第三章 全てが激動する
3-1
「平和なんて表の顔、裏は人形兵器の工場か……!」
ヨエルは歯を強く食い縛って憎悪を込めた言葉を漏らした。
私達の視界に広がる光景。そこには、白く血の気のない傷だらけの人間を一人ひとり、腹を裂いて丁寧に内臓を取り出す作業を淡々とこなす村人達の姿がある。
既に血抜きはある程度終えていたようで、取り出された内臓類はべちゃべちゃと音を立てて樽の中へと放り投げられる。
どうやら元となる人間達は、戦場で命を落とした用のない兵士であった。または戦争に巻き込まれた罪なき国民。老若男女問わず、村人は容赦なく腹を裂く。例え身ごもった妊婦であっても、胎児は不要な内臓と共に廃棄されていた。
彼ら村人には感情がないのか? よく平気で人間を食材のように扱えるなと、感心している一方で私の心に怒りの火が点いた。沸々と沸き上がる憤怒を、私は制止できるだろうか。
血抜き、内臓摘出を終えた人間達は、次の工程へと移された。
私達も存在を気付かれぬように忍び足で人間を追う。
長く、分厚い刃物を手に持つ二人が台の上で何をしたかというと、それは正常な人間がする行為ではない、とだけ断言しておこう。彼ら村人はその刃物で死体の皮、肉を全て剥ぎ取り始めた。その手際は良く、ものの数分で一体の人間は何も残っていない白骨と化してしまった。
多少の肉片を付けた骨は、近くの別の台に移され、粘土のようなもので彼らは骨を覆い隠し、型にはめて人の形を作る。
その瞬間に私とヨエルの目が合った。ようやく理解できた。あの粘土の色、形、私達を襲撃した人形とそっくりではないか。
そして、ここで確信する。あの人形達の元は用済みの死体であり、人間の手によって蘇った操り人形なのだと。人の形をし、本当に人が入った玩具、兵器。
私はこの現実を受け止められなかった。無理だ。私が戦場で殺した人間達も、彼らの手によって人形になっているというのか? そう考えるだけで私の両手が恐怖を覚えるほど震え、更なる怒りが込み上げる。
「今回は駄目だぞ。抑えてくれ……あくまでも偵察が目的だからな」
ヨエルの表情にも怒りが浮かんでいた。私と同じ思いなのだろう。とはいえ、ここからどう脱出すればいいのか、私達は頭を捻らせた。
今のところ、把握している出入り口は一つだけ。探せば見つかるかもしれないが、迷ってしまったら元も子もない。ここに居座っていては、村人達に発見されるのも時間の問題である。私が実体化を解いて工場内を歩き回ればいいという提案もあるが、霊感がある者が居れば意味を成さない。
さて、どうするべきか……良い案が思い浮かばない。
「アリウス、見ろ。あの男が来たぞ」
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