第36話 ぼったくり、客と再会する。
「わ、すごいっスね! こんな変わった町は初めてっス!」
「ああ、俺も驚いている」
──早朝。
魔導列車を下りて街へと向かった俺たちはその光景に驚きを隠せなかった。
サウスヘルトの街並みはかなり独特……というか、異様だった。
どこを見ても、岩だらけで緑が少ない。
そして、色んな場所から煙が上がり、焦げた匂いがそこかしこから漂っていた。
「岩山をくりぬいて住居にしてるなんて、変わってるッスねぇ」
「なるほど。採掘と住居作りを一気にやったのか。これはなかなか壮観だな」
「とりあえずは、どこっスか?」
「そりゃ、腹ごしらえだろ」
二人でうなずき合い、緩やかに上下左右へうねる大通りを歩く。
鍛冶師の街はすでに火が入っている様で、あちこちから鉄を叩く音と指示出しの声が響いていて活気があった。
「お、旅行者か?」
しばし歩いていると、通りすがりの職人が俺たちに声をかけてきた。
低い背に分厚い身体。そして、顔半分を覆う豊かな髭。
ドワーフだ。
「ああ。魔導列車で来た」
「だろうと思ったぜ! 初めてじゃこの町はわかりにくい。行きたい場所があんなら、教えてやるぜ?」
「そりゃ助かる。どこか美味い飯を食えるところはないか?」
俺の言葉に、ドワーフの職人が口元をもごりと動かす。
おそらく、笑っているのだろう。
「それなら、この真下だ。そこの扉に入って、最初の階段を降りろ。看板が出てる」
「真下ッスか?」
アルが自分の足元をじっと見る。
「おう。観光客向けの店じゃねぇけケドよ……この街のもんを味わうなら、そこが一番だ。『〝鋼鉄王〟ガダンの紹介だ』と言うといい」
「お、あんた二つ名持ちなのか?」
「違う違う、オレたちがが使う合言葉さ。それで、お前さんらが迷い込んだわけじゃないとわかる」
ドワーフの職人がからからと笑う。
場所が変わればルールも変わるってわけか。
こういうのは初めてなので新鮮だ。
「ご親切にありがとうッス!」
「いいんだ。お前には世話になったからな〝ぼったくり商会〟」
「え?」
驚く俺を置き去りにして、ドワーフ職人は歩いて行ってしまう。
アラニスでドワーフを見ることはそう多くないのだが、俺は彼を覚えていない。
さて、誰だったか?
「お知り合いっすか?」
「いや、覚えてないんだ。俺は薄情な性質でな……ぼったくった相手の顔をそこまで覚えちゃいない」
「でも、きっとさっきのおじさんにとってロディさんは、忘れられない人だったんすね」
「さぁ、どうなんだろうな……」
そりゃ、アラニスで武装商人をしていれば、様々な種族の冒険者と顔を合わせる。
エルフにドワーフ、リザードマン。珍しいところだと
どいつも、俺の客だったが俺はできるだけ親しくはなろうとしなかった。
冒険者というのは、ある日突然に消えるものだから。
引退したのか、それとも
「ま、親切はありがたく受け取ろう。そこの扉だったな」
「ッス」
ドワーフ職人に示された扉を押し開けて、薄暗い洞穴のような建物に足を踏み入れる。
外は熱気で暑かったのに、扉の先は妙にひんやりとしていた。
「あ、階段っス」
アルが指さした先には、確かに人が一人通れるくらいの狭い階段があった。
指を振って〈
「暗いから気を付けろよ」
「了解っす」
アルの手を引いて、狭い階段をゆっくりと降りる。
一度、二度と折り返しながら長い階段を降りると、小さな広場にポツンと看板が出ていた。
「『
「なんだか、サウスヘルトっぽいっス」
「言われてみれば、確かに」
岩山の奥深くや火山などに生息していて、驚くべきことに溶岩の中を悠々と泳いだりする。
アラニス大迷宮の中階層にある熱波洞エリアでは、溶岩の中から不意打ちをしてくる
「さて、どんな店かな?」
期待と不安半々で、店の扉を引いて開ける。
瞬間、ふわりといい香りが鼻孔をくすぐった。
「らっしゃい」
どこかぶっきらぼうな口調の主人が、こちらを振り返る。
顔に大きな傷がある、
「『〝鋼鉄王〟ガダンの紹介』だ」
「なるほど。よく来た、友よ」
先ほどと一転して、態度を軟化させた主人がメニューが記された木板を手に、テーブルに訪れる。
どうやら、脚が悪いらしく少しばかり歩きにくそうだ。
さて……この傷と、脚。
なんだか、見覚えがある気がするぞ。
「いつか来てくれると思っていたよ、〝ぼったくり商会〟」
「やっぱり、あんた……」
「さぁ、お前さんに何を食わせたらいい? 借金はまだたっぷり残ってる。好きな料理と好きな酒を好きなだけ頼んでくれ」
そう笑いながら、俺の肩を叩く店の主人。
思い出した、数年前に迷宮の中層域で助けた冒険者の一人だ。
名前も知らないが、例によって無理やりぼったくった記憶がある。
「じゃあ、一番おすすめのやつをいくつか頼む」
「承った。何か苦手なものは?」
「ツレは辛い物が苦手だ。それ以外は大丈夫」
「よし、少し待っててくれ」
厨房に戻っていく主人を見送って、俺は突然の再会に少しばかり嬉しさを感じる。
俺への借金を踏み倒した冒険者の多くが空に昇ってるというのに、あの
それが、とても価値あることに思えたのだ。
「よかったっスね、ロディさん」
「ああ。こんな場所で会えるなんてな」
生きていてくれたならいい。
美味い飯で、借金の事は忘れてやるとも。
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