、変態なんかに屈しませんわ!!」


 マリリとエリカが、一気に勇者へと攻撃を繰り出す。

 そして、勇者レジェは……


 エリカの剣戟を二本指で止めて、マリリの火炎魔法を手のひらで止めた。


「「は??」」


 唖然とするエリカとマリリ。


「これで分かっただろう? もうお前らは、ひっくり返っても俺に勝てない」


 勇者は気味悪く口角を上げて、次の瞬間!


「あうっ!」


 私はエリカやマリリと一緒に、また勇者に抱きしめられた。


「それでは特急レジェンド号! 魔王城まで出発進行っ!!」


 陽気な勇者。絶望の私たち。


「いやぁ離せぇっ!」


「あんっ、なんて強引なっ! やめっ!」


 ダダダダダダ!!


 勇者は私たちを抱えて、夜の森を駆けていく。

 また誘拐される私たち。

 でも……

 勇者の腕の中は、四天王ヴェロキアに襲われるのと比べれば、いくらかマシな気がしてきた。


 ドドドドドドドド!!



―レジェ視点―


 さぁ一眠りした俺は、眠気スッキリ。

 ジェシカ達三人は、一睡もできてないようだが、まぁ仕方ないね。


 これは魔王討伐RTAだからね。

 今日の深夜には、魔王城に着くはずだ。

 ここからはノンストップだぜ!

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