第42話 ぼったくり、依頼品を見つける。
すっかり息が上がってしまったが、なんとか
そこまで恐ろしい相手ではないとはいえ、あの手の魔物は数が多い。
なにせ、元が寄生虫なので繁殖力が高いのだ。
「とりあえずは『赤竜胆』はよし、と」
薬草採取用の保存袋に根ごと引き抜いた『赤竜胆』を収納する。
この珍しい花は根、葉、茎、花弁にそれぞれ別の薬効があり、魔法薬にする場合は欲しい効果に合わせた部位を使い必要があるので、丁寧に全部持っていく必要があるのだ。
「さて、お次は『竜燐茸』だが……近くに在るはずなんだよな」
『竜燐茸』が自生するのは竜化石の上か、すぐそばだ。
あれは、竜の肉から発生する竜燐という物質と
強いて言えば『魔力残滓の結晶』だ。
アタニスの迷宮でも深層で稀に見つかることがある。
それに
寄生虫が宿の主から出て生育するには、それなりの条件があるしな。
「……」
魔法の灯りで周囲を照らしながら、注意深く地形を観察しながら洞窟を歩く。
そして、とある一点でようやく俺は探すものを見つけた。
……竜化石だ。
かなり老齢の竜だったのだろう。
相当に大きい。スケールが大きすぎて、それが竜化石だとわからないくらいに。
「『竜燐茸』はあるかな……っと」
足元に警戒しながら、すり鉢状になった部屋の中へと降りていく。
幸い、この辺りは液状化していない。
「シイイイイイイィィィィ」
……それ以外の危険にも、気を払うべきだった。
どうやら俺は、たった二週間で些かポンコツになってしまったらしい。
頭上から落下してくる白い巨体を、間一髪で跳び退って避ける。
「おいおい、勘弁しろよ」
逃げようにも上るには少々手間がかかる。
まるで円形闘技場に放り込まれた剣闘士の気分だ。
「原生動物との戦闘は、特に予定してなかったんだがな……!」
素材採取なんてものは、さっと行ってさっと帰ってくるものだ。
わざわざ戦闘する奴は二流、三流などと思っていたが……今の俺はそういった手合いらしい。
はぁ、少しばかりショックだ。
なんだか、一気に老け込んだ気分だ。
「シィー! シッシッシ……」
「俺なんて食っても美味くないぞ。お前も美味かないけどな」
ヤージェの食堂なら、こいつもおいしく調理してくれるんだろうか。
興味はあるが、まずはここを切り抜けないと話にならない。
戦闘の腕まで鈍ってないことを、ここで証明しなくては。
「それじゃあ、やるか」
軽くそう独り言ちて、俺は腰の
◆
「やれやれ、ちょっと手間取ったが……こんなもんだろ」
横たわる二体の『
まさか、もう一匹降ってくるとは予想外だったが何とかなった。
「こいつもまぁまぁ貴重な素材だ。少しばかりいただいていくか」
粘液は、治癒効果や保湿効果があり、そのままでも薬品加工しても使えるし、よく伸縮する頭部の皮は裂傷などに対する高級な保護材としても使える。
また、肉そのものは食えた味ではないが、心臓は強壮薬の材料として取引されており、かなりの高額で取引される素材なのだ。
「よし、よし……っと」
手早く解体して、有用な素材を集めていく。
この得体のしれない
斃してしまった以上、きちんと活用するのが冒険者の嗜みだ。
その糧を無駄にするわけにはいかない。
「──ん?」
しゃがみ込んで解体していると、視線の先で何かがきらりと光った。
青緑の小さな輝きだ。
視線から外さぬよう、静かにそちらに向かって歩くと……床に埋まった竜化石から半透明の結晶が伸びていた。
間違いない、『竜燐茸』だ。しかも、かなり高純度なもの。
「あった……!」
無事に見つかったことに、安どの息を漏らす。
見つからないときは見つからないからな、これ。
竜化石の上にできるとは言っても、どこで結晶になるかなんてわかったもんじゃない。
下手すりゃしばらくここを彷徨うことになるところだったのだ。
「これで依頼品の採取は終わりだな」
そして、一息ついてから俺は歩いてきた方向を見返す。
かなり深くまで潜ってきてしまったので帰るのも一苦労だ。
不注意と迂闊を続けてしまった手前、帰りは特に慎重にならなくてはなるまい。
採取依頼というものは、依頼品を依頼者に渡してようやく完了なのだから。
「よし、行くか」
そう独り言ちて、すり鉢状の部屋を後にする。
来た道は覚えているが……登りとなるとまた少し様相が違って見えるな、ここは。
竜の棲家に入る機会など、そうはない。
主不在で危険は少ないとはいえ、それでも命を失う覚悟で来るべき場所だ。
おそらく、大量の財宝が残されているのだろうけど……探す気にもなれない。
一刻も早く帰りたい気持ちでいっぱいだ。
「もし」
そんなことを考えている俺の背後から、誰かが声をかけてきた。
ありえない。こんな場所に人語を話し物などいるはずもないし、いたとしてまともではない。
だいたい、今の俺は複数の隠匿魔法で姿を眩ませているのだ。
見えるはずない。おそらく幻聴に違いない。
「もし? そこなお人」
……どうやら、幻聴ではないらしい。
覚悟を決めた俺は、そっと背後を振り返った。
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あとがき
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本作はカクヨムコンに挑戦しております!
今年も一次突破を目指してまいりますので、
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