拉致拘束in丸太小屋


 俺は走り続けていた。

 とりあえず王都を飛び出し、ずっと走り続けているのだが、

 誰も追いかけてくる気配はない。

 俺の足が早すぎるみたいだ。

 さすが特急レジェンド号、魔王城まで一直線だぜ!


 そして俺は、三人に尋問を行った。


 まず第一問。

「魔王城はどこにある?」


①王女ジェシカの解答。

「分かりませ……教えませんっ!!」


②剣聖エリカの解答。

「チッ! 西よっ! 太陽が沈む方!」


③聖女マリリの解答。

「あの山と山の間の方向ですわ。

 ですが、なぜ変態勇者は、魔王城に向かうのですか?」


「助かるマリリ」


 俺はそう言った。

 ジェシカはアホ、エリカは雑。

 話の分かるマリリがいて良かった。


「た、確かにおかしいじゃない! 魔王城に向かうなんて!

 まさかクソ勇者、魔王を倒す気なの?

 クソ勇者って、実はいいヤツ?」


 剣聖エリカが少し希望を持った目で、俺を見つめあげてくる。

 そんな潤んだ目でみるんじゃねぇ、照れるじゃねぇか。


「ブフッ、俺が良い奴に見えるのか?

 だとしたらエリカ、お前の目は致命的に腐っているぜ!

 逆だよ逆。俺は魔王軍に加勢するのさ!

 可愛い王女ちゃんと剣聖ちゃんと聖女ちゃんを連れて行って、魔王へ捧げる”おみやげ”にすれば、きっと喜んでくれるだろうからな」


「なっ!?」

「は?」

「え??」


 俺の絶望的なセリフに、三人の顔が真っ青になる。


「魔王軍に、加勢するですって!?

 ふざけないでくださいっ!

 勇者と魔王が結託すれば、人類は簡単に滅んでしまいますっ!」


 王女ジェシカが涙ながらに訴える。


「クソ勇者めっ……!  私はこの国を守る剣だっ!

 お前の思いどおりにされてたまるかっ!!」


 剣聖エリカが鋭い目で俺を睨むが、俺にとっては、可愛らしいツンデレのツン顔にしか見えない。 


「っ…! 汚らわしい魔王の元へ、私を連れて行くのですねっ!

 大聖女である私が、魔王の手によって穢され、あんな目に遭ったりこんな目に遭ったりッ!

 なんてエッチでドスケベなっ!

 ぁああぁ……どうか神様っ、堕ちていく私をお赦しくださいませぇぇ……」


 聖女マリリは、身を震わせながら嘆き、悶えていた。


「ふはは! よそ者の俺にとっちゃ、人類がどうなろうが関係ないんだよぉぉ!!

 お前らは、魔王様に好き放題にされて、そして惨めにくたばるんだよっ!」


「いやぁあ!!」

「っ、呪い殺してやるっ!」

「あはぁぁん……///」


 よし!

 順調に三ヒロインからの憎悪ヘイトを稼げている。



-6時間後、夕方-


「くっ……! やめろっ! 屈辱だっ!

 騎士としての恥だっ!」


「あぁあっ! いけませんっ! そんな無理やりなんてっ!」


「ふふふ、さぁ大人しく開け、ねじ込んでやるからよ。ほら、欲しいんだろっ!」


「私はっ! 悪には屈しないっ!」


「あぁあっ! ねじ込むだなんて破廉恥なっ!!」


「あら、意外と美味しいわね」


 王女ジェシカの能天気な声で、緊迫した空気が和らいだ。


「ほら、いい加減口を開けて食べろ。腹が減ったら死ぬぞエリカ。はいあーん」


「ほ、施しは受けぬっ! 鬼畜勇者からの情けなど、騎士としての恥っ!」


 レストランから強奪してきたシチューを、四肢拘束状態のエリカに飲ませようとしているのだが、

 意地を張って駄々を捏ねて、口を開いてくれないのだ。


 ここは、魔王城へ向かう道中で見つけた丸太小屋のなか。

 家主は見当たらなかったが、比較的綺麗だったので一泊することにしたのだ。


 頑丈そうな太い縄で、ジェシカとエリカとマリリの、手と足を結び。

 四肢拘束状態で並べたのである。


 そして、レストランから鍋ごと強奪してきたクリームシチューを、手の使えない三人にあーんで食べさせているのである。


「強奪した罪の深いシチューを、聖女の口に無理やりねじ込むなんて、

 非道い、非道すぎますわっ……

 聖女を散々に穢して、さぞ楽しんでいるのでしょうねっ! ド変態っ!」


「庶民の料理も、なかなか悪くないわね」


 聖女マリリは発情しながら、王女ジェシカは素で楽しみながら、

 二人はなんだかんだ食べてくれるのだが……


「悪人から施しは受けないっ!」


 剣聖エリカだけが、頑なにシチューを拒絶するのだ。

 お腹の虫はぐるぐると鳴らしている癖に。

 仕方ない、最終手段だ。


 俺は、勇者の剣を手にして、エリカの首へとかけた。


「ひっ!?」


「殺されたくなければ食え。お前も死にたくないだろう」


「くっ……! 殺せっ!」


 涙目で俺を睨みつけるエリカ。

 意地でも口は開かないつもりらしい。

 何という強い胆力、

 プライドを守り死を選ぶか。

 仕方ない、真・最終手段を講じてみる。


 俺はエリカの首元から、王女ジェシカの首元へと剣を差し替えた。


「い、いやぁぁぁ! やめてください殺さないでください!!」


「さぁエリカ、王女を殺されたくなければ、おとなしくシチューを食べろ」


「ぐっ……ひ、卑怯なっ……鬼畜がっ……!」


 エリカは俺を、悔しそうに見上げながら、ポロポロと涙を流した。

 エリカは、自分の命よりもプライドを優先する強い騎士だ。

 しかし同時に、他人の命のためにはプライドを捨てる、優しくて弱い女の子でもあった。


「っ……! わかったわよっ。食べればいいんでしょう!」


「そういう事だ、はい、あーん」


「っ……あぁ」


 そしてエリカは泣きながら、俺に口の中を見せてくれた。

 シチューの入ったお椀を、エリカの口元へ。

 エリカは観念したように、そっと目を閉じ、お椀に口づけし、

 コクコクと喉を鳴らし、頬を揺らしながら具材を噛んだ。

 それはまさにキス顔で、

 小さくすぼめた桃色の唇と、閉じた瞳から溢れた涙が、ちょっとエッチだった。

 


 さーて、寝るとするか。

 幸い丸太小屋には、ベットに加えて、敷布団が3枚あった。

 もちろん俺はベッドを使う。

 敷布団を並べて、

 三人それぞれ、足と手を縛りつけて、敷布団に寝かせた。

 ある程度身体が動かせるように拘束を緩め、よく眠れるように。

 睡眠は大事だからな。

 魔王討伐のためにも、三人には健康でいてもらわないと困る。


 さて、一日目は順調なスタートを切れた。

 明日のためにも、早く寝よう。


 魔王城までは馬車で3日ほどらしいからな。

 意外と遠いね。

 まぁ馬車なんかよりも、俺が三人抱えて走った方が圧倒的に速いので、

 道なき道を直進すれば、2日以内に着きそうです。

 なにせ俺は時速42キロで、山道を延々と走り続けることができるのだから!

 高レベルって良いね!

 


 日が沈み、真っ暗になる。

 俺は、"勇者の剣"と"エリカの剣"と"マリリの杖"を、三本纏めて抱きしめながら眠りについたのだった。

 起きてすぐに戦えるようにね!

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