2-3

「では、殿下」再び私は実体化する。「ヨエルと行動を共にしてもよろしいでしょうか?」


「うむ。元々、お前達は何が何でも一緒にいたからな、今更になって引き離すにも無理だろう。許可する」


 すると、ヨエルは私の背中を笑顔で叩いた。突然の事で私は体勢を崩して倒れそうになったが、何とか足を前に出して体を支える。


 しかし、私は苦笑いするだけ。どうしても彼は憎めない。喧嘩して傷だらけになっても、冗談で殴られても、何故か許せるのが不思議でたまらない。きっと、ヨエルには許してしまう何かがあるのだと思うが、私にはまだ分からないのだ。まだ私は、彼の全てを知らない。


 ふと、そう考える時があり、その時はとても気分が落ち込む。それは悔しさからくるものなのか、私自身でもこの感情がよく分からず、ただ、私は彼を知ろうと必死である事は確かだった。


「そうと決まったところで、早速、お前達に仕事を与える。内容はとある村の偵察なのだが、メンバーはお前達二人と、ガルシアの三人で向かってもらおうと考えておる」


「父も一緒に、ですか?」私は言い訳を考えて反論する。「主力人物が国から離ては危険です。偵察程度でしたら、私達で十分だと思うのですが……」


 しばらく考え込んでから、殿下は何度か頷いて口を開いた。


「そう言うのであれば、ガルシアを残そう。しかし、細心の注意を払うのだぞ。耳に入った情報によると、その村はユルゲンと関係を持っているようなのでな……」


「ユルゲンと、ですか?」


「ええ、そこからはわたくしめが説明いたしましょう」


 シモンが口を挟んだ。


「そこはベクの村で、我がドミンゴ国から南東へ五十キロ程度行った場所にあります。ヨエルさん達には馬で向かってもらいますが、多少離れた場所を拠点としてください。ベクの村にはユルゲンの輸送用大型馬車が出入りしていて、あまり近過ぎては怪しまれる一方です。村自体にユルゲン兵は居ないという事ですので、相手の馬車に近付かなければ大丈夫でしょう。少々危険が伴う任務ですが、もしかしたらユルゲンの機密情報を手に入れられるかもしれません」


「という事だ」殿下はヨエルの右肩に手を置いた。「城の裏にはもう二頭の馬が待機しておる。無理せず、必ず生きて帰って来るのだぞ。ヨエルまで死んでしまっては、わしが耐えられんしのう……」


「冗談はお止めください、殿下。それでは行って参ります」


 ヨエルがそう言い、私達はクレイグ大公殿下に一礼し、城の裏口から外へ出る。


私は墓地へ寄って槍を引き抜いてから向かう。殿下が仰られた通り二頭の馬が用意され、私とヨエルは馬に跨り、手綱を引いてドミンゴを出発した。

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