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敵陣に突入してから推測できた敵数はざっと二百はいただろう。しかし、まだ後方に三百程度は待機しているに違いないと、私の勘がそう強く言っている。
私達の部隊人数は百人ちょっとで、戦力的、人数的に圧倒的不利だった。その差を埋めるのが私達竜騎士の役目である。単騎で敵を蹴散らし、少しでも相手の戦力を削って差を縮める。
命懸けの仕事であるが、私はクレイグ大公殿下に一生の忠誠を誓った身。弱音など吐いている暇は一秒たりともないのだ。
「“黄金色の竜”が突破してきたぞ! 構えろ!」
誰かが私の異名を口にした。そう、私には知らず知らずのうちに二つ名がつけられていた。黒煙や砂埃が舞う戦場でも一層目立つ金髪が由来となったようで、“黄金色の竜”と呼ばれているのだ。竜の部分は私が竜騎士であるから、そこから取ったのであろう。
異名とは案外由来が単純であるが、時には名前だけで相手を震え上がらせる武器にもなる。便利であると同時に、名が知れ渡ってしまった私に隠れ場所などもうないのだ。
大人数に囲まれて槍を振り回していると、奥から漂う火薬臭が一層強まり、爆音が空気を振動させて響き渡った。上空から降って来た砲弾が付近で幾つもの爆発を起こす。本格的な砲撃が始まり、後方も騒がしくなったのでヨエル達も敵部隊と接触したようだ。後はただ敵を滅多切りにし、完全なる勝利に向けて槍を振るうだけである。
幸運にも順調に敵数は減り、相手は撤退を始めた。我々の勝利だったが、それでも私は攻撃を止めない。少しでも敵兵を減らさなければと、それだけを考えていたからだ。
背を向けて走る敵兵の背後から襲い掛かると怯えた悲鳴が上がる。
更に進むと、敵部隊の部隊長らしき人物を発見した。あの指揮棒は間違いない。あの男さえ殺せば撤退中の部隊は大混乱に陥る事間違いないだろう。私は雨で返り血が流れ落ちた刃を向け、猛スピードで部隊長の男に突進した。
それは見事に肉塊の串刺し棒だった。腰から脊髄を貫いて胸部に刃を突き上げ、白目を向いた男が私の槍に貫通したままぶら下がる。傷口から流れ出る血液が棒を伝い、私の両手を赤く染め上げる。けれど、それは弱まる気配を見せない、叩き付けるような雨が洗い流す。
私は槍を振り、邪魔になった肉塊を投げ飛ばした。鈍い音を立てて地面に落下し、衝撃で首が捻じ曲がってしまった顔が私に向いた。それはもう酷く醜かった。
虫の居所が悪かったのか、その哀れな顔が私を馬鹿にしているように見えてしまい、腹が立って死体に止めを刺すため近寄った。ぬかるんだ地面を歩き、足元を泥塗れにして後一メートルという時に差し迫った瞬間、どん、と私の体に何かが当たった。
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