2-5

 私達は二手に分かれて、襲撃してきた人形達の大群に飛び込む。数はおおよそ百体くらい。色や形については多少の違いはあるものの、作りはほぼ同じだ。量産型だろうか。


 頭を蹴り飛ばし、背後から刃の腕を振り回して来た人形の攻撃を避け、しゃがんで人形の顎から頭上に向けて槍を突き上げる。罅が入り、無残にも砕けて砂と化す。


 声も発さず、操り人形の如く淡々と動き続けていて、攻撃のパターンは全て同じ。彼ら人形に意思が無い事は確かだ。


 しかし、戦力としての兵器になるには弱過ぎる。もしもこの兵器を評価するならば、最低ランクの称号が与えられるだろう。これでは戦力どころか、ただの足手まといになるばかり。果たして誰が……。


 木の人形は思いのほか脆く、ものの数分で片が付いた。私達の足元に砂地が広がり、炭となりつつある薪の炎は消えかけていた。気配すら感じない不気味な月光の下、私達は馬に跨る。


「できれば夜に行動はしたくないが、これも仕方がない事。きっと再び人形達は襲撃してくる。一秒でも早く任務を終わらせて、殿下に報告しなければならん。行くぞ、ヨエル」


 馬が嘶き、土埃を舞い上げて走り出す。夜中はまだ肌寒く、受ける風が冷たく感じる。吐息も多少白くなり、春になりきらない中途半端な季節である事を告げている。まだまだ先は遠い。


 休憩を挟みながら走り続ける事、数時間。日が昇り、丘の上から数キロ先にベクの村が見えた。昼前には到着するだろうと、息つく間もなく馬を走らせる。


 こんなにも急ぐ理由として挙げられるのは、早く殿下にお伝えしなければならない重大な報告がある事と、襲われた人形達に位置を特定されないためである。満足に睡眠も休息も取れていない今の体では、万が一の事も考えられる。できれば戦闘は避けたいというのが本音だ。


「思ったよりも小規模な村だな。何もない平凡な村に見えるが……」


 ヨエルは馬から降り、付近の柵に綱を繋げる。私の馬も隣に待機させ、二人で村へ足を踏み入れた。


 数戸の石造りの家が立ち並び、穏やかな空気が漂っている。小さな子供達が笑顔で走り回っていて、私達が求める平和そのものだった。この村がユルゲンと関係があるなんて微塵も思えない。


「やはり、殿下の思い違いじゃないのか? 何も見当たらない」


「そうだな」私は辺りを見回す。「子供と、畑と風車と、のどかな空気。しかし、少々血生臭いな。鉄の臭いとでも言うべきか。完全なる平和っていうわけではなさそうだぞ」


「それは近くの戦場から漂ってきたものじゃないのか? 別に血みどろの風景は――」


 そこまで言いかけた時、彼は何かを察して私を引っ張り、建物の影に身を潜めた。


 何事かと思えば、気付かぬうちに子供の姿が消え、不気味なほどしんとした静寂がこの空間を包む。同時に一層強まる血の臭いと、複数の馬の足音。


 私達の目線の先に現れたのは、シモンが言っていた輸送用大型馬車の姿だった。ユルゲンの紋章である牙を向いた黒い狼が、きっちりと馬車の胴体に刻まれている。間違いない。

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