第16話 ぼったくり、押し切られる
「
「はい、『グルスゲン墳墓
「解除すりゃいいじゃないか。これだけ冒険者がいるんだ、手先の器用な奴だっているだろ」
羊皮紙は広範な冒険者に配布するための、いわゆる『とばし依頼書』で、依頼内容は新エリアで発動した
しかし、そのせいで魔導列車が止まっているというのがいまいち理解できない。
「地上にまで、届いちゃってるみたいなんです」
「は?」
俺の疑問を察したのかクインスの補足が入る。
それに、俺は口を開けて唖然とした。
「地上に?」
「はい。線路の真上にあるみたいで……そこに周辺のアンブラリアが集まってきちゃいまして。しかも、群れを率いたオスが三匹」
アンブラリアは一匹のオスが複数のメス、そして子供たちを引き連れて行動する、縄張り意識の強い
当然、オス同士が顔を合せれば争いに発展する。
なるほど、線路上で大規模な縄張り争いが続いているとなると、発車はできそうにないな。
魔導列車ほどの質量なら、勢いで轢き進んでいくということもできそうだが……もし、線路が破損していたらそうもいかない。
その線路の状況を確認するにも、誘引されたアンブラリア達をどうにかしないと近づくこともできない、と。
「さっき食べたお肉の
「最初は冒険者に依頼して群れごとの駆除を行おうと思ったんですけど、素材買取が飽和した上に被害が大きくて」
なるほど。
それで、『特価!』なんて書かれてたんだな、あのステーキ。
「観光ツアーは逆に安全なんですよ? 魔物が
「……おいおい、迷宮内と地上と両方に干渉するようなデカい
「大丈夫じゃないから、そんな者が配られてるんですよぅ……」
半ば涙目になって、クインスが俯く。
「まいったな、魔導列車の運行にはトラブルがつきものって話は聞いたが、こんなのは聞いたことがないぞ」
「解決するまでここで足止めって事ッスもんね」
「超広域の攻撃魔法でアンブラリアを吹き飛ばすって手もないでもないけどな」
俺とて、手持ちの第六階梯魔法を丁寧に編めばそういう真似ができるかもしれない。
だが、
「どうするっすか? ロディさん」
「どうって、どうしようもないだろ。しばらく観光でもしてるしかないな。とりあえずは
「そうじゃないっス」
腰に手を当てて、頬を膨らませるアル。
おっと、これはお説教の構えだな。
「ロディさんなら何とかできるんじゃないんスか?」
「うーん、状況が詳しくわからないからな」
「ボクはロディさんが
さて、どんな悪い噂を聞かされたのか気になるな。
だいたい、俺の店に直接来る奴というのは、クレームを言いに来る奴と相場が決まっている。
「そりゃ、皆さん言いたいことはあったみたいっスけど……それでも武装商人ロディ・ヴォッタルクの腕の良さを褒めてたッス」
「……本当に?」
「冒険者の皆さんはシャイなので、直接本人に言いにくかったんじゃないッスか?」
それは店番のアルが可愛かったので日和ったとかじゃないかな。
あいつらがシャイなわけないだろ。
「とにかく! ここでだけ〝ぼったくり商会〟を再開したっていいんじゃないッスか?」
「営業権がないので商売は無理だろ……」
「ヤージェでは冒険者ギルドがあれば、簡易営業権が与えられますよ?」
タイミングよく都合のいいことを口にするクインスに、アルと二人で顔を向ける。
「ホントっスか?」
「探索都市は露店商売が盛んですからね。周辺で狩ってきた魔物素材や採取してきたモノ、迷宮資源も冒険者本人が売っていいことになってます」
「おいおい、どうなってんだ……ヤージェは無法地帯か?」
「冒険者ギルドと商会ギルドの連携が深いんですよ、ここ。両トップが理解のある人で」
なんだか、外堀を埋められている気がするぞ。
アルのこの調子だし、どうも手伝わないといけない空気感が増してきている。
「それに、ボクが気がついてるッス」
「ん?」
「ヤージェの話をしていた時、ロディさん……わくわくしてたっス」
鋭い指摘に、ぎくりとする。
確かに、武装商人などを長年続けていると「アラニスじゃない冒険者の街か」なんて考えはした。
しかし、武装商人として復帰しようなんてことは微塵も考えていなかったぞ!
「それに、解決しないと旅が進まないっス」
「そうですねー……最悪、
アルとクインスの言葉を聞いて、俺はぐっと詰まる。
もっと危険な
それに、だ。
アルがこんな風に言ってくれているのに、情けない姿を見せたくはない。
恋人の前で格好をつけるくらいしなくては、男が廃るというものだ。
「……わかったよ。クインス、冒険者登録の変更を頼む」
「承りました!」
俺の差し出した冒険者証を受け取って、カウンターから離れるクインス。
それを軽いため息まじりに見送って、アルの頭を撫でる。
「煽ってくれたもんだな、アル」
「んふふ、また武装商人なロディさんを見れるッスね!」
「今回だけだ。それに……連れてはいけないぞ?」
異常事態が起きている
そんな危険に、さすがにアルを連れてはいけない。
「わかってるッス。ボクはいつも通り、ロディさんの帰りを待ってるっス!」
にこりと笑うアルの顔に、一抹の寂しさ。
以前の俺では、気が付けなかったものだ。
「予定された停車時間はあと45時間。愛と信頼の〝ぼったくり商会〟が、お客様のご要望に誠心誠意お答えするよ」
軽口を囁きながら、俺はアルの額にそっと口づけた。
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