2-6
「あの馬車から血の臭いが漂ってくるな。……誰か出てきたぞ」
私が指差す先に村長らしき人物と話す、白い男が居た。腰まである白髪、肌も雪のように白くて、唯一色が存在するのは貴族のような服装と、劫火の如く赤く燃え滾る瞳だけである。
私にはあの男に見覚えがない。ヨエルにも小声で聞いてみるが、知らないと言う。しかし、あの馬車と共に現れたのだから、ユルゲンの人間である事は間違いないが、一体誰だ? あんな血生臭い馬車を率いて何をしに来たのだろうか?
しばらく黙って傍観していると、馬車の中から黒いシートがかけられた箱が何名かの手によって、村の地下へと運び込まれる。
その時、私とヨエルは目を裂けんばかりに見開いた。なんと、箱から人間の腕が垂れ下がっているではないか! どういう事だ。あの箱には人間が入っているのか? 完全に私達は動揺していた。
「……五○……人形に……」
微かに聞き取れた男の言葉。数字を表すだろう“五○”の言葉と“人形”の言葉。五十とは、あの幾つもある箱に入った人間の数だろうか。それと人形がどう一致するのか予想すらできない。まさか……まさかとは思うが、あの人間を人形にしているのか? この村で一体何が行われているのか。
「これは調べなければいけないな。でもどうやって地下に潜り込む?」
「……あの箱に紛れ込もう。ほら行くぞ」
私はヨエルを引っ張り、ユルゲン兵に気付かれぬよう最後に残った箱の中へ侵入した。視界が一気に暗黒に包まれ、触れている全てがひんやりと冷たく、気持ち悪い感触だ。
息を殺して待機していると、箱がガタンと動き、誰かの手によって運ばれた。すると、突然鼻を突くような猛烈な異臭に私は顔をしかめた。酷い腐臭だ。戦場で血を撒き散らすよりも強烈な刺激臭。
再び箱が乱暴に揺れて、足音と気配が遠ざかった。私はシートの隙間から外を覗き、誰も居ない事を確認してからヨエルと共に箱を出て、高く積み上げられたふるい巨大な木箱の影に隠れる。明るみに出たヨエルの顔は異臭で歪んでいた。
「吐き気が……一体何をしているんだ? どうやったらこんな悪臭が発生――」
彼の口が止まった。私は彼の目線の先へ視線を移してみると、驚愕せずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます