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 それから殿下が城内の兵士達を全て大広間に招集し、私が戻って来た事を伝えた。


 やはり皆、最初は驚きを隠せない様子だったが、後から歓喜する者や、号泣して誰かに慰められる者、笑顔で私に話しかけてくる者がほとんどだった。


 ただ一人、浮かない顔をするのは我が父、ガルシアだけだった。父は息子の帰還に喜ぶ事もなく、表情を変えずに大広間から立ち去った。どうもそれが気にかかり、気が気ではなかった。


 その後は私と殿下とヨエル、大臣のシモンの四名で大公の間にて話し合った。


 私は包み隠さず全てを語った。密林での戦闘、死んだ時、その後に契の神殿という場所へ行った事、死神の王と話した事、私が受けた依頼の事、死神の掟の事など(ファビオの事については触れていない)偽りなく彼らに話した。


 皆、私の非現実的な話を沈黙したまま耳を傾けて聞いていた。


 とにかく、話す事がありすぎたため、一切私情を挟まずに私は淡々と口を動かし続けた。後半になると私自身、何を喋っているのか分からなくなりそうになった場面が幾つかあったが、なんとか無事に今までの出来事を話し終えた。


 三十分……いや、一時間はかかっただろう。よく飽きずに聞いていられるなと、私は感心していた。


「死後の世界とは大変なのですな……」大臣シモンが溜め息混じりに呟いた。「全て架空のものだと思い込んでいましたが、まさか本当に実在するとは驚きです。やはり死なねば分からないようですね」


「まあ、アリウスが魂だけの状態であれ、帰還した事は嬉しく思う。しかし、この事が他国に知れ渡ると非常に不味い。今の世間は黄金色の竜が死んだと大騒ぎしている頃よ」殿下は続けた。「いかにしてアリウスの存在を知られず、かつ姿を見せないか……これが今考えるべき問題だ。アリウス、お前であればこの問題をどう解消する?」


「私は今、実体化している状態なので、通常の魂だけの状態になれば生きている人間からは見えません。けれど、中には霊感を持つ人間も居るようで……霊を見たり、感じたりする事が可能なのです。そのような者が居ては、例え私が姿を隠そうとも、気配はおろか、姿まで知られてしまうでしょう。いや、見たとしても黄金色の竜が化けて出たと捉えるのが一般的だと思われますが」


「ふむ……姿を消せるのは最高の武器だが、わしらが見えなくては部隊と共に行動させるわけにはいかぬ。どうしたものか。誰か城内に霊感がある者はおるか?」


 私は返答に困った。


 何百何千といるドミンゴ兵士の中から、私が見える霊感を持つ者を探し当てるには、とてつもない時間を費やしてしまう。それではただの時間の無駄に過ぎない。


本当ならヨエルに強い霊感があれば良いのだが……そんな都合の良い事が起こるわけない。

 私が頭を悩ませていると、ヨエルがぽつりと呟いた。


「アリウス、ちょっとその実体化を解いてくれないか。もしかしたら――見えるかもしれない」


「どうしてそう言い切れる?」


「俺の祖父が強い霊感を持っていてさ。……俺も少しかもしれないが持っているかもしれないだろ? 親父は欠片もなかったが、こればかりはやってみなきゃ分からない」


「……仕方ない。なくても怒るなよ」


 私は息をゆっくり吐き、すっと体が軽くなる。


 途端に殿下達の視線が泳いだ。浮遊霊と化した私が見えていない証拠である。殿下とシモンは全く違う場所を見回しているが、ヨエルだけは確実に私の姿を捉えていた。目線が痛いほど向けられる。上出来だと、私は心の内で歓喜した。


「ヨエルよ、見えるのかね?」


「ええ、見えます」彼は殿下の問いに苦笑しながら答えた。「この目ではっきりと」


「これは驚いた。まさか本当に見えるとは……いや、見えて好都合だ。アリウスはきっと、他者が霊を見る事ができるとなっても、その者と組むのは絶対に嫌だと断固拒否するだろうしのう」


 殿下の言葉は図星だった。私はヨエル以外の者と手を組むなんて考えられない。彼と共にいるからこそ、私の力は発揮されるのだ。これは絶対的信頼から生まれるもので、私は知らぬ者と一から信頼を築き上げるなんて正直御免だ。そんな時間と体力があるなら、私は例え見えなくても彼と組むであろう。

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